成り代わり | ナノ
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毒虫少女に恐れる



そろそろコイツをどうにかして欲しい。

「伊賀崎っち!」
「しつこい」

黄瀬(…ウザくて覚えてしまった)が、私に変な宣言をしてから数週間。毎日毎日話し掛けてきて、ますますウザい。なんなんだ。こんな面倒くさい奴とか忍術学園にも居なかったぞ、初めてだ。
あ、いや、花房牧之介がいたな。戸部先生はこんな気持ちをしていらっしゃったのだろうか。

「伊賀崎っち〜」
「消えろって言ってるだろ、お前の理解力はどれだけ低脳でお粗末なものなのだ」
「なんでそんな酷い事を言うんスか!!」
「お前がウザいからに決まってるだろ」
「だったらメアドくらい交換してください!」
「だったらの使い方がおかしい。日本語を勉強し直せ。それと、私はお前のメアドなど知りたくもない」

お前とメアドを交換する気もない。私の携帯に黄瀬の名前があるだけでも気分が悪くなりそうだ。
それよりも先にあの子達のメアドを入れたいんだ。家族と、あの子達と、もし会えたら先輩や後輩のも欲しい。
黄瀬のはたとえ交換することになっても、その次くらいだ。

「い、伊賀崎っちぃぃ…」
「泣くとかウザイしみっともない。男児がそう涙を流すとか、ふ抜けた奴だな。さっさとどっか遠くにでも行、!」

カサリ、と靴箱に入っていた手紙。いや、手紙でもないほど、適当なもの。

「…」

一瞥してみれば、二つ折りにされた真っ白な紙に一言だけ書かれていた。
恋文、でもなさそうだな。
近くに感じる殺意が籠った視線からして、真逆のようだ。まだ隣にいる五月蝿い駄犬にバレないように懐に文を入れて、私は駄犬より先に教室へ向かう。後ろからギャーギャー喧しい駄犬が何か言っているが無視。
黄瀬が背後にいないのを気配で確認し、私は懐に収めた文を見る。

「……(昼に裏庭、か)」

嗚呼、まこと面倒な事が起きた。
小さくため息を零して、バタバタと騒がしい男に足を引っかけてこけさせた。
ハッ、ざまぁみろ。



「アンタ何様なのよ!!」
「黄瀬君と仲が良いからって調子こいてんじゃねぇよブスッ!!」
「ふざけてんじゃねぇよ!!」
「…(興味無し)」

昼休み。
昼食を取った後、言われた通りに裏庭に行けば、数人の女子生徒が仁王立ちで待っていた。顔は知らないが見覚えのある気配と思えば、今朝の殺意が籠った視線を私に送っていた女子生徒達であることを思い出す。
暇な女達だな。

「ちょっとアンタ聞いてんの!?」
「無視してんじゃねぇよッ!」
「五月蝿い」
『ッ!?』

感情を入れず、淡々とした口調で私はそう言った。瞬間、女子生徒達は肩をびくつかして目を丸くした。
たった一言で、そのように怯えるなんて情けない。

「……聞いてるもなにも、何故私がお前達の話を聞かなければならないのだろうか。勝手に文を送り、こちらの都合関係なく呼び出すその態度に、私が優しくするわけがないだろう」

もともと、ジュンコに会いたいから今日は昼で早退しようかと思っていたのに、呼び出しもあって帰れなくなったんだ。なのに、何の話かと思えば、あいつに関わるなというのか。
面倒だ。いっそのことこのまま帰ろうか。

「私が何をしようと自由だろ。お前達が私に命令する権利は無いのだから」
「だからって…アンタ人を待たせてんじゃないわよ!!」
「待たせる?何を言っているんだ」

逆切れした女に私は朝受け取った文を見せつけて言った。

「この手紙には“昼に裏庭”という言葉だけであって、時間は記されていなかった。そして送り主の名も無い。筆跡から誰か書いたのか知る事等容易いが、命令されたどこかの誰かも知らない奴を調べるのは面倒。たとえ昼休憩であろうと、私の昼食時間を邪魔されるなんて腹立たしい。お門違いではないのか?」

私は人を待たせてなどいない。
そう言えば、カッと顔を赤く染めた女子生徒達。現代の知能指数はとても低いようで嘆かわしいものだ。あの頃の者達ならば、ちゃんと書くというのに。
小さくため息を零し、私から本題に入った。

「それに、他人が自分の好いている奴と仲が良いからと勝手に妬まれても迷惑なだけだ。その目はお飾りか?」
「なっ!!っ…この女、調子に乗りやがって…!!」

顔を羞恥と怒りで真っ赤に染めた女の一人が、私を睨む。だけど、怖くもない。蚊のような弱々しい殺気で、震え上がることもない。
失笑。

「……醜い表情(かお)だな。その顔であの駄犬に近寄れば?ま、私には関係のないことだがな」
「このブスが、ッ!!?」

私の言葉にキレたのか近寄ろうとした女子生徒共。だが、それは一歩前に出ようとしたところで止まった。
私の殺気によって。

「…動くなよ。一歩でもそこから動いてみろ。…私はお前達を赦さない」

ちょうどいい。
これが殺気だと、少しわかってもらおう。

「どうしたんだ?足が震えているぞ?」
「ッ…、い、行くよ!」

恐れをなし、女子共は逃げて行った。彼女達の気配が裏庭からかなり離れた所になってから、私は殺気をおさめて地面を見た。
そこには…

「…大丈夫だよ」

必死に餌を運んでいる蟻達が列を成していた。

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