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不運少女と誠凛バスケ部



桜が散り始めたある日の事。

「保健委員はいるか?!」
「は、はい!」

近いという理由で誠凛高校に入学した私、三反田千遥は、変わらない不運をもって保健委員会に入った。いや、別にこの学校の保健委員会も不運の人達が集まるわけじゃないけど、皆率先してやろうとしなかったし…。そして白羽の矢が立ったのは私だから、まぁ不運で入ったようなものだった。
でも、別に嫌では無かった。

「僕は善法寺伊作。ようこそ、保健委員会へ!」

だって保健委員会は私の大事な居場所の一つだから。
懐かしいあの頃を思い出したら、笑いがこみ上げる。暇があれば、たとえ担当の日じゃなくても、こうして私は毎日保健室に居座っていた。それにしても、この時代の保健委員会というのは、自分達で薬草を煎じたりしないようだ。あ、違うか。医療が進歩したから、自分達で薬草を煎じたり、薬草を集めにいったりとかしなくてもいいほど、薬や医療機関が発達しているんだよね。
あの頃とはまるで大違いだ。
なんて、思っていると、保健室の扉を壊す勢いでやって来たのは体格のいい、身長が高い男子生徒だった。あまりの気迫に、声が裏返ったけど返事はした。
はずなのに…。

「?…ん?」
「……あの、此処に居ますけど」
「…、…うぉッ?!」

相変わらず存在は薄いみたいです。
存在が迷子な自分に呆れつつも、慌てた様子で入ってきた不思議な眉毛をした男子生徒を見る。男子生徒は、申し訳なさそうに下がり眉になっていて、本当に悪気はないようだと分かった。

「わ、悪ぃ。全然気付かなかった…」
「だ、大丈夫…慣れてるから。うん、これが初めてでもないしね…」
「(く、黒子みてぇだな…)って、そうじゃねぇ!!アンタちょっと来てくれ!部員が倒れた!」
「なんだって!?分かった!!すぐに行、っと、わっ、ひぎゃ!!」
「どわぁ!!?」

男子生徒の言葉に用意していた救急箱を持って向かおうとしたら、椅子にひっかかって転けてしまった。しかも男子生徒を巻き込んで。

「ご、ごめんなさい!大丈夫?!」
「ぉ、おう…大丈夫だ…」

何回か転けたりして私と男子くんは体育館へ着く(いや、穴がないだけ嬉しいんだよ?!)。館内に入ったら倒れてる男子がすぐに目に入った。
彼が倒れた部員だと瞬時に分かった。

「保健委員連れてきたぜ!…です」
「ありがと、火神くん!保健委員さん、この子なんですけど…って、あれ?」
「熱中症とオーバーワークですね。応急処置もちゃんとしてくれているので、すぐに意識は戻りますよ」
「え?!いつから其処に!!?」

私がいつの間にか患者のもとにいたことに部員の人たちはびっくりしていた。
気にするな、千遥。慣れているんだ、大丈夫だ。
心の中で泣きながらも、的確な応急処置をしてもらっている男子の容態をちゃんと確認する。それにしても私が居なくても別にすぐに目を覚ますような状態で、今時の子でもやればできるんだな、なんて思ってしまった。

「処置をしたのは誰ですか?」
「あ、私よ」
「的確で素晴らしいですね。あとは彼を風通しの良い場所へ運んで下さい」
「分かったわ」

と、私の指示に従ってくれる方々に礼をいい、私は彼の疲労をなくすために軽くマッサージした。おおう、この子あんまり筋肉ないぞ。それなのによくバスケ部に入ろうと思ったな…。
と、彼の体格に興味を抱く私の様子に…

「…あの子、」
「どうかしたか、カントク」
「医学の心得、ちゃんと会得してる」
「…すげぇな」
「(それだけじゃない。あの子、体力、脚力、瞬発力、その他諸々…)火神くん以上だわ…」

バスケ部カントクは目を丸くしていた。

「これで、大丈夫ですよ。冷たい飲み物よりも、温めのを彼に飲ませてください」
「ええ、分かったわ」

そう言って私に近付いたのは女子生徒。
あれ、確かこの人、入学式で在学生代表で話をした人じゃなかった…?
見覚えのある人だと思っていると、彼女は突然私をじっと見てきた。まるで何かを調べているような目だ。そのただならぬ気配に思わず身構えてしまったが、それは一瞬の事。何かが分かった彼女は、一変、目をキラキラと輝かせて私と目を合わせた。

「ねぇ、あなた。名前は?」
「え?!さ、三反田…千遥です」
「ねぇ、三反田さん!」
「は、はいぃ!」

ガシ、と肩を掴まれる。何事だと、他の部員さんも驚き、私も驚く中、彼女は言った。

「バスケ部のマネージャーに、ならないかしら?!」
「……へ?」

突拍子もない言葉に、私は目を点にした。
それからというもの、私はバスケ部監督さんの相田先輩にバスケ部マネージャーに勧誘され続けた。何でも、私の医学知識と、その並々ならぬ体力とか脚力とかの鍛え方を知りたいだとか。
私は最初は断った。でも諦めの悪い先輩みたいで、せめて試合の時だけの同行を求められ、仕方なく了承した。
その時は、思わなかった。
後々、私の一生の親友達と会える場所だとは。

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