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「#幼馴染」のBL小説を読む
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01



四年生の第二の課題の様子を一通り見た三郎は、町外れの人気のない林のそばでくつろいでいた。とはいっても、忍者らしく木の上でだ。ざわめく木々の隙間から見えた日の光。すでに午の刻を通り過ぎ、未の刻を半刻過ぎていた。

「(四年生の課題の終了時刻はたしか、昼八つ刻だったな……)」

日の傾き様から見てまだ時間はありそうだと、三郎は心の中で呟いた。あれから兵助はまだ戻ってない。豆腐屋の傍を通ってはいないが、それほどまで時間がかかるものなのだろうか。三郎の休憩はまだなのだが、第二の課題中でもあってもはや休憩時間となっていた。しかし、あれからだいぶ経っていたから、そろそろ四年生が集まって情報を整理してもいい頃合いだ。何処で集まって行うかは分からないが、人気のない場所で行うのが定石というものだ。

「あ、そういえば…。まだ田村の課題がまだだったな」

第二の課題で忘れかけていたことを思い出し、三郎は第一の課題で田村だけがまだ行っていない事に気付く。バインダーを懐から取り出し、第一の課題の各忍たまの結果が綴る中、田村だけが空欄となっているのに目を向けた。
あれから何もしていない様子だから、まだ田村も課題をしていないと見ていいだろう。
あれほどまで頑なにまだしたくない、と言っていた田村。その表情は青ざめていて、難易度が高めのものなのかもしれないと、三郎は思い出し推測した。
その時だった。

「!」

ガサガサ、と近くの茂みが音を立てた。条件反射か、三郎はすぐに持っていたそれらをしまい、息を顰め気配を消した。周りに注意が散漫している様子だった。何かに対して必死に逃げようとしているような足音が複数聞こえた。鬱蒼と茂っている林は、昼間だというのに薄暗い。加えて、町から少し外れた場所であったから、好んで人が通るようなところでもない。
冷静に把握しようと、目下へ向けた三郎。

「(あれは…)」

五つの娘子が、後ろを警戒しながら走っていた。
否、自分達の後輩であり、今日の実習中をしている者達だった。何か失敗でもしたのだろうか、と思っている三郎だったが、五人の浮かべる表情が切羽詰まった様子だった。いや、何かに対し酷く恐れ、慌てている様子だった。
必死に慣れない恰好で四肢を動かし、走る彼らは異常事態が起きていると理解するのにそう時間はかからなかった。

「どうかしたのか、お前たち!」
「!ぁ、鉢屋せんぱ……!!」

声を掛けずにいられない三郎は声を上げ、彼らの視線を自分に向けた。頭上から声を掛けられるとは思わなかったのか、一瞬顔を強張らせた滝夜叉丸。しかし、相手が三郎だと思うと一変、安心したように表情を和らげた。
それでも緊迫とした雰囲気は変わらなかった。

「そんなに慌てて、何かあったのか?」

実習どころではなくなった様子の五人に、三郎や安心させるように優しく言った。しかし、三郎の言葉に安心するかと思いきや、再び表情が硬くなった。
珍しいと思えるほどのものだった。
三木ヱ門が、震える声で三郎の名前を呼んだ。

「は、鉢屋先輩…!」
「!?ど、どうした…?」
「たい、大変なんですっ!!」
「…どういう事だ?」

必死な形相で、何かを伝えようとする三木ヱ門。不安そうな表情を浮かべるのは守一郎とタカ丸。一方で、辺りを警戒するかのように、眉間に皺を寄せ殺気を放つのは喜八郎と滝夜叉丸だった。
何かが起きている。
三郎は彼らが危機的状況を迎えようとしているかもしれないと判断し、真剣になった。しかし、三木ヱ門は冷静になれていないのか、口を何度もパクパクするだけで声が出ていない。何かに対し震えているのか、掠れ声だった。

「落ち着け、田村。まずは冷静になれ」
「っ…ぁ、す、みま…せ…!」

肩に手を置き、深呼吸を一度するように言えば、三木ヱ門は一つ深呼吸をした。青白くなりかけていた顔色が、元に戻ったように見えた。
それを見た三郎はもう一度、三木ヱ門に尋ねた。

「それで、どうしたんだ。そんなに慌てて…」
「っそれが…!」
「落ち着けよ。順に追って説明してくれ」

それは自分も状況把握をするためだ。四年生は、どうやら三郎に対しての説明は三木ヱ門に一任するようだった。変わらず滝夜叉と喜八郎が辺りを警戒していた。
ゆっくりしている様子は無さそうだ。

「わ、私たち、それぞれ組に分かれて、第二の課題を行っていました…」
「ああ。私たちが監督だから、見ていた」
「そ、そうだったのですか…。えっと、それで…い組はお茶屋、ろ組はうどん屋、は組は長屋のほうへ行ったのですが……」
「ああ」

落ち着かせたはずの三木ヱ門だったが、だんだんとその顔色は再び青ざめていった。
い組がお茶屋で聞いた情報は、近々戦が起きるという話。その戦を起こそうとしているのは、此処ニセクロバリ城だと。今まで起こした事がないというのに、無血主義の城が何故、というものだった。
次には組が長屋にて主婦たちの井戸端会議で聞いたのは、戦を起こすことになった原因の可能性のもの。ニセクロバリ城が同盟を結んでいたとある城が、城内に住む者が城主含めて滅んだということ。それにより、同盟条約の一つである外国との外交から頂いた品々を受け取ることができなくなったそうだ。
そしてろ組が聞いた情報は、その目的だそうだった。領地争いか、という話がでて、一度は嘘の情報かと思ったが、どうやら違うということ。

「ニセクロバリ城が、戦を起こすのは本当のようで…!城には、すでに兵糧や火薬が手配されているとの事でした…!」
「!それは本当か!?」
「は、はい…!」
「それで、戦を起こす相手はどこなんだ」

その言葉に、三木ヱ門は口を閉ざしてしまった。ぎゅっと、下唇を噛みしめる三木ヱ門に、三郎は眉を顰めた。ふと、他の四年生を見れば、悔しそうに、何かに対して怯えそして堪えるように手を握り締めていた。
誰も答えようとはしなかった。

「っ、どうしたんだ。はやく言ってくれ!」
「…っ…そ、れが…!」

震えた声で必死に声を出そうとする三木ヱ門。
その時、三郎は違和感を覚えた。

「(なんだ…?手が……)」

ふと自分の手を見て、三郎は自分の目を疑った。
震えていた。
別段、寒くなどなかった。むしろ夏の時期、暑いほどだ。体温が冷えている様子もないのに、何故か手が震えていた。

「はち、や…せんぱ……!」
「!」

名前を呼ばれて三木ヱ門を見て、瞠目した。
今にも泣き出しそうな顔で、目いっぱいに涙を溜めて堪えていた。それでも、三郎に伝えようと必死に思いを抱いているのは三郎にも分かった。急かすように、三郎は三木ヱ門を呼ぼうとした。
しかし、それは第三者によって遮られた。


「―――君たちの学び舎だから、言えなかったんだ」


瞬間、体に重石が乗っかったような感覚に陥った。

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