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01



「【タソガレドキ軍忍隊の情報を入手せよ】……何コレ、面倒なだけじゃない」

夏休み。
杭瀬村に帰った恭弥は、(不本意でなった)育て親の大木雅之助と共に食事をとっていた。食事中は静かに食べる恭弥だが、今日から夏休みで帰還した際に渡されたそれを手にポツリと呟いた。恭弥が手にしていたのは一枚の紙。
それは夏休み中の課題だった。

「恭弥、それは夏休みの課題か?」
「まぁね」

雅之助の質問に流す感じに答えた。見たそうな表情をしていた雅之助に紙を投げ渡し、恭弥はご飯を食べる。
雅之助は紙の内容に目を通したあと、何かを思い出したかのように話す。

「タソガレドキ軍は今、オーマガドキ軍と戦をしているんじゃなかったか?」
「興味がないから知らないね」
「相変わらずだな、本当…」

我関せず、と態度を示す恭弥に雅之助は苦笑い。

「夏休みはいつまでだ?」
「一ヶ月くらいあったはずだよ。適当な時期に行けばいいさ」
「恭弥は本当に我が道を行くなー…」
「当たり前。…僕は誰にも従わないよ」
「…そうだったな。将来、恭弥は自分の軍でも作りそうだ」

雅之助の言葉に恭弥は箸を止めて、考える素振りをする。

「(誰にも従いたくないのは当たり前だ。将来、普通にのんびり過ごそうかと思っていたけど…)」

ふと、恭弥は元の世界での出来事を思い出した。そういえば、十年後の世界じゃ自分は『風紀財団』を設立していたはず。自分が当たり前にトップで、哲が補佐していた組織。自分のボスであろう沢田綱吉とは別の立場からボンゴレを補佐したもの。
哲は居ないけど、部下は勝手に集うだろう。

「…いいね」
「……は?」

ポツリ、と呟いた恭弥に雅之助はポカンと口を開けた。クスリ、とニヤリ、とも受け取れるような笑みをこぼして恭弥は言った。

「うん。雅之助にしてはいい考えだ」

その言葉に、雅之助は思い当たる事を理解して青ざめた。

「ちょ、恭弥、お前まさか…」
「僕だけの軍を作っても面白そうだね。この時代は勝手に作れるんだから」
「待て待て待て!冗談に決まってるだろう!?本気にするな!」
「なに言ってるの?僕は本気さ」
「っ…!!(やりかねん…!!恭弥ならば絶対にやりかねん…!!)」

怪しげな、企んでいる笑みを浮かべる恭弥に雅之助はただ冷や汗を掻く。
実際、恭弥は強い。
彼と初めて出会った時の事を思い出す雅之助。
恭弥は雅之助の親せきでも何でもない。雅之助がまだ忍術学園の教師をしていた頃、杭瀬村の近くの山奥で出会った子供なのだ。自分を襲ってきたのであろう山賊達を虫の息同然まで容赦なく攻撃(咬み殺)し、山積みにしていたのだ。
孤児だろうと都合よく勘違いしてもらい、恭弥は雅之助に世話をしてもらうようになったのだ。
そんな男が率いる軍が出てくれば、世の中はいっきに狂うのは間違いなかった。『忍術学園一強い男』と通っている彼の肩書きは、各地方の城にも耳に入っているのは雅之助も知っていた。
ここは話を変えなければ。そう思った雅之助は恭弥に別の話題を出した。

「そ、それでだ、恭弥」
「なに?」
「夏休みの課題はどうするんだ?」
「報告書に適当に書くよ。見に行っても聞きに行ってもつまらないだろうしね」

上手く話を逸らすことが出来た雅之助。恭弥は気付いているのか分からないが、雅之助の話に答える。
今日はいつもより機嫌がいいようだ。

「それにしてもタソガレドキ軍の忍隊をとはなぁ…」
「なに?気になることでもあるの?」

恭弥の問いに雅之助は「いや、」とうやむやな返事をして、自分が持っている曖昧な情報を口にした。

「タソガレドキ城は戦好きの城として有名なのはもちろん知っているだろうが、タソガレドキ軍の忍隊と言えば、相当の手練れの忍が居ると聞いた事が…」
「それじゃあ今から行ってくるよ」
「…、…は?」

自分の前にいた恭弥はすでにおらず、入り口を見ればいつの間に着替えたのか、隠密用の忍服を着て支度をしている恭弥の姿が。
あまりの行動の速さに雅之助は目を見張る。

「お、おい…恭弥?行くって、」
「今から課題を片付けに行ってくるよ。それと、…咬み殺しにね」

得意武器である仕込みトンファーを出して口角を上げる恭弥。
雅之助は瞬時に理解した。課題と咬み殺しにいく割合は1:9である事を。
そしてもう何も言えない事を。

「じゃあね」
「あ、恭弥!」
「?」

名前を呼ばれ訝しげに雅之助を見る恭弥。雅之助は、恭弥が素直に自分のいう事を聞かないという事はすでに身をもって知っている。
なら、保護者という名を持っている自分はこう言うしかない。
雅之助は畑を耕す時の、いつも八重歯を見せて浮かべる笑顔で言った。

「怪我はするなよ!」
「!……するわけないじゃないか」

雅之助の顔を見ず、恭弥はそう答えて家を後にした。
恭弥を見送った雅之助は、恭弥が見えなくなった頃合いを見計らい…

「…すまない、雑渡昆奈門よ…」

と、今は戦場にいる人物に謝っていた。

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