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01



美しい三日月が淡い光を帯び、夜空を鮮やかに写す。しかし、それを覆うようにして暗雲が現れる。



ある者が問うた。

「何故我が城がこのような目に遭わなければならないのだ!」

ある者が答えた。

「あの城が落城してしまったのが原因だからサ」

またある者が声を荒げて言う。

「そもそもなんであの城が落ちたんだよ!」

ある者が冷めた声色で答えた。

「知るか。それだけの城だったって事だろ」

それに同意するかのようにある者が言う。

「てゆーかさ、なんであんな城と同盟を結んでたのかなー」

皮肉な笑いを洩らしながら、ある者が言う。

「うちの殿はバカだからねぇ。あの城と同盟して財政を賄ってたみたいなものだもの」

クスクスと笑いを洩らす。

「ってか、何して落ちたの?」
「興味無い」
「あーあれだって。例の外交の」
「……あ。アレか」
「ケッ。無様なモンだな!」
「ふふっ。ホントねぇ…。呆れたものよねぇ…」

怒り、呆れ、嘲笑が交ざり合うその空間で。

「――――…殿の侮辱はそこまでにしなよ。それよりも、お前ら」

今まで黙ったまま床に伏せていた者が、ゆっくりと起き上がり言った。

「命が下された」

その言葉に、空気が一瞬で静かになった。聞こえるのは、遠くから聞こえる怪しく揺れる木々の擦れ合う音のみ。
一人の男が言う。

「なにをするんだよ。俺は暴れたりねぇからな!」
「分かっている」

淡々とした口調で答えた男に、そっと一人の女が寄り添った。

「それで?どんな命令なの?」
「今から言う」
「あンっ」

女の腕を振り払い、男は立ち上がり窓辺に腰を据える。雲の流れが速く、月を隠したり隠さなかったりの繰り返し。
月を眺める男の瞳に怪しく何かが映る。

「といっても、まだ詳しい事は話さない。俺達に下された命はただ一つ」

風は吹き荒れる。

「我らに仇を為す者には“死”の制裁を」

我らの長を殺めんとするものは“死”の天誅を。
我らの政を阻もうとするものには“死”の報いを。

「我らの道を邪魔するものには、」

その命を以て償いを。

「ただそれだけ。さあ、始めようか」

我らの楽しい楽しい遊びの時間だ。

「そして会えるのならば……クフフ…」
***


「……」

夏休み明けの騒動が沈静化してから早一月が経った。あれ以来、特に学園が総出で出掛けることは無く、問題児達が時々トラブルを起こしているくらいだった。
時折見る姿は困ったように笑い、しかし楽しそうに過ごす姿。
呆れながらも、怒りながらも、無事だった姿に安堵する姿。
皆が、この箱庭での平穏を味わっていた。
そして、

「行くぜ!!」
「バッ、おいいっきに水をそんな使うなよ!」
「つめてーッ!!」

彼もまた通常運転で日々を過ごしていた。

「ねぇ、君達」
『!?』

静かな場所で有名な母屋の裏。
長月にも関わらず、暑さは夏とあまり変わらない。その為に忍たま達が求めるのは冷たい水。水を求める為には母屋の裏にある井戸水を使用する事でもある。しかし、最近は雨も降らない為に学園内では節水を心掛けている。
その中、水遊びをするというのは如何なものだろうか。
勿論それは風紀を乱す事に繋がってしまう。

「節水されているはずなのに、誰の許可を得て水を使用しているの?」

井戸の周りは一面泥状態。歩くだけでも、泥に嵌り滑りそうだ。
主に保健委員会委員長が。

「ひっ、ひば…、学級いいんちょ…さ…!!」
「こ、これはですね!そ、そのっ、えーっと…!!」
「おおおおオレ達…!」
「弁解なんて求めてないよ。君達は風紀を乱したんだ。そして、僕の前で群れている」

風紀を乱す者には制裁を。
それを理念とし、彼は日々を過ごしていた。
故に、彼は此処に現れた。

「安心しなよ。痛みは一瞬だ」
「ヒィ!!」

キラリ、と日に反射して光った彼の得意武器。
鋼鉄の棒は鈍く輝かせ、彼らの恐怖材料になった。

「い、委員ちょ…!」

弁明をしようが、理由を言おううが、事の発端を言おうが、何もかもすでに遅かったのだ。
彼に、言い訳など通用しない。

「風紀を乱した君達を、」

棒に反射した光が、彼の目元を妙に強調さて恐怖が増長する。
下されるのは制裁のみ。


「――――咬み殺す」


その後、水遊びをしていた忍たま達がどうなったかは言わずとも分かるだろう。
阿鼻叫喚が箱庭の一角で聞こえた上級生は悟る。

『(ああ、奴を怒らせたんだな)』

学園最強の男―――雲雀恭弥を。

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