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01



「それで、って…」

きり丸は恭弥が無情な反応をした事に目を丸くした。本来ならば、否、普通ならば怒りを露にして「そんなわけないだろう」等という言葉を口にするはずではないのか、ときり丸は思った。それは自分の委員長であれば、そして他の委員長や先輩であればそう言うと思っているからだ。ならば、恭弥も庄左エ門の委員会の先輩として、そのような言葉を口にしたり、何かしら反応をするはずではないのだろうか。
しかし、きり丸の予想は裏切られた。否、予想を上回る言葉を口にされたのだった。

「“此処に居る事=庄左エ門の様子を見に来た”という方程式はいつ定義されたんだい?資格とか、此処に来るまでに誰かに許可証を貰わなくちゃならないというルールはいつ決まったんだい?」
「っ」
「恭弥!!」
「風紀が乱れるから群れるなって言っているだけだ。伊作だって君達に言ったじゃないか。伊作は黒木庄左エ門のことを考えいた。それなのに、君達は自分達のわがままでここに滞在することを求めた」
「恭弥…!」

正論だった。
伊作が恭弥を呼ぶが、それ後の言葉が続かない。実質、伊作は庄左エ門の傷に障らないように、一刻も完治させて、彼らとまた学園での生活を楽しめるためにと思って言ったのだから。
それを分かっていたは組達も、反論する事が出来なかった。

「保健室の最高責任者は校医である新野洋一、そして保健委員会委員長だ。つまり、新野洋一や現保健委員会委員長である善法寺伊作の言われた事は必ず従うことというコトは、一年の入学当時から言われたはずだ」

それに、と恭弥はは組の一人であり、保健委員会所属である乱太郎に目を向けた。

「保健委員会所属である猪名寺乱太郎は、伊作から直々に言われなかったのかい?」
「恭弥、もういい」
「忍術学園に入学してから言われている事はたくさんあったはずだ。それをもう忘れたのかい?なら、君達は今すぐ長屋に戻って、その空っぽの脳味噌に叩き込みなよ」
「恭弥、!」

騒ぎを気にしたのか、他の忍たま達が集まってくるのに気付いた土井先生。伊作も友人たちが近づいていることに気付き、恭弥を止めようとする。しかし、それを無視するように、恭弥は光のない目で、は組を見るだけ。
彼が周りの気配に気付いていないわけがない。

「!」
「恭弥?」
「恭弥先輩?」
「恭弥先輩…、と…乱太郎達…?」
「っじゃあ!!アンタは何で、此処に来たんだよ!!」
「!」

不穏な空気であることに気付き、声を掛けようとやってきた忍たま達を遮るように、きり丸は声を荒げて言った。

「…君の耳はただの飾りかい?何度も言わせないでくれ。…風紀が乱れている。だから此処に来た」

ただそれだけだ。他意はない。
それ以外の理由で此処に来る理由は何もない、と口外に言っている恭弥。五、六年生は声には出さず、ただ恭弥がは組と口論しているということだけは理解した。矢羽音を送ろうにも、恭弥は無視をする。

「…先輩は、」
「!」
「…」
「雲雀先輩は…庄左エ門が心配で、来たわけじゃないの、ですか…?」
「乱太郎…」

じっと恭弥を見る乱太郎。その瞳にはわずかに希望が、自分が思っている事を恭弥が言ってくれることを望んでいた。
それを、

「君達は、もう昨日の記憶が無くなったのかい?」

彼は非情にも踏みにじった。

「“これは黒木庄左エ門の失態だ。僕がどうこうするようなモノでもないし、僕に頼むなんてお門違いだよ”」
「…え」
「っ恭弥!」

恭弥から発した言葉に、庄左エ門は目を見開いた。恭弥先輩が、そんな事を言っていたなんて…。知らない話、つまり、自分が人攫いにあっていた時の話だろう。その時に、そのような事を言っていた事に庄左エ門はただ驚く。は組はあの時のように、恭弥を見て固まっていた。

「恭弥、もうやめろ」
「伊作は黙ってなよ」
「っ…」

間髪入れずに言われた言葉。こちらを見た切れ長の瞳に、何も言えなくなる。

「いいことを教えてあげるよ、頭の弱い一年は組」

去る一歩間際、というように皆に背を向けた恭弥。
静かになる空気。
何も言えなくなる彼から発せられる気。
誰かが固唾を呑む。
そして、彼を知っている者達は、嫌な想像を抱いてしまう。
あの時のように。

「僕は救世主でも英雄でもない。それは君達の思い込みだ。勝手に僕の人物像を想像して、勝手に絶望して、勝手に落胆しただけだ」

その時、彼らは見えた。
六年生は、三郎は、勘右衛門は。
忍術学園の忍服じゃない、何かの衣服を着た恭弥を。
黒い、漆黒の服。
和服ではない、見たことのない形の服。
袖が細く、一定の位置に金色に輝く装飾された丸いもの。
そして、左肩から肘の中腹につけてある帯状で、金色で書かれている文字。
その文字に記されていたのは、

「(…風、紀…)」

彼が口にしていた、その言葉の頂点に君臨する長。

「僕は僕だ。誰の命令にも従わない。僕の邪魔をする者は、」

風が吹く。






「―――――何人たりとも咬み殺す」

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