01
忍術学園には、教育機関なだけあってそれなりの校則というものが存在する。
一つ、忍者の三禁(酒・欲・色)を犯してはならない
一つ、忍たまがくノ一教室に無断侵入してはならない
一つ、生徒は必ず委員会に所属する
基本忍術学園の校則は犯さなければ特に問題はない。
しかし、ひとつだけこの校則を犯した者はそれ相応の罰則を強いられる。
一つ、無断外出をした者は一ヶ月の謹慎又は遠征忍務、及び両方を科す
***
「…時間が惜しいな。さっさと行くよ」
恭弥は一度長屋に戻ったが、特に教師達が動こうとしていない事に嫌気が差して傍に居た二人に言った。情報はある程度三郎が収集したようで、詳しい事は向かいながら話すとのこと。
恭弥に従い二人も長屋を後にし、正門とは真反対の方向へ向かう。
正門には今も泣いているであろうは組達が群れている。その中何処かへ出かけるのは、ただの自殺行為とほぼ同じ。
恭弥口布を上げ、二人に矢羽根で合図を出す。
≪気配を完璧に消せ。少しでも気配を漏らしたら咬み殺す≫
≪御意≫
≪容赦ないですね、ホント…≫
≪勘右衛門、咬み殺すよ≫
≪すいません!≫
勘右衛門に一睨みさせた後、恭弥は完璧に気配を消した。恭弥に習い、二人も気配を消した。そのまま音もなく三人は屋根を伝い、塀を飛び越えようとする。辺りに誰かいないか確認し、恭弥は二人に合図をする。
≪……、先に言って≫
≪分かりました≫
≪……≫
≪…、勘右衛門≫
三郎は素直に従ったが、少し間を空けて言った恭弥が気になったのか、勘右衛門は黙って見ていたが恭弥にそれが通用するわけもなくしぶしぶであるものの塀を飛び越えた。恭弥も二人が向かったのを確認し、自分も行こうと足を一歩出した時だった。
「恭弥先輩ッ!!」
「……」
先ほどからバレバレであった小さな気配。しかし、気配を消していた自分をよく見つけたとも関心出来た。
恭弥はその者にばれない様に口布を外し、視線をやった。
そこにはもう一人の委員会の後輩が。
「…僕に何か用かい?―――彦四郎」
本当は三郎たちも気づいていたであろう後輩の気配。勘右衛門は気付いていたからこそ、あのような不満そうな表情をしていたのだった。恭弥に名を呼ばれた彦四郎は一瞬肩をビクつかせるが、ギュッと忍服を掴み自分に鞭打って言った。
不安そうな、心配そうな、若干目を潤ませた表情で。
「っ…、しょ、庄左エ門を…よ、よろしくお願いします!」
ガバリ、と頭を下げた。
彼も話は聞いたようで、自分も本当は行きたいのだろうが自分が居れば足手まといになるのは確実。だからこそ、このように頼むことしか出来ない。
恭弥は静かに彦四郎を見たかと思うと、ゆっくりと開口させた。
「……彦四郎」
「は、はいっ!」
「お茶請けをたぬき爺から貰いに行って来い。高級なのをおねだりしてね」
「!」
恭弥の言葉にいきおいよく顔を上げた彦四郎。その顔にはさっきのような不安はなかった。彦四郎の反応を知って知らずか、恭弥は続けた。
「貰ったら、お茶が点てれるように用意をして、…いつもの部屋で待っていなよ」
「!」
「…これくらい君にだって出来るだろ」
全員で帰ってくるから、無駄な心配はするな。
恭弥の言葉の裏に隠された意味だった。
「…はい!」
彦四郎はその意味を読み取れたようで、大きな声で返事をした。彦四郎の返事を聞いた恭弥はすぐに口布を上げ今度こそ塀を飛び越えていったのだった。
彦四郎は恭弥達の気配がすぐに消えたのが分かり、自分に任された仕事を遂行する為に学園長の庵へと向かって走って行った。
その様子を…、
「…やれやれ、」
この箱庭の長が
「無断でやりおってからに…」
見ていたことを
「…困った奴らじゃのう」
恭弥は気付いていたのだろうか。
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