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「#お仕置き」のBL小説を読む
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01



聞こえる銃声や轟音、地鳴り。震動が伝わる中、勘右衛門達は上を目指して階段を上っていた。足を止めたくなる気持ちに駆られるが、それを無理やり抑えるように勘右衛門は前だけを見る。そんな彼の視界に映るのは一つ年上の二人の背中。まるで自分を守るように前を進むのは文次郎と小平太。兵助と八左ヱ門を置いて先に向かった矢先、二人は勘右衛門の前に立った。何故、と思った疑問を口にするよりも先に答えたのは文次郎だった。

「長次が言ったはずだ。我々の任務を、目的を見誤るなと」
「!」
「私たちは鉢屋達を救けに行く。だが、これは時間が限られている任務だ。万が一、ニセクロバリ城の兵達が戻ってきてしまえばそれこそ私たちは完全に不利になるぞ!」

続けて小平太も言う。

「なに、アイツらはちょっとやそっとで負ける奴らじゃないことくらいお前だって知っているだろ」
「私たちはアイツらが追いかけてくることを信じて、いけどんで先を向かうだけだ!」
「ギンギンにな!!」

こちらを一切向けずにそう言った二人。
そして階段は終わり、再び開けた空間が広がった。次々に現れる忍七人衆と名乗る彼らは対峙しただけでも分かる強者。この階にも待ち構えていてもおかしくなかった。極力声を出さないようにして、矢羽音で会話を行う勘右衛門達。先に立ったのは小平太。柱に身を潜め、周りを警戒する。人一人いないことを確認し、小平太は手でこっちに来るように合図を出す。勘右衛門と殿を担った文次郎も、周りを警戒しながら小平太のもとへ。柱へ全員移動したのを確認した小平太は、周りを見渡した。視界の端に映ったのは、次の階へ続く階段。自分達がいる場所からそう遠くはなかった。

≪南方に階段がある。上へ繋がっている≫
≪分かった≫
≪了解しました≫

矢羽音で会話をし、小平太を筆頭に上へ通ずる階段へ向かおうと足を一歩踏み出した。その時、小平太の視界の端で輝くものが映った。
月光に照らされ、輝いた銀色のそれ。
柱と柱に繋がられている細く張ったそれを目に捉えたのと、自分よりも先に後輩が真っ先に向かおうとしたのは、ほぼ同時だった。

「勘右衛門、止まれ!」

咄嗟の判断。
伸ばした手は勘右衛門の後ろ襟を掴むことができた。そのまま勢いよく自身の方へ引っ張って、下がらせた。蛙が潰れるような声がしたが、小平太には関係のないことだった。一方で、容赦なく忍服を掴まれ後ろへ引かれた勘右衛門はというと、首を絞められたと同じ感覚となり思い切り咳き込んでしまった。

「ゲホッ…!な、七松先輩…?」
「下がれ、勘右衛門」

先ほどとは違い、勘右衛門に静かにそう指示を出した小平太。咳き込みながらも聞こえた言葉に、何故と言いたかったが言えなかった。涙目になった視界でキラリと光ったそれを見てしまったから。

「…ゲホッ…こ、れは……?」

張り詰めた弦。ピン、と真っ直ぐの張った弦を見つけた勘右衛門は、さきほどまで自分がその弦の前に立っていたことを思い出して青ざめた。それもそのはずだ。もし、小平太に無理やり後ろへ引っ張ってもらわなければ、自分は今、首と胴体が離れて床に転がっているのだから。ぞわり、と背筋が凍る思いになった。
それを瞬時に見抜き、自分を強制に止めた小平太は流石としかいえない。戸惑いを隠せない勘右衛門は、小平太を見ようとして顔を上げて後悔した。
ギラギラとまるで獰猛な獣の如く光らせている眼差し。一点を見つめて、微動だにしていない小平太は、お世辞にも怖くないなどと言える雰囲気を纏っていなかった。寒気を感じたのは、小平太本人か、それとも別のものかなのは、勘右衛門には分からなかった。

「勘右衛門、お前は後ろに下がってろ」
「し、潮江先輩……」

小平太と同様に鐘門の前に立った文次郎。そう言われて文次郎を見た勘右衛門は、ハタ、と動きを止めてしまう。
彼もまた、小平太同様に目を鋭くして一点を見つめていた。
流石に此処でおちゃらけてどうしたんですか、なんていう気前など持っていない。ましてや、今までの状況から分かることはただ一つ。
忍七人衆の一人が、この階でも自分達を待ち構えていることを。
一瞬で苦無を手にして、小平太は殺気を放った。

「出て来い。私たちを足止めしたいのならば、堂々と姿を現せ」

ピリピリと、肌に刺さるような感覚。自分に向けられていないというのに、そう思い込んでしまうほど重苦しいものだった。

「なーんだ。ばらばら死体がみれると思ったんだけどなぁー」

どこからか、ガッカリした声が聞こえた。
刹那、小平太は動いた。
狙いを定めて放たれた苦無。自分達のいる場所から南方、上へ続く階段へ飛んでいった苦無を目で追った勘右衛門は見えた。苦無を弾いたその者を。カラン、と床に落ちた苦無を横目に、自分達の前に現れた敵は舌打ちを溢した。

「あっぶねーな。当たるところだったじゃねぇの」
「当てるつもりだったけどな」
「生意気ぃ。けどざんねーん。俺には当たらねぇよ」

そう言って、その男は自分達の前に姿を現した。

「俺を殺りたきゃ、俺を楽しませてくれよ」

歯を見せ笑う男。
この男も忍七人衆の一人……!
先輩の背に護られるようにして立つ勘右衛門は、息を呑んだ。此処に来るまで、計五人の忍七人衆と対峙した。どの忍も強敵であることは肌で感じ取っていた。
しかし、この男はまた少し違うように思えた。

「(忍は、感情を失くすように言われている。忍務を遂行するだけの存在となり、貢献するようにと。そう、今まで何度も教えられてきた。自分達が目指しているのは、そういう存在だ。……でも、この男は…)」

上級生になってから、実習忍務を重ねてきた。多くの合戦場を見てきた。落城する城を間近で見てきた。城と共に滅ぶ者達を見てきた。戦を拒む者達を見てきた。
それなのに、この男は今までに出会ってきた者達とは一変。

「(この男は……自分が愉しければ周りなんて関係ないって考えだ…)」

今か今かと人殺しを愉しみたいといわんばかりに高揚させている男に勘右衛門は血の気が引いた。男は勘右衛門達を見つめて、目を猫のように細め冷ややかな、意地の悪い微笑みを口元に浮かべた。苦無を手にし、くるくると手持ち無沙汰な様子で弄る男だったが、その切っ先を勘右衛門達に、否、小平太へ向けた。

「お前、俺の相手になれよ」
「………」

敵は狙いを小平太のみに定める。
相手を伺うように無言でじっと見る小平太に男は無反応であることがたいそうつまらなかったのか、口角が下がった。思っていた反応とは違ったとみえる。苦無を降ろして、男は小平太へ話しかけた。

「お前は俺を愉しませてくれるって思ったんだけどなー。だってよ、お前」

ニッと歯を見せ、愉悦の笑みを浮かべて言った。

「俺とおんなじ系統に見えるもん」

その言葉に、勘右衛門は生唾を飲み込んだ。

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