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01



「…また群れるのか」
「まぁそう言うなよな…」

タソガレドキ軍の兵を咬み殺した恭弥は、歓迎されている佐武衆を見て小さく溜め息を溢した。そんな恭弥を見兼ねて留三郎は苦笑い。相変わらずの恭弥だ、という意味も含めて。

「…それで?さっきのタソガレドキの兵はどうしたんだ?」
「咬み殺した」
「だよなー……はぁ」
「ちょっと、何で溜め息をこぼすのさ」

間髪入れずに答えたというのに留三郎が溜め息を溢す理由が分からなく癪に触ったらしい恭弥。ちらり、と見える銀色の其れに留三郎は冷や汗を掻く。

「い、いや!!ただ相変わらずだなぁと思っただけだ!!そう気にするな、な!?」
「…それ、貶してるでしょ」
「んなわけないだろう?!何言ってんだよ恭弥?!」

必死過ぎる留三郎の言葉に恭弥は留三郎に見られないよう小さく笑い、トンファーを収める。

「ま、僕は変わるわけ無いでしょ。何処に行ってもね」
「それは、まぁ…そうだな」
「それとも、…留三郎は違う場所に行ったら変わるのかい?」

其の言葉の意味は恭弥と同じ境遇に遇わなければ分からない。ただ恭弥は聞いてみたくなっただけだが、留三郎はどう答えるのだろうか。

「変わらねーよ」

即答だった。
その言葉に恭弥はピクリ、と動きを止めた。留三郎は恭弥の微々たる反応に気付かないまま話す。

「突然、みたいな摩訶不思議だったらまぁ驚きはするが、俺自体が変わるわけないからな」
「…」
「それに、俺は俺だからな」

穏やかに言う留三郎に恭弥は一人、聞いた自分が馬鹿のように感じた。ま、自分が経験したことをそう簡単に語られても困るだろう。
恭弥の纏う空気に異変を感づかれる前に、恭弥は呆れたようなため息を零して言った。

「アホのは組と言われる割には、留三郎も一応使える頭を持ってたみたいだね」
「おいそれ貶してるだろ。褒めてねーだろ!!」
「戦う事しか脳がない留三郎には、上出来な回答だ」
「今ので分かったぞ。恭弥!!やっぱりお前は正真正銘のい組だ!!」
「当たり前の事を言わないでよ」

留三郎に背を向けた恭弥は小さく笑って村から離れた場所へ向かおうとしていた。それに気付き、留三郎に慌てたように恭弥に尋ねる。

「お、おい!何処に行くんだ?!」
「群れすぎて蕁麻疹が出そうだから此処から離れる。また戻るさ」
「…気を付けろよ」
「…誰に言ってるのさ」

留三郎は自分には見えないが、きっと彼は、恭弥は笑っていると確信した。

「学園一最強の男に、だ」

留三郎が言った瞬間、恭弥は消えるようにその場から去った。
恭弥の気配が完全に園田村から離れたのを察知してから、留三郎は人知れずため息を零した。恭弥の怒りに触れないようにするのはいつものことだが、今日はいつもよりまして怒りが低い様にも思えた。何かあったのだろうか、と思うがきっと恭弥は自分や、同じい組の文次郎や仙蔵にも話さないのだろう。そして一つ下の五年ろ組の鉢屋三郎にさえも。

「あいつ、何を抱えてんだよ…」

六年も共に過ごしてきた仲間だが、恭弥は未だ自分達の事を仲間と思っていないのだろうか。
留三郎は恭弥の淡白さに少しだけ寂しさを抱いたのだった。


***


「…ワォ」

留三郎が傷心している事も知らず、恭弥は村からそう遠くない場所に一人様子を見ていた。
恭弥の目に写っているのは、髑髏の御旗。

「先方の鉄砲隊、後詰の轅、砲兵隊まで連れてるなんて、…城でも攻めるつもりかな」

園田村から見える小さな丘。そこには、問題の中心に居るタソガレドキ軍が戦の準備をしていた。鉄砲隊に、砲兵隊。石垣を破壊する勢いのタソガレドキ軍に恭弥は無意識に笑みがこぼれる。

「園田村から離れている、と言っても…」

恭弥は園田村の前の草地を一瞥した。

「…弾丸は園田村に来るね」

それは予想ではなく確信だった。

「ヒバリ、ヒバリ」
「ん?」

よく聞く声。頭上を見上げると、そこには自分のペットが。

「やぁ、ヒバード」
「イクサ、イクサ。テキ。ムレテル、カミコロス、カミコロス」
「そうだね。…咬み殺し甲斐がありそうだよ」
「キャー」

恭弥の滲み出た殺気を感じたヒバードはパタパタと恭弥の肩から離れて空中を旋回する。
恭弥はヒバードを見て小さく笑い、暫くの間その場から離れなかった。

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