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「#幼馴染」のBL小説を読む
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03



「三郎!!!」

必死な声が男たちの耳に届いた。ピタリ、と動かそうとした足を止めた。背後から聞こえた声に、三郎をかつぐ男だけが振り返った。
探し回ったのか、額に汗を流し肩で息をする兵助がそこにいた。

「……」

男は冷めた目を兵助に向けた。一方兵助は三郎達を見た瞬間、ヒュッと息を呑んだ。
そして、じわりと滲み出すのは殺気。

「そいつらを降ろせ」

懐から取り出したのは、彼の愛用武器である寸鉄。射殺さんばかりに睨みつける兵助に、男は数秒遅れて反応を見せた。

「クッ…フフ…アハハハッ!!」

馬鹿にしたような嗤い声。その笑声に、兵助が悪寒が走った。寸釘を持つ手が震えたのが分かり、ぐっと強く握り直した。
顔に手を当てて、口元を隠すようなしぐさを見せる男。落ち着いたのか、嗤い声は小さくなった。しかし、次の瞬間、はーぁ、と落胆したようなため息を溢した。

「あーあ、君、何を持ってそんな言葉を口にしたんだ…。あー…可笑しいなぁ…」
「!」

顔に当てた手をどけると同時に、兵助を見た男。刹那、兵助を襲ったのは殺気だった。ぞくり、と背筋が凍った。

「君は頭がいいかと思ったけど…どうやら違うみたいだ」

明らかにがっかりした声だった。バカにされたと分かった兵助は、怒りの感情が生まれたが、それよりも三郎たちを捕えたままでいる彼らに思わず声を上げた。

「お前達は、いったい何者だ!?」
「………」

先ほどの三郎の時、兵助は居なかった。だからこそ、訊ねたのだろう。男は嗤った。嘲るように、口角を上げ、歪んだ笑みを浮かべた。
狂気めいたその笑みに、兵助は本能的に恐れてしまった。

「我らはニセクロバリ城城主直属の者」
「!」

黒羽が兵助の視界に入った。

「闇に潜み、闇に生きる」

黒羽に目がいってしまった兵助は、ハッと男達を見て驚愕した。
そこに立っていたのは、町人や村人の恰好の者ではなく、黒く一点の汚れもない、忍装束を纏った男達。

「我らは、忍七人衆」

男以外は兵助に背を向けていたはずだった。しかし、気付けば全員が、四年生達を捕えた者達も兵助のほうへ身体を向けていた。

「っ…!」

がくり、と兵助は膝をついた。意識的では無かった。身体が勝手に、そう動いたのだ。それは無理もなかった。

「(殺気が、重苦しい…!)」

男だけの殺気でも手が震えていた。さらに上乗せするかのように、他の者達……忍七人衆の殺気が加われば、兵助は、声を出せず、膝はしきりに震えて立っていられなくなった。
恐怖で身体を動かせずにいる兵助を、男は冷めた目で見ていた。
三郎とは違い、戦う気すらも起こせない少年。

「うん、弱い」

目が笑っていない笑顔で、男は一瞬でクナイを放とうとした。
しかし、それは彼によって阻まれた。

「!」
「っ…!」

眼前に迫った切っ先。それを目で捉えた男は、咄嗟に身体を反らして回避した。それだけに終わらず、次に来たのは蹴り。身体を捩じらせて攻撃しようとした彼に、男は手を離してしまったのだった。

「三郎っ」

痛みで顔を歪めながらも男から距離を置き、兵助の傍へ立った三郎。ジクジクと鈍い痛みが三郎を襲うが、必死に意識を保つ。男は「あーあ、逃げられちゃった」と、残念がる素振りも見せず、抑揚の無い声で言った。
すくんだ足を立たせ、三郎は忍七人衆と名乗る男達から決して目を逸らさずに兵助に叫び言った。

「兵助、逃げろ!こいつらと戦おうとするな!!」
「っしかし!」
「いいから、お前は逃げるんだ!!こいつらは、私たち二人でも到底かなわない相手なんだ!!」
「けど、あいつらが…!」

渋る兵助の視線の先には、ぐったりとして意識を戻してないままの四年生達。彼らが人質という立場なのは変わらず、大事な後輩を見捨てて逃げるような事はできない。
そんな兵助の気持ちを分かった上で、三郎は言った。

「いいからお前だけでも行くんだ!!アイツ等の目的は学園なんだ!兵助、お前は先に学園に戻って、この事を伝えろ!!」
≪あとで必ず追いつく!≫

五年生専用の矢羽音が飛んだ。兵助は不安そうな表情を浮かべたまま、三郎の言葉にコクリ、と頷いた。矢羽音が再び飛ばされた瞬間、兵助は一度も振り返ることをしないままこの場を去って行った。追いかけようと動いた者がいたが、制するように腕を伸ばしたのは男だった。

「追わなくていい」
「だが」
「いい。ちゃんと見ているからな」
「……」
「それに」

男は離れていく兵助の事など興味も抱いていないようで、三郎だけに視線を注いだ。

「ハッ、ハッ…!」

荒い息遣い。肋骨が折れているのだろうか、顔色が青白い三郎。そんな彼を見て、男は小さく嗤い、言った。

「来る来ないも自由だ。けれど、たとえ何人で来ようがこいつらも、あいつらも死ぬだけだ」

その言葉を聞いた瞬間、三郎は痛みを堪えて男に向かって走り出した。
確かにこの男は、男たちは強い。自分達は殺気だけでも足がすくんでしまったのだだから。先輩達が救出しに行っても、無事で済むとは思わない。しかし、それでも、これしか方法がなかった。兵助と一緒に四年生を助けようと動くのではなく、兵助だけ学園に戻らせ、策を一度練ってから、編成チームを組み向かったほうが救助の成功率があがる。
自分はどうなってもいい。それよりも、大事な後輩達をここで死なせるわけにはいかない。
その思いだけで、気失いそうになりながらも三郎は男に戦いを挑んだ。しかし、すでに体を思いのままに動かせない三郎に、勝ち目はなかった。

「っ、ハッ、ハァ…ハッ…!」
「うーん…君、なかなかいい線はいってるんだが…」

三郎の一撃一撃を余裕のある様子で躱し、じわじわと甚振るように三郎に思い一撃を与える男。すでに三郎の視界は朦朧として、霞んでいた。少しでも気を許せば、すぐに男に倒されると分かっていた。

「っ…く、そ…!」

懐に手を入れ、三郎はそれを取り出した。それは、三郎が得意武器として扱うもの。
それを手にしたままじっと見つめた三郎。
その目には、覚悟が宿っていた。

「(この男に、勝てると思っていない…。負けてもいい。私がどうなっても構わない。兵助の時間稼ぎになっているならそれで構わない。一刻も早く、あいつ等が助かるのなら、私は…)…ッ!!」

死んでも構わない…!
思いを込め、決死の覚悟でひょう刀を放った。

「(ひょう刀を扱うとは、この餓鬼……。だが、一つなら…)」

冷静に放たれたひょう刀を見ていた男は、その軌道をすでに読んでいた。躱すことの出来る場所へ移動しようとした時。

「!」

それは、起きた。

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