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02



兵助がニセクロバリ城の下町で有名な豆腐屋へ走って行ったのを見送った三郎は、下町で遊びに来た少年を装って四年生達の課題の監視をしていた。
まずは井戸端会議に参加して情報を得ようとしていたタカ丸の元へ。

「(…長屋の方だが、今の時間に集まったりして……)」
「わぁ〜!お姉さんの髪、綺麗ですね〜!」
「え、そ、そうかしら…?」
「はい!それにお着物も御似合いです!」
「ふふっ、嬉しいわぁ」
「タカ子ちゃん、今度はこの着物に合う小物を教えて〜!」
「は〜い」
「(集まったりしてるんだな。というか、人多すぎじゃないか?)」

ちらり、と盗み見るようにして長屋の裏を覗けば、そこにいたのは数人の主婦や子供が。そしてその中心にいたのは、タカ丸。どうやら洗濯物を片付けている時に話しかけ、そのまま女性達の髪の手入れやコーディネートについて話をしていたようだった。

「タカ子ちゃんも、綺麗な髪ね!流石、元髪結いなだけあるわぁ」
「えへへ、ありがとうございます。あ、奥さんの髪だと、今度違う髪型でも似合いそうです」
「あら、本当?じゃあ今度、お願いしたいわ」

ほのぼのと、違和感なくその場で美容関連の話で盛り上がる光景に、三郎は何とも言えない気持ちになった。六年生と同い年とは言え、元髪結いで編入で忍たまになった彼はまだ忍たまとして未熟である。そのまま第二の課題を忘れてしまいそうな勢いのタカ丸だった。

「ここの人達、皆髪質すごくいいけど、どうしてですか?とっても驚いてるんです」
「えぇ、そうねぇ…。ふふっ、やっぱりアレかしら?」
「アレ?」
「きっとね!アレだと思いますよ?」
「(アレ…?)」

首を傾げるタカ丸をよそに、“アレ”と何かを指し示して笑う女性達。聞き耳を立てていた三郎も気になり、さらに話を聞こうと傍に近寄った。
タカ丸と話をしていた女の一人が、頬に手を当てて笑い言った。

「ニセクロバリ城は外交をしている同盟の城からシャンプーとリンス、を頂いているの。もちろん、私たちの領地でしか取れないものと交換をしているんだけどね」
「けど、丹瀬黒様はそれが好まない方らしくて、よく私たちに配ってくださるの」

その言葉に、タカ丸は耳を疑った。

「えぇ!?シャ、シャンプーとリンスを…!?」
「そうなの」

だからそれのおかげかもしれないわ。と、笑う女にタカ丸は動揺を隠せずに、硬直したままだった。三郎はあまり髪に対してこだわりはない。ただ、変装をしているため変装用のカツラなどには細心の注意をしているが。
それでも、シャンプーとリンスはこのご時世高価なものだ。一年は組のしんべヱが愛用しているリンスは、髪をサラサラにしてくれる。
そんなものを、民に配布している城主、丹瀬黒時武とは一体何者なのか。
タカ丸が得た情報に、三郎は困惑した。

「(気になるが、タカ丸さんがまだ情報収集してくれるはず。他の四年生たちと情報をまとめるだろうから、その時に聞いてみるか……)」

長居をすれば、あちらに気付かれる可能性がある。三郎は心を落ち着かせるために、一つ深呼吸をしてからその場を立ち去った。

「………」

一人の娘が見ているとは知らず。


***


タカ丸のもとから離れた三郎は、ここから近いのは何処かと辺りを見渡した。長屋から少し出ればすぐ通りだった。城の近くにあるお茶屋が目についた。
行き交う人々の隙間から見えたのは、二人の美少女。

「(滝夜叉丸と喜八郎だな。お茶屋で情報収集か…)」

目に入れば、先にい組の様子を見ようと決めて三郎は人混みの中に溶け込み、お茶屋へ近寄った。
お茶屋では、滝夜叉丸と喜八郎が女性らしい佇まいでお団子を食していた。どうやら大変気に入ったのか、二人の間に置かれた皿には串だけのが二本、そして団子が刺さっている串が二本あった。そして食べかけのが一つ手に収まっていた。

「(いや食べ過ぎだろ)」

あまりの摂取量に三郎は心の中でツッコミを入れてしまった。
それに気付くはずもなく、滝夜叉丸と喜八郎は団子を片手に話をしていた。しかし、辺りの会話を盗み聞きしているようだった。故に、会話はとても酷いほどの不成立であった。

「あの時の私の冴えわたった作戦によって、危機を免れたというのに、何故あの時先生は私を褒めることもなくグダグダグダグダ」
「最近、踏子ちゃんが調子悪いのかいい蛸壺を作ってくれないんだよねぇ…」
「そもそも、あの策は私がリーダーという立場にしてくださらなかったら出来なかった策であってグダグダグダグダ」
「帰ったら蛸壺掘って、あ、どんな蛸壺がいいかなぁ」

噛み合ってなさすぎる会話だった。
三郎は周りの人達の視線が気になったが、特に気にしている様子はなかった。それに安堵した三郎は、もう一度二人を見た。

「(大声で話していないからいいが、傍から見れば不思議な二人にしか見えないぞ…。…まぁ、茶屋だから他人の会話に入る事は出来ないか……)」

近くで聞き耳を立てることが出来るはずはなく、三郎は此処は二人に任せようと思い静かにその場を後にした。

「……」
「お姉さーん、草団子一つー!」

陽気のいい声が三郎の耳に届いた。


***


三郎が次に向かったのは、城下町の外れに位置するうどん屋だった。ここではろ組の二人が情報収集をしているはずで、三郎は団子屋と同様にあまり近付かないように細心の注意を払った。気配を消し、うどん屋の傍に生えてある木に近寄り、彼らの死角になる場所へ佇んだ。
目的の二人は、美味しそうにうどんを啜っていた。

「(課題のこと忘れてはいないだろうな……)」

無我夢中でうどんを食べている三木ヱ門と守一郎に、三郎は呆れたため息を溢した。しかし、すれ違う人々に目を向けている様子から、一応課題を実施しているようだった。
うどんを啜る音は聞こえているが。

「(というか、お前らは女装しているんだからもっと女性らしい態度をしないか…!特に守一郎は、足を開きすぎだ!)」

三郎から見える守一郎の座り方は、褒めるものではないようだった。うどんに夢中なのか、自然と開いて行く足に三郎は思わず額に手を当ててしまった。が、三木ヱ門がふと守一郎を見て、瞬く間に足を直していた。

「(意識が低いな…。注意として書きこんでおくべきだな……)」

三木ヱ門と守一郎も、い組と同様まわりの会話に聞き耳を立てているようだった。時折、二人で「美味しいねぇ」「うん。もう一杯食べたくなるなぁ」と、微笑ましい会話を交わしているのが聞こえてくる。しかし、誰かが話す時、必ず静かになる二人。視線がそちらに向いていない分、違和感を覚えるものではないから、上手く情報を集めようとしているようだ。

「(ろ組も問題なさそうだな…)」

彼らが女装している事もバレていない様子。どこかの城の者とも思われていないようで、三郎はそう判断して気配を消したままその場を後にした。

「あぁ、そういえば。聞いたかい?」

一人の男が、思い出したかのように口を開けた。

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