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03



無事に布屋で手拭いを(タダで)購入することが出来た守一郎は、課題を合格にする事が出来たのだった。とは言っても、守一郎の本人が決めた目標を達成する事は叶わずして終わったが。

「見てくれ、滝夜叉丸!喜八郎!三木エ門!タカ丸さん!ただでもらえたぞ!!」
「守一郎、口調」
「!た、ただでもらえましたの…!!」

嬉々として自分の帰りを待ってくれていた四人に言うやいなや返ってきたのは、自分の素行を注意する声だった。それに慌てて言い直すものの、もはや直すのも出来ないと判断した四人はため息を溢すだけにしたのだった。

「全く。お前という奴は!」
「うっ、す、すまん…」
「本当だ!確かにお前の良心を考えれば、見て見ぬ振りはできるはずがないとは思っていたが…、一歩間違えてたらバレていたのかもしれないんだぞ!!」
「べ、弁解のしようもない……」

苦労人といえそうな、滝夜叉丸と三木エ門の二人に言われて、肩を落とす守一郎。それに対しての言い訳が出来るわけがない、と自分でも思っているために、余計に何も言えなかった。
このまま延々と守一郎に説教をする二人に、救いの手を差し出したのはタカ丸だった。

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。守一郎くんは、確かに態度とか言動を気にしなくちゃならないけど、悪い事はしてないでしょ」
「タカ丸さん……」
「それは、まぁ……そうだが…」
「なら、まずは守一郎くんを褒めてあげないと」

タカ丸の言葉は一理あった。そもそも、守一郎は忍術学園に編入して間もない。祖父から忍術を教えてもらったとは言っていたが、忍たまのともよりも幾年か前の著された書を参考にして生きていた。今の忍社会がどのようなものかを把握していないのだ。確実に現四年生よりも実力は劣ると判断されるが、それでも今回の課題をクリアした事は褒めてもいいことだろう。
タカ丸に言われ、頭ごなしに叱っていた二人は互いに顔を見合わせる。その間に、喜八郎がすっかりしょぼくれた守一郎を慰めていた。

「……タカ丸さんの言う通りだな」
「確かに、守一郎にしては頑張ったな」

互いにやれやれ、と肩を竦めて、振り返る。成績、実技も優秀である二人に叱られ、今は喜八郎に慰められているとは、すっかり元気をなくした守一郎。二人は叱り過ぎた、と心の中で反省し、守一郎に近寄った。

「守一郎、よく頑張ったな」
「滝夜叉丸……」
「お前にしては、課題に合格して凄いぞ!それに、町の人が迷惑に思ってる奴をもこらしめたから、もっとすごい!」
「しゅいちろー、お疲れ様」
「お侍さんを背負い投げした守一郎くん、かっこよかったよ」

滝夜叉丸から始まり、口々に守一郎を褒める四年生。それぞれから褒め言葉を受け取った守一郎は、なんだかむず痒い気持ちになったようで、嬉しそうな、不甲斐ないような、なんともいえない表情を浮かべていた。

「ありがとう!でも、俺もちゃんと口調とか歩き方とか、気をつける!」
「うむ、その勢いでこれからも頑張ろうな!」

再び守一郎に火を点けることができたようで、三木エ門は肩に手を置いて同意したのだった。それに応!と強く頷いた守一郎に、滝夜叉丸たちは微笑ましく見ていた。
守一郎の機嫌をもどしたところで、次に課題に挑んだのは喜八郎だった。

「それじゃ、行ってきまーす」

そう言ってすたすたと一人で町の中へと向かった。その後ろ姿を見届け、少しだけ距離を置いて四人は着いて行った。

「喜八郎の課題はいったいなんなんだ?」
「さぁ」
「俺の気のせいだろうか。心なしかウキウキしていたように見えたぞ」
「…喜八郎くんが喜ぶようなもの、だったのかな?」

遠目から見えた喜八郎に守一郎がそう言えば、タカ丸は苦笑を浮かべた。
それからしばらくして、喜八郎を尾行しつつ彼の課題がなんだったのかを確認していると、ふと喜八郎はある一点をじっと見て足を止めたのだった。

「お、あそこで課題を行うみたいだな」
「さて、喜八郎が買うもの、は……」
「………」
「なるほどねぇ……」

喜八郎がじっと見つめるその視線の先を辿った四人は即理解した。
なるほど、これは嬉々としていたのも頷ける。
全員が苦笑やら呆れたようにため息を溢す。納得をするが、逆に誰がその課題の品を求めているのかというのも気になるほどだった。

「喜八郎に踏鋤を課題にさせるとは、運が強いと言えばいいのやら……」

そう。喜八郎が向かった店は、農具を専門に扱っている店だった。市場の端のほうにあるのは、農民が此処まで来ることは少なく、かつ、農民が足を運びやすいようにしているためだろう。

「いらっしゃーい!農具でお困りの方、いないですかーい?」

気前の良さそうな店主が店の前に立ち、呼び込みを掛けていた。店の前に並ぶのは、喜八郎が普段使っている農具から、専業に使うような農具もあった。

「……」

それを遠目から眺めていた喜八郎。数分ほどはその場に立っていたが、何か決定打があったのか迷いなく店へと寄ったのだった。店にはたまたま商品を見ていた農民がいたようで、店主はその農民に何を探しているのかなどと声をかけていた。
それを横目に、喜八郎は課題の内容であった『農具を半額以下で購入せよ』を実行すべく、農具を一つ一つじっと観察した。

「お客さんは何をお探しでしょうか?」
「うーん…。そろそろ鍬と踏鋤が壊れそうでねぇ。新しいのを買い替えようとしているんだ」
「ああ!なるほど。まぁ、この時期だと収穫を終えて、また冬にむけて耕さないといけませんもんね」
「そうなんですよ。流石は店主、よくご存知ですね」

季節的に考えても、そろそろ収穫を終えて再び田畑を耕して冬に植える野菜などの種をまくだろう。農具を扱う者として、流石は農業について知っている。店主を褒めるように言う男。謙遜しつつも、店主はお客に鍬や踏み鋤の紹介をした。

「鍬や踏み鋤はこちらですよ」
「ありがとう」

案内されたところに行けば、確かにそこに鍬や踏み鋤があった。真新しくあるそれに、お客はどれにしようかと悩み始めた。どれも同じように見えるが、少しでも自分の田畑にあうものを探すとなれば、時間がかかるものだった。
まだ悩んでいる様子のお客に色々と農具の説明をしようとした店主だったが、ふと店内に娘子がいることに気が付いたのだった。
横顔からでも分かる見目麗しい娘子。そんな娘が何故このような店に来ているのだろうか。思わず首を傾げて、彼女をじっと見ていると、自分の視線に気付いたのかくるり、と顔をこちらに向けられた。あまりにもまん丸とした、真っ直ぐな視線を向けられ店主は一瞬動きが固まった。

「ねぇ、おじさん」
「……!な、なんだい?」

人形だと思っていた気持ちもあってか、少しだけおそれた店長。しかし、娘はそんな店主の様子を気にする素振りはなく、かけてあった農具を指差して言った。

「これ、造り直したほうがいいですよぉ」
「は……?」

その言葉に店主は間抜けな声を出した。が、娘の言葉を理解するにつれてだんだんと顔を赤く染めあげていった。
この子は、自分の品に文句をつけたのだ。

「小娘が…!!何を見て言って、」
「この柄の木、腐りかけています」

怒鳴ろうとした声を遮られた。

「は…!?」

腐りかけている?何が?自分の商品がか?
普段言われない指摘に、店主は目を点にした。自分を怒鳴ろうとした男が意表を突かれたことで冷静になったことを確認して、喜八郎は話を進めた。
指摘した農具を手にして、喜八郎は言った。

「ほら、よく見てくださいよ。柄の部分、真ん中が妙に変色してる。これは、内側から腐食が進んでいる証拠です」
「ほ、本当だ……」
「ほらね。これ、一回でも使ったらすぐに折れちゃうと思いますよぉ。ちなみに、柄の部分の腐食が進んでいるのは他にもちらほらありました」
「な、なんだって…!?」

喜八郎に言われ、店主はすぐそばに置いてあった別の農具に手を取り、確認した。確かに、一見丁寧に作られた農具に見えるが、じっとこらえて見れば、柄の部分の腐食が進行しているのがあった。

「こ、こいつぁしくじった…!どうして…」
「きっと先日の大雨の後に切り取った木が食われてたんだと思いますよぉ。長い間雨続いてましたし」
「確かに、雨あがって切り取ったのもあるが…。お嬢ちゃん、よく分かったなぁ」

怒りは何処へいったのやら。喜八郎が見抜いた事に驚き関心する。それに嬉しそうにする素振りもなく、喜八郎は表情を変えないまま、その不良品の農具を一つ手にした。

「ねぇ、これ半額にまけてちょーだい」
「え?」

突然のお願いに、店主は自分の耳を疑ったのだった。

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