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02



「二番手は、どうやら俺のようだな!」
「守一郎、口調を変えろ」
「うっ…わ、私の番です、ね…」

勢い込んで言ったがすぐさま三木エ門に指摘された守一郎。忍術学園に編入して間もないが、基礎は出来ているのは確か。その応用をどう上手くするかがこれからの課題だろう。女性らしく振舞おうと口調を直しつつも守一郎が向かった先は手ぬぐいや麻布などを売っている布屋だった。

「課題は何なんだ、守一郎」
「手ぬぐいだ…ですわ。きっと食堂のおばちゃんが使用なさるものなんだろう」
「?どうして食堂のおばちゃんだって分かったの?」

タカ丸の問いに守一郎は答えた。
昨日の食堂の手伝いが守一郎と三木エ門だった時に、手ぬぐいが欲しいと言っていたとのこと。拭いたり熱いものを持つ時に使ったりと使用する回数が多いため、すぐに使い物にならなくなるのだ。

「なるほど、それは必需品になるもんね」
「はい。それじゃあ、行ってくる」

しゅびっ、と手を上げて布屋へと向かった守一郎。その歩き方は全くもって女性の歩き方ではなかったが、本人は気付いていない。『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』を守一郎は今回の実習の授業目標としているのだが、それを果たせてはいないように思える。見守っている滝夜叉丸達も半分呆れた様子になっていた。

「うーん…守一郎くんってば…」
「おやまあ」
「守一郎のヤツ…!もっと上品に歩かんか!」
「私から後で言っておく…」

同級生の心配など気付きもしないまま守一郎は布屋の前に立つ。繁盛しているようで、客の出入りが絶えない。店の様子を伺いながら、実習であるため女性になりきろうと勢い込む。咳払いをし、喉の調子を整えて守一郎は店の中へと入った。

「(…色んな布が売っているんだな)」

手ぬぐいなどの日常に使われるものから祭礼などに使われるものまで、種類豊富な店内に守一郎は目を奪われる。しかし今は実習中。手ぬぐいを半額以下でまけてもらうのが課題なのだ。どの布がいいだろうか、などと選びながらも店主の様子を見た。

「いらっしゃーい!今日もお安いよー!」
「店主さん、この布をお願い」
「はいよ!」

随分と明るい店主だ。守一郎から見た第一印象はそれだった。お客と話す様子を見て、慕われているのは一目瞭然。布を見ても、生地が荒くなっていないため丁寧に製作しているのが分かった。ここで食堂のおばちゃんの手ぬぐいを買っても問題ない。そう判断した守一郎は店内を一周まわった。

「(使いやすいのと、そこまでかからなくて、半額以下でまけてもらえるもの…)」

先ほどの、滝夜叉丸の課題はお団子だったがあれはほぼ運が良かっただけ、と言ってもいいもの。運も実力のうち、とは言うけれどあのような事をこの店ですることは出来ないに等しいだろう。まず、守一郎はこの店に来る以前にニセクロバリ城領地に来ることが初めてなのだ。その領地にある布屋のことを褒めようとしても、褒める要素が思い浮かばない。大袈裟に褒めたとしても嘘八百。逆に店主の逆鱗に触れてしまうおそれもある。どうしたものか…、と途方に暮れていたその時だった。

「ンだとテメェ!!」

ドガァ!!

「!?」
「キャア!!」
「何だなんだ?!」

突然の罵声にものが地面に落ちる音。そして騒ぎに驚き声を上げる客や何事かと駆けつける布屋の店主。守一郎もどうしたのか、と思い店先へ出ればすぐに分かった。
布屋の棚にぐったりと座り込んでいる男と、その男から数歩離れた先に仁王立ちで立つ男が二人。喧嘩か何かか。それにしても一方的なようにも見えるその光景に守一郎は眉をしかめる。
座り込んでいた男が慌てて平謝りし始める。

「す、すみませんすみません…!」
「謝って済んだらお役人はいらねぇんだよ!!」
「お許しくだせぇ…!」
「さっきは反抗しやがったくせにヘコヘコ謝りやがって調子こいてんじゃねぇぞ!!」

声を荒げて自分に謝る男を睨む男。帯刀している事から、武士の身分なのは分かった守一郎。しかし、どこかの城に属している様子はなく、浪士のようだった。
なにが起きたのかは分からないが、あそこまで謝っているのに許すつもりのない浪士に、守一郎は眉間に皺を寄せた。頭をずっと下げている男に、浪士はわざとらしく足を地面に擦り音を立てる。自分に近付いていると分かっている男は、その音が大きくなるにつれてビクビクと身体を震わせた。

「俺がぶつかっただとかほざきおって…。その首、斬り落としてくれよう!!」
「そッ!それだけは…!!それだけは勘弁してくだせぇ!!」
「!」

刀に手を置き、そう脅した浪士。その雰囲気からは本気と思ってしまうかもしれないが、忍者のたまごである守一郎は分かっていた。
その浪士が本気ではない事を。
周りの人達が不安そうにしていて、このままでは布屋の店主にも迷惑がかかる。

「……」

我関せずなどといった事が、浜守一郎という人間ができるはずがなかった。
考えるよりも先に身体は動き、守一郎は町人を守るようにして浪士の前に立った。

「なんだ、女…?こいつを助けようってのかァ?」
「……」
「それとも何か?貴様がこいつの代わりに俺に斬られて欲しいとでも言いたいのか?」
「…」
「っ、なんとか言いやがれ、女ァ!!」

無言でいる自分にしびれを切らした浪士が、刀から手を離して守一郎に襲い掛かった。自分から首を突っ込んだと周りから見れる光景に、群がっていた者達は息を呑む。しかし、守一郎は真っ直ぐな視線を浪士に向けたままだった。そして、自分に襲い掛かる浪士の動きを綺麗に見切って、彼は動いた。
隙のあり過ぎる懐に守一郎は入り込んだ。さらり、と躱して、浪士の腕をその手で掴み、足を開き腰を低く落とした。そしてそのまま、浪士の威力を利用して…。

「でぇぇやぁぁぁ!!」

ドォン!!

「ぐはっ!!」
「……」

守一郎は背負い投げをしてみせたのだった。
唖然とする周り。背負い投げされた本人も、今何が起きたのかを理解していないようで、目が点になっていた。見事綺麗な背負い投げを見せた守一郎は、男の腕を放して、手を払う。
そして、キッと浪士を睨みつけて言った。

「己の強さを見せるが為に、町人を虐げるなどそれでも武士か!武士ならば戦場にて己の強さを誇示しろ!!武士の恥晒しもいいところだ!!」

腕を組み、浪士に言いきった守一郎。浪士は、ハッと我に返り起き上がって、自分を辱めた守一郎を睨みつける。けれど、守一郎のただならぬ気迫に浪士は言葉が一つも出なかった。
そして、守一郎に乗じるようにして、周りで見ていた者達が声を上げたのだった。

「そうだそうだ!!武士だからって、俺達を馬鹿にするんじゃねぇぞ!!」
「迷惑なんじゃ!」
「帰ェれ帰ェれ!!」
「っ…!……っ…!!」

あまりにも自分に浴びせられる言葉の数々に、浪士は四面楚歌状態。その筆頭に立つ守一郎は、男に言った。

「これでもまだ我が物顔でいるというならば、次は容赦しない」
「っ〜〜〜!!!」

その言葉に、怒気に耐え切れず、浪士は逃げるように去って行ったのだった。浪士の姿が消え、緊迫した空気が消えたと同時に、今度は歓声が沸き上がった。それは、言うまでもなく守一郎に向けられたものだった。

「おじさん、大丈夫でしたか?」
「は、はい…!若いお嬢さん、ありがとうございました…!!」
「!い、いえ…たいした事じゃぁ…」

浪士に謝り続けていた町人の心配をした守一郎だったが、町人の言葉に自分が女装をしている事を思い出したのだった。頭に血が上ってしまった時に、自分が女装して女の子のふりをしている事をすっかりと忘れていたのだ。
しかし、町人の様子を見る限り自分が男だとバレていない様子だった。

「本当に、ありがとうございました…!」
「た、たまたまです…。布屋に用事があったのですが、綺麗な布もあの浪士に汚されて、それでつい怒ってしまって…!」
「なんと、布を買いたかったのですか?」
「は、はい…。お遣いを頼まれて…」

慌てて女口調に戻してそう言えば、町人は慌てたような、申し訳なさそうな表情を浮かべたのだった。

「私なんぞのせいで申し訳ない事を…!お詫びとお礼を兼ねて、貴方様が買われたかった布を私どもに買わせていただけないでしょうか…!?」
「!?い、いいんですか…!?」

あまりにも出来過ぎた言葉に守一郎は素で驚きの声を上げてしまった。しかし、町人は気付いてない様子で「これくらいの事しか出来ず、申し訳ないほどですが…」などと言っていて、自分の言葉を訂正する様子はなかった。実習中でもあった守一郎は、これを好機だと判断した。これを逃せばきっと、半額以下でお題のものを買う事は出来ないと思ったのだ。

「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて…」

そう言えば、町人は嬉しそうに表情を明るくさせた。そして、どの布なのかを聞かれたりして、守一郎は実習課題を成功してみせたのだった。


***


「これっていいのか…?」
「一応、課題内容には則しているから、合格にするべきなのだ」

あまりの展開に審判役の三郎と兵助も驚くばかりだった。

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