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01



ニセクロバリ城領地に到着した四年生一行。それを遠目で様子を見る審判役の三郎と兵助。四年生の女装姿が通り過ぎる者、老若男女全てが思わず立ち止まるほどだった。女よりも美しいと魅入る彼らに、三郎と兵助は何も問題が無ければいいのだが、と心配した。

「えーっと、今日の課題は…」
「なになに?『指定の品を定価の半額以下で買ってくること。ただし一部例外』…なんだこれ」

喜八郎の隣から覗き見た守一郎は眉をひそめた。滝夜叉丸、三木エ門、タカ丸も課題内容が理解しがたく覗き見る。

「おまけして貰えってことか?」
「半額って書いてあるから、おまけの範疇ではないぞ」
「うーん…」
「きっと五車の術を使え、という事ではないのか?」

伊達にい組で上位の成績をあげていない滝夜叉丸。彼の言葉に納得をするものの、腑に落ちない点が一つだけあり、それを声に出したのは三木エ門だった。

「この一部例外、というのは何なんだ?」
「それは私も分からない。ま、課題を見れば分かるのではないのか?」

滝夜叉丸も納得していないようだった。それもそうか、と頷いた三木エ門を横目に、喜八郎は出発する前に教師から手渡された五つの文を皆に見せるように広げた。

「好きなのどーぞ」

一斉に手にした五人。そして同時に開封し、見た。

『………』

手にした彼らの反応は無表情に近いものだった。
まず最初に動いたのは滝夜叉丸だった。紙を仕舞い、上品よく歩きながら目的の場所へと向かった。

「どうやらこの平滝夜叉丸様が一番手のようだ。この町で有名な甘味処で団子。それを買ってくるみたいだ」
「その店、知ってるのか?」
「ああ。以前、恭弥先輩からいただいたのだ」
「…え?」

滝夜叉丸の言葉になんとも言えない表情になった三木エ門達。そこは委員会関係の小平太から、という返事を期待していたのだが、まさかの恭弥からという滝夜叉丸の返答は予想を上回ったものだった。それは聞いていた三郎と兵助も同じで、いつそんな交流があったのだと聞きたくなったのだ。恭弥は誰もが畏れる存在。たとえ滝夜叉丸だとしても畏怖して会話も出来ないはずだ。

「どうやって貰ったんだ…」
「普通に頂いたのだ」

滝夜叉丸曰く、いつもの委員会活動の帰りの時に恭弥から直々に渡されたとのことだ。小平太とも別れ、後輩達だけとなった場にタイミングが良すぎるくらいに現れた恭弥は、ただ一言「いらない」と言って放り投げるように渡したのだ。

「よ、よく逃げなかったな…」
「それが、情けないことなんだが四郎兵衛に助けてもらってな」

苦い思い出のようなもの。裏裏裏裏々山までランニングの後にバレーをし、解散したその帰り。屍となった後輩達を長屋へ連れて行く滝夜叉丸の前に雲雀は現れた。

「…なにこの群れ」
「「「??!!」」」
「…あ!恭弥先輩〜」
「やあ四郎兵衛」
「ひっ…ひひひ雲雀先輩じゃあありませんか?!い、いいいいったい我々に何かご用でしょうか!?」
「ただ校内を廻っているだけさ。風紀を乱していない者は居ないかどうか確認するために、ね」
「(ひぃぃい!!)」
「…それにしても、随分と泥まみれじゃないか君達。ああ、小平太か」
「(なんで分かったんですか)」
「(このメンバーで瞬時に理解なさったのだろう)」
「(それでも一秒も経ってないですよ)」
「(うるさい。お前は黙っておれ!)」
「恭弥先輩、今日は裏裏裏裏々山までランニングして、その後バレーしたんですよお」
「(そして何故四郎兵衛は果敢にも雲雀先輩に話しかけているのだ)」
「…へえ。お疲れ様、四郎兵衛」
「頑張ったんだなぁ」
「…なら、君達にこれをあげるよ」
「え…?」
「…あの、これは…」
「団子。あの暴君について行ける君達にご褒美さ」


一生忘れない出来事の一つだろう。ご褒美、なんて言葉で片付けて恭弥はその場を去って行った。茫然とする滝夜叉丸達だが、甘味を貰ったその喜びは大きくその四人で仲良く分け、食べたのだ。

「まあ、その団子は学園長先生から盗んだものだったのだがな」
「オイ」

さらり、とカミングアウトした滝夜叉丸。その話を聞いて、「あの恭弥先輩が」と思うのが普通だろう。群れを嫌い、群れている者を咬み殺す恭弥。それなのに、体育委員会で集まっていた滝夜叉丸達を脅しもせず咬み殺しもせず挙句の果てにはお団子をあげる。今までにない光景だっただろう。明日は槍でも降るのか、天変地異の前触れか。しかし、一人だけ違っていた。


***


「…」
「さ、三郎…」
「何で」
「え?」
「どうして同じ委員会である私達にそのお団子をくれなかったんですか恭弥先輩ぃい…!」
「あ、あはは…」

メソメソと、およよと、捨てられた女のように泣く三郎を慰める事しか出来なかった兵助。


***


そんな二人の様子など気付くわけもなく、滝夜叉丸は町で有名な甘味処近くになると仕草や言葉遣いが変わり始めた。

「でも、そんなに美味しいなら委員会の子達に食べさせたいなあ」
「あ、それは良い考えだねえ」

守一郎の言葉にタカ丸も賛同した。実習とは別に私情を挟んでしまうが、特にこれといった問題は無いだろう。買って帰って、委員会の後輩にお土産としてあげたい。きっと喜ぶ顔が見れるから。そう思って守一郎も一緒に買いに行こうとすると、

「やめとけやめとけ。滝夜叉丸の言葉を信用するなって」

三木エ門が呆れたようにそう言ったのだった。それにカチンときた滝夜叉丸は我慢出来ずに声を大きくして言った。

「どういう意味だ!恭弥先輩から頂いた事を差し引いても美味しかったのだ!餅生地はこしがありかつ柔らかかった。貰った団子は二種類!一つは餡が団子に乗っているもので、甘すぎもせず物足りなくもない餡は絶妙で舌になじみ、もう一つはみたらし団子だったんだ!たれに使われた醤油の甘辛さが砂糖と団子の甘さと相俟ってそれはそれは、」
「滝夜叉丸。滝夜叉丸」
「なんだ、喜八郎。人がせっかく、」

話の途中に呼ばれ邪魔をされた滝夜叉丸が振り返り見れば、

『本日売切御礼』

目的のあった甘味処の団子が全て売切れとなっていたのだった。これは流石の滝夜叉丸も目を疑った。それもそのはず、先ほどまで山盛りに積まれていたのだから。背後では喜八郎達が「お疲れ様ー」「バカだな、お前」「…何も言えないな…」という言葉が送られる。
始終見ていた彼らは気付いていたのだ。滝夜叉丸が熱弁をふるっている間に、滝夜叉丸の話を聞いていた通りすがりの町の人々が甘味処へ大量に押し寄せている光景を。つまり、滝夜叉丸の熱弁が店の宣伝となってしまい自分の課題を達成する事が出来なくなったのだ。

「うぅう…美味しいのに…!」

ショックを受ける滝夜叉丸に、非常にも三木エ門達は他人のふりをしようとその場から遠ざかる。未だに撃沈する滝夜叉丸。そんな彼に声を掛けた者が居た。

「お嬢ちゃん」
「なにっ!」
「ほら」

そう言って手渡されたのは、干笹に包まれた団子。目尻に涙を浮かべていた滝夜叉丸にとっては狐につつまれたようなものだった。滝夜叉丸に団子を渡したのは、その甘味処の店主だった。にっこりと人良さそうな笑みを浮かべて言った。

「店の前で派手に宣伝してくれたお礼だよ。ありがとねー」

そう言って店主は店の中へと入っていった。
事の様子を見ていた喜八郎達。滝夜叉丸へと目を向ければ、

「ほらみてー!団子ゲットしちゃったぁ」

心底嬉しそうに笑みを浮かべていた。その勢いは今にでも踊り始めるくらいで、その喜びが癇に障った三木エ門は文句を言う。

「運が良かっただけじゃないか!!」
「ふっ…運も実力のうちというだろう」
「このっ、バカ滝夜叉丸がぁ!!」
「まぁまぁ、三木エ門君…」

タカ丸に宥められながらも四年生達はその場を後にした。


***


「…運だとしても、哀車の術と考えたら合格、か?」
「相変わらずアホにも見えるが…合格にしといてやるか」

どれも偶然が偶然を呼んだようなものだが、滝夜叉丸が言った通り、運も実力のうちとも言う。それを考え、兵助と三郎は滝夜叉丸の課題を合格にした。

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