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02



それから程無くして野太い声が聞こえなくなった頃、学園の校庭の方では違う意味で騒めいていた。

「え?誰?」
「うわぉ」
「四年生だ」

通りすがる忍たま達が皆、頬を赤く染めて見惚れてしまう。正門付近で集まっていた六年生と五年生も、歩み寄ってきた彼らの姿に目を丸くした。

「おや」
「おお」
「あ、七松先輩!」
「わぉずいぶんと可愛らしくめかしこんでるねー」

赤面しないものの驚く様子の先輩の姿に、四年生は嬉しそうに笑う。
何を隠そう、四年生は女装をしていたのだ。
流石はアイドル学年と謳われるだけあり、綺麗な着物に可愛らしい化粧をすれば女性よりも美しく可憐な美少女へと変化を遂げたのだった。

「校外実習かい?」
「はい」

伊作に訊ねられ答えたのは滝夜叉丸。淡い黄色を基調とした可愛らしい花柄の着物は、彼によく似合っていた。

「おほー、皆似合ってんなー!」
「ふっふっふっ!そうでしょう、竹谷先輩!なんたって戦輪を使えば学園一のアイドル学年四年生のナンバーワンの滝夜叉丸が似合わないはずがないでしょう!」
「あの、そこまで言ってないぞ?」

グダグダグダとお決まりの自慢話に竹谷は苦笑を零す。それを横目に、仙蔵達も各委員会の後輩の女装を褒めていた。

「流石は作法委員会だ。うむ、美しいぞ喜八郎」
「ありがとうございまーす」
「中々の出来栄えだな。実習、ギンギンに頑張って来いよ」
「はい!」
「守一郎、そんなガチガチに緊張するな。おしとやかにすれば、どんな男もイチコロだ!」
「が、頑張ります!」
「タカ丸さん流石元髪結いなだけあって、皆の着物に似合った髪型にしてるのだ」
「ありがとう兵助くん。すっごく楽しかったんだ〜」

嬉しそうに笑う四年生達。可愛い後輩だが、上級生の名に恥じない出来栄えに、何故だか五、六年生も嬉しく感じた。
だというのに、

「それにしても三木エ門」
「なんだ、滝夜叉丸」
「おまえのその口紅はなんだ?まるでヒトでも喰ったのかのような真っ赤な紅をつけおって」
「!」

また始まった。と誰かが呟いた。滝夜叉丸と三木エ門の言い合いに、五、六年生はため息を吐いた。

「んなモン喰うか!!」
「じゃあなんだ?それは。紅ショウガをたらふく食ったのか?」
「なんだと!!」
「真っ赤な紅ほど気味悪いものはないぞ。お前の肌に合うのならこっちにしろ」
「!」

ポイッと投げ捨てるかのように渡されたのは紅。しかも、三木エ門がつけている紅よりも薄く淡い色の紅だった。渡されたが、素直に礼を言えなかった三木エ門は、「し、仕方なくつけてやる!」と天邪鬼な発言をしたのだが…。

「遅れるよ」
「分かってる。私の前に立つなアホ八郎!」
「守一郎くん、行こっか」
「は、はい」

と、見事に同級生に無視されたのだった。

「わたしを置いていくなっ!」

そう叫んでしまっても無理はなかった。
順番に出門表にサインをした四年生は、出て行く前に先輩達に、

『いってきまーす』

と、告げて学園を後にしたのだった。
五人の姿が見えるまで手を振った五、六年生は息を吐く。たとえ男児で可愛い後輩でも、皆顔が整っているために可愛い女児にしか見えなかったのだ。決して衆道という興味を持っているわけではないが、見間違えても可笑しくは無かった。

「校外実習だけど、すぐ近くの町でなのかな?」
「知らん。そこまでは流石に教えて貰おうとは思わなかったからな」

伊作の言葉に仙蔵が答えた。
実際にその問いが正しいのだろう。たとえ後輩であろうと、授業の一環であろうと、これが世に活躍する忍であるならば任務を漏洩していると同じなのだから。
仙蔵の言葉に「それもそっか」と答え、納得していた伊作。
と、その時だった。

「今回の実習は少し遠い町まで行くんですよ、伊作先輩」

さらり、と伊作の問いに答えた者がいた。
声がした方向へ振り向けたば、先ほどまで姿が見えなかった三郎の姿が。

「違う町なんだ、実習場所」
「ああ。歩く距離はまあそれなりにあるが、特にこれといった問題はなさそうだからな」

勘右衛門にそう告げる三郎。すると、兵助が言った。

「三郎。用事は終わったのか?」
「ああ。待たせて悪かったな」
「?二人とも、何処に行くんだい?」
「そういや、二人とも私服じゃねーかよ」

五年の言葉に、しかと三郎と兵助に目を向けると確かに二人は私服だった。何処にでもいそうな恰好の男児。三郎はあっさりと答えた。

「私と兵助が、四年生の実習の審判役を任せれたんだ」
『え?』

三郎の返答に口をポカーンと開けたのは残りの五年生と小平太、文次郎、留三郎だった。仙蔵は「なるほど、だから私服なのか」と妙に納得していた。三郎と兵助は出門表にサインを書きながら続けた。

「実習場所はニセクロバリ領地の町ですよ」
「ニセクロバリ城か…。特にこれといった噂は無いな」
「ええ。ですから、問題は無いと思い学園長はその町を選んだのでしょう」

サインを書き終えた二人は、戸を開けて門をくぐる。

「というわけだから、勘右衛門。学園の事は頼んだぞ」
「分かった」
「気を付けてね」
「行ってくるのだ」
「おう!行ってらっしゃい!」
「鉢屋!久々知!厳しい判定をするなよ!」
「七松先輩、それじゃ実習の意味がないです」

小平太の言葉に律儀に答える三郎。五年生は互いに手を振って、三郎達も四年生の後を追ったのだった。静かになった門前に立っていた彼らだが、ふと勘右衛門は思い出したかのように呟いた。

「って、恭弥先輩いるんだから、学園のこと頼まれても意味ない気がするんだけど…」
「しかし、恭弥は風紀を乱す事以外はお前達に任せているのだろう?そういう意味で言ったのではないのか?」
「あー…そうですね」

仙蔵に呟きを拾われ言われた勘右衛門は、納得して笑った。

「さて。私達も戻るとするか。委員会もあることだしな」
「そうだねー」
「おい文次郎。いい加減、予算をもっと寄越せ」
「なに言ってんだバカ留!お前らにあげる予算なんてこれっぽっちも無ェんだよ!」
「なんだとォ!?」
「やるかァ!?」
「ちょっと二人とも!ここで喧嘩しないでよ!」

彼らは気付かなかった。

「相変わらずだなぁ…」
「これが日常茶飯事ってやつか?」
「うーん…そう言っていいのやら…」

戦国乱世の最中、平穏無事な日常にゆっくりと、ゆっくりと獲物を狙う蛇の如く魔の手が差し掛かっている事を。
そして、

「ミードリータナービクーナミモリノー」

不思議な歌を口ずさみながら、黄色い鳥が頭上を通ったことにも。

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