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「#年下攻め」のBL小説を読む
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04



忍たま達が起床する時間帯になった頃、各学年ですでに庄左エ門の帰還の話が広まっていた。庄左エ門と関わりのある忍たま達は涙を流し、歓喜し、安堵した。今は保健室で療養しているというのもすでに回っていて、保健室の周りには忍たま達が大勢集まっていた。

「庄ちゃん!!」
「庄左エ門ッ!!」
「庄ちゃんッ」

それはもちろん庄左エ門の仲間であるは組も同じことだった。

「皆っ…!!」

まだ布団から起き上がってはいけないと、校医である新野先生から言われた庄左エ門は寝た状態で再び仲間と再会出来た事に喜びを露にした。乱太郎達も庄左エ門に重度な怪我を負っていない事に安心し、ボロボロと拭う事を忘れ涙を流した。
嗚呼、帰ってきた。無事だった。我らは組の学級委員長が帰ってきた。

「ぶ、無事でっ…良がっだよ゛ぉぉお!!」
「庄ちゃぁあんんっ!!」

乱太郎の声から広まり、は組の子供達は声を上げて泣き出した。庄左エ門は最初こそ泣き止まそうと彼らに手を伸ばしたが、彼らにつられてからか、だんだんと視界がぼやけていくのを理解した。

「皆っ…泣くな、よぉ…!」

嗚呼、帰ってこれた。
身体の所々が、自分で傷つけた身体が悲鳴を上げる。それでも、またこうして仲間に会えたことに喜びを隠す事は出来なかった。傍に控えていた担任である山田先生と土井先生もこうしてまた一年は組が揃った事に喜びを感じた。

「乱太郎達、庄左エ門とたくさんお話をしたいのは分かるけど、もう少し待っててくれるかい?」

感動に水を差した、と言えば言い方が悪いが申し訳なさそうにそう言ったのは保健室でずっと帰りを待っていた伊作だった。伊作はまだ庄左エ門の怪我を完治していないし、ここでまた焙り返しては助かったのに意味がなくなる。人攫いにあってまだ精神は安定していないし、嗅がされた睡眠薬がまだ体内に残っている。身体の影響を考え、伊作は乱太郎達にそう言った。

「もっ…もう少しだけっ…!」
「庄ちゃんとまだ話してないですっ!」
「お願いします!伊作先輩ッ!!」
「っ…」

彼らの気持ちは十分伊作にも理解しているつもりだった。たった一晩だけだったが、自分の仲間が一人辛い目に遭っていたのだ。その恐怖を拭い去るためには、こうやって仲間と楽しいことを話して、忘れ去れるのが一番であることなど、伊作は承知だった。
しかし、庄左エ門の体調を一刻も早く良好な状態にするためには絶対安静にしなくてはならないのだ。

「そうしたいのは山々だ。けど、元気な庄左エ門に会いたいのなら、今は我慢してくれ」
「っ…でも!」

納得がいかない、と顔に書いてある乱太郎達に伊作が自分の方が折れないうちに無理やりではあるが彼らを保健室から追い出そうと重たい腰を上げた。
その時だった。

「ねぇ、何してるの?」
「!」

何度も聞いたことのある友人の声。たくさんの忍たま達の気配に混じっていたからか全く気付かなかった自分に内心後悔する伊作。それなのにあちらはこちらの気遣いなど全く気にしていないのだろう。ゆっくりとこちらへと歩み寄ったのだった。

「早朝から騒がしいし、うるさいよ。今は朝食をとる時間のはずだけど?」
「恭弥…!」
「風紀を乱しているし、群れているようだし…」

咬み殺していいかな?
恭弥の登場に畏れ、慄き、あまりの冷徹な眼に恐怖し、腰を抜かし、そして脱兎のごとく去って行く忍たまが次々と出てくる。は組達も恭弥の登場に涙が思わず引っ込んでいて、けれど、たとえ恭弥の怒りを買おうと此処から去る気は微塵もないように見えた。

「草食動物たちもさっさと散りなよ。それとも、伊作の言う事をちゃんと聞けなくなったの?」

馬鹿にするような言い方では組の子供達を見る恭弥。その言い方に思わず伊作が恭弥の名前を呼ぼうとしたが、

「…」
「っ…」

彼の目と合った瞬間、何も言えなくなった。恐怖に近い、脅迫のような視線。恭弥が何を考えているのか全く分からない状態で、伊作は黙る事しか出来なかった。
そんな中、ポツリと誰かが恭弥に対して言った。

「…庄左エ門を、見捨てたのにっ…」
「ッ!」
「(まずいっ!!)」
「…何?」

微かに聞こえた言葉に、庄左エ門は目を丸くし、伊作は青ざめ、そして恭弥は僅かに瞳孔を開かせた。声を発した主であるきり丸は、俯かせていた顔を上げ、涙目で恭弥に言った。

「庄左エ門を見捨て癖に、なんであんたがここにいるんすか!!本当は、庄左エ門や…俺達のことなんてどーだっていい癖に!!」
「きり丸ッ!!」
「きり丸、やめなさいッ!!」

我慢の限界だったのだろう、きり丸は今にでも恭弥を射殺さんばかりの目で言った。慌てて山田先生と土井先生がきり丸を制止しようするが、きり丸は止まらない。

「群れているなんて…あんたの気分なんてどうでもいいんだよ!!庄左エ門を、大事な後輩だなんて思ってなかったのにッ…!!」
「!きり丸ッ!!!」
「あんたが此処に来る資格なんてねぇんだよッ!!!」

土井先生がきり丸の名前を呼んだものの一歩遅く。一瞬でその場の空気が沈黙と化した。聞こえるのは我慢していたものを吐き出した荒い息遣いのきり丸の息だけで。乱太郎達はきり丸の怒りにただ驚き。は組の担任は止められなかった己を悔み。庄左エ門はきり丸を止めれなかったことと、自分が居ない間に起きた出来事に目を丸くし。伊作は茫然とその光景を見る事しか出来ず。
恭弥は…――――


「……それで?」


無感情で、読み取ることのできない様子で、言葉を発したのだった。

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