×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
02



「ねぇ」

庄左エ門の言葉を遮り、聞こえたのは、幾分平常の声より低い恭弥の声。

「そろそろ黙りなよ」

咬み殺すよ。
脅しでもあるその言葉。ピリ、と彼から殺気が放たれている事にも気付き庄左エ門はさきほどの恐怖とはまた別の恐怖が生まれ始めた。
自分に対して怒る恭弥は見たことが無かったからだ。
雲雀恭弥という男は、理不尽な怒りを見せることは無い。自分の周りで群れているのは、まぁ彼の性分というか、そういうものである事は置いておいて。自分の誇りを貶されたり、学園の危機が起きれば、彼はいつもとは豹変して怒りを露にし、容赦ない仕打ちをする。
だから、今自分に対して怒りを向けられている事に庄左エ門は恐怖した。

「…何に対しての迷惑なの。僕は一度もそんな事言ってないんだけど」
「で、」
「君はまだ十歳の子供だ。冷静だからって、それで我慢と繋がるわけない」
「…」
「君は今は一年は組の学級委員長じゃなくて、十歳の子供の黒木庄左エ門だ。十年しか生きていない子供が我慢するな」
「っ…ふぅ…」
「学級委員長だから。…それが何?そんなもので恐怖して、震えて、泣くのがいけないと思わないでくれない?」

まだ何も知らないことの多い子供に、そんなものを求めるわけないだろ。
泣きたいなら泣けばいい。
恐かったのならそう言えばいい。
我慢することは何もない。

「僕が君に対して怒っていると思ってたのかい?それこそ馬鹿馬鹿しいよ。笑うくらいにね」
「先輩笑わないじゃないですか」
「三郎後で咬み殺してあげるよ」
「理不尽!」

咄嗟に間に入って来た三郎に厳しい言葉を返して、恭弥は言った。

「…僕が言いたいのはお前からの謝罪の言葉じゃない。別に礼もいらない。…庄左エ門、」

我慢することは無いんだよ。

「っ……」

恭弥の言葉に、庄左エ門は口が震えるのが分かった。彼の一言一言が胸に染み渡る心地がして、緊張の糸が解されていった。

「っ…こわか、た…ですっ…」
「…」
「な、なにが…起きてるのかっ…ぜ、ぜんぜ…わ、わかなくて…」
「…」
「頭の、なかじゃ…やることが…わかって、る…のにっ…」
「…」
「から、だ…ぜん、ぜっ…うごかなくて…っ…」

ボタボタ、と大粒の涙が庄左エ門の両目から零れ落ち、頬を伝い、恭弥の忍服に染みを作り始めた。

「ひっ…うっ…こわか、た……」
「…庄左エ門」

背中に居る彼に頭を撫でる事は出来ない。
だから、その事も気持ちも込めて恭弥は言った。

「…よく頑張った」

その言葉は“本来の自分”からの言葉。

「っ〜〜…!」

たった一言。その一言だけでも、恭弥の気持ちがどれくらい入っているかが分かった庄左エ門は、

「ひっ、恭弥っ…せんぱっ…!うっ、…あっ、うわぁああぁ!!」

赤ん坊のように、今までここまで泣いたことは無いと言えるほど、声を上げて泣いたのだった。恭弥は庄左エ門の泣き声を耳障りとは思わなかった。

「(…まさか、二人も泣くとはね)」

恭弥は後ろの気配が揺れていることに小さく呆れた。庄左エ門の涙に、言葉に感化したのかどうか分からないが、五年の二人組も、

「っ…」
「ぐずっ…」

静かに(なってはないが)涙を流していた。

prev/next
[ back / bookmark ]