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「#年下攻め」のBL小説を読む
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- ナノ -
03



「ちゃんと鳴け!!」
「締め付けが悪くなってんぞッ!!」
「あっ…いやぁ!!やだぁ!!あぁッ!!」
「ッ…」

恐い。
庄左エ門の心情は恐怖心のみだった。
女の痛々しげな声が、普段聞かないような声が耳に残って、頭の中で響いていく。何をしているか、なんて、見たい、なんてと思いたくない。狸寝入りをして背中を向ける事しか自分には出来なかった。

「くぅ…!出す、ぞぉ…!!」
「い、いやぁぁあぁ!!!」
「ひゃはっ…気持ちいいなぁ!!」

耳を塞ぎたい。目を瞑ったら、耳の方に神経が集中してしまって嫌でも聞こえてしまう。
自分の中にある小さな正義感が彼女達を助けなくちゃ、と思ってしまうけれども、それ以上に自分に恐怖が襲い掛かり手足が震えてしまう。
このまま学園に帰る事は出来ないのだろうか。先生達はもう少し辛抱してくれ、と仰っていたけれども、もう辛抱できない。
辛くて、怖くて、恐ろしくて。聞きたくないものを聞いて、見たくないものをこの目に映すのが嫌になる。
震える体を押さえつけようと手に力を込めるけれども、何の効き目もない。

「……?」

ふと、庄左エ門は何か違和感を覚えて目をゆっくりと開けた。辺りは変わらず、攫われた子供達が居たけれども、何かが可笑しいと思えた。
聞きたくない声が、消えた。
若い娘達の声や、男達の下品な声が一切、消えていた。
何が起きたのだろうか。
心臓が物凄い速さで脈打っているというのに、頭は妙に冷静で。庄左エ門は授業で習った事を思い出し、壁に、戸に、床に耳を当てて様子を伺った。
足音一つ、聞こえなかった。

「っ…」

人の気配が全くない、という事はあり得ない。
一刻ごとに見張りは交代していたし、忍者ではなかったから足音は嫌でも聞こえた。自分が狸寝入りをしていた事でさえ気付かなかった人攫い達だったから。
そして庄左エ門はふと思う。

「……」

逃げる機会ではないのか、と。
自分一人で逃げるわけじゃない。誰かに伝えて、応援を頼んで、攫われた人たちを助けて。
それを自分一人で出来るのだろうか。

「っ…」

無理だ。いつもはお約束で一年は組の皆が居たから冷静になれて、作戦を立てることが出来た。でも、今は自分一人で、頼れる存在は誰一人いない。
冷静になろうとしても、今が好機だとしても、この状況を自分一人で打破できる可能性は低いと考えても良い。
それに、まず自分はこの建物や人攫いの人数を把握していない。威力偵察をすべきであることは分かっているけれども、此処でそのような事をしたらすぐに見つかるし、最悪の場合は、

「ッ…!」

殺されるかもしれない。
最悪な方向へと勝手に働いていく頭が恨めしく思いながらも、どうすればいいのか分からず、冷静になれない。落ち着け、と自分に言い聞かせても落ち着くことは出来ない。再び恐怖心が生まれ、手足が震える。
その時だった。

ガチャ…

「!?」

扉の鍵を開ける音。
全く気配に気付かなかった自分に叱咤したいと思いながらも、身体は硬直してしまった。いつ此処に近づいたのか、足音さえも聞こえなかった。自分はずっと寝ていたから、今起きているのがバレてしまったらただじゃすまされない。
次は自分が痛い目に合されるのだろうか。
自分が一番最初に売られるのだろうか。
それとも、殺されるのだろうか。
考えているうちに扉は開き、ゆっくりと光を漏らしていく。
もう駄目だ。
庄左エ門は身体を丸めて目を閉じて、自分が気付かれないように息を止めて気配を消した。

「やっと見つけた…」
「!」

安心したように漏らした声に庄左エ門は勢いよく顔を上げた。逆光で顔は分からないが、そのシルエットで誰かはすぐに理解出来た。
姿を見ただけでも、自分の心が落ち着いたのを庄左エ門は分かった。

「…此処に、居たんだな…」

ゆっくりと庄左エ門に歩み寄る彼に、庄左エ門は掠れた声で彼の名を呼んだ。

「はちや、せんぱ…」

呼ばれた彼は、一度足を止めたかと思うと、小さく息を吐いてその呼びに応えた。

「あぁ。…助けに来たよ、庄左エ門」
「…っ!」

嗚呼、よかった。鉢屋先輩だ。
庄左エ門はようやく安心できる存在に安堵し、息を吐いた。と、思ったら三郎はギュッと庄左エ門を抱きしめた。

「っ…、せんぱっ…」
「無事でよかった…!」

ずっと不安だったから、可愛い後輩の姿を見て喜びが止まらない。本当に此処に庄左エ門は居るのだろうか、と不安になってしまう。けれども、自分が抱きしめている存在はまごうことなく自分に対して辛辣ではあるけれども可愛い可愛い後輩の一人で。
三郎は無事であり、外傷がない事に安心した。

「…鉢屋先輩」
「何だ、庄ちゃん」
「――――痛いです」

強く抱き過ぎです、と冷静に言う庄左エ門に、三郎は一瞬目を丸くした。けれども、なんだから可笑しく思い、小さく笑い言った。

「庄ちゃんったら相変わらず冷静ね!」

その言葉に、庄左エ門は小さくではあるものの笑みを零したのだった。
と、その時だった。

ドガァァアン!!

「!?」
「…」

突然の爆発音。庄左エ門は何事かと、爆発がした方向へ目を向ける。しかし、此処は建物の中。外で何を起きているのかは分からない。
しかし、ふと微かではあるが外で騒がしい声が聞こえた。
冷静になっている三郎に迷わず聞いた。

「あの、鉢屋先輩…」
「安心しろ、庄左エ門。別に戦をしているわけでもない」
「いや、それは分かりますけど…」
「ただな…、」

庄左エ門の言葉を綺麗に躱して言う三郎。
その顔には、

「我ら学級委員長の長を怒らせたようだ」

悪人面ともいえるような笑みを浮かばせていた。

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