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「#幼馴染」のBL小説を読む
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02



木々が揺らめき、鳥が羽ばたく。
野草が音を立て、獣が騒ぐ。
その中、微かに見えた藍と緑。
緑の後を追うかのように木々を跳躍する二つの藍。
無言であるように見える彼らは、音無き音で会話を成立させていた。

≪君達、教師達の話を盗み聞きしてたでしょ≫
≪盗み聞きだなんて言い方は無いですよ先輩ー≫
≪忍らしく情報収集してただけですよ≫
≪…そういう事にしといてあげる≫

矢羽音で会話をする三人。
緑の忍――恭弥は言う。

≪それなら得た情報を一つ残さず言いなよ≫
≪分かりました≫

恭弥に返事をしたのは藍の片方――三郎。
三郎は教師達から得た情報を報告した。

≪庄左エ門を攫ったのは巷で有名な人攫いだそうです。ここ数日、学園の近くの村や町でも被害が相次いでいるそうです≫
≪…≫
≪…恭弥先輩?如何なさいました?≫

突然黙った恭弥に不思議がり、藍のもう片方――勘右衛門が尋ねる。恭弥は何か考えていたようで、三郎たちに尋ねた。

≪その人攫い、何処かの城と繋がってるだろ≫
≪!≫
≪……≫

恭弥の言葉に驚く勘右衛門、そして静かに恭弥を見る三郎。後ろに目があるわけではないから恭弥は二人の様子がどう変わったかは分からない。しかし、二人の纏う雰囲気というものが変わった事に気づいたのか、恭弥は続けた。

≪今まで行方不明になったていう噂はあまり聞いていない。それに、人攫いで迷惑しているのなら、何処かの城主はなんとかしようとか考えるはず。それなのに何もしていない≫
≪…人攫いが何処かの城に援助されている、と?≫
≪そういう事だよ。違うかい、三郎≫

名を呼ばれた三郎は静かに答えた。

≪…恭弥先輩のおっしゃる通りですよ≫
≪その城の素性は分かっているんだろ≫
≪えぇ。先生方もすでに気づいているようです≫

先生達が話し合っていたのは、その人攫いと繋がっている城について。
表は領民を第一に考えていると好評を抱かれている城主といわれているが、裏では金儲けの為に領民以外の村々などから女子供を人攫いを雇わせて攫っているそうだ。そしてすべての女子供は金儲けの為に人身売買で海外へ売り飛ばされているとのこと。

≪(沢田綱吉がこの話を聞いたら怒るだろうな)≫

もちろん、恭弥も自分の大好きな並盛でそのような事件が起きた場合容赦なくその人攫いとバックについている人間を咬み殺すが。
恭弥の考えに気づかない二人は続けた。

≪庄左エ門は今はまだ無傷な状態ではあるものの、起きては何かを嗅がされ寝ての繰り返しだそうです≫
≪(睡眠薬か)≫
≪庄左エ門は人攫いから暴力――肉体的苦痛は受けられていないようです。…しかし、≫
≪勘右衛門≫

続けようとした勘右衛門を制する三郎。しかし、この矢羽音は学級委員長委員会のみで使用するもの。つまり、恭弥にも聞こえていたということにもなる。
その前に、恭弥に隠し事を通すことは誰にもできない。

≪続けろ、勘右衛門≫
≪っ…≫

勘右衛門は辛そうに、先生達から聞いた話をそのまま恭弥に報告した。

≪…庄ちゃん、起きてたんですよね…≫
≪あぁ…、陀羅尼助を飲んだんだね≫
≪はい≫

陀羅尼助。
由来としては、強い苦みがある為に僧侶が陀羅尼を唱える時に眠気を防ぐために服用されていたものである。現代では胃腸薬として服用されている。
それを恭弥は三郎たちに渡しており、いざというときにはそれを服用しろと言っていたのだ。

≪それで?≫
≪…先生方が言っていた事によると、狸寝入りをして様子を伺っていたそうです。…しかし、≫
≪…っ……≫

三郎は話すのをやめ、勘右衛門は悔しそうにしていた。
もちろん二人からは殺気が溢れていた。

≪…続けろ≫
≪っ、はい。…恭弥先輩から頂いたそれが仇となり、庄左エ門は…目の前で、若い娘が…人攫いの男どもに強姦されている光景を見てしまったそうですっ…!!≫

その言葉に恭弥は目を丸くした。
意味も分かる。その行為も分かる。この年になれば、興味を抱く時期でもあるから。
しかし、庄左エ門はその年でも時期でも何でもない。何も知らない無垢な子供が何の知識もないままでそれを見てしまうということは成長に影響が出てしまう。
三郎は続けた。

≪意識が混濁していたようで、厚着太逸先生が見せないように目を閉じさせた後気失ったそうです…≫
≪っ…庄ちゃん…!!≫

悔しくて、何も出来なくて、辛くて、勘右衛門はジワリと殺気を出した。
その瞬間だった。

ザワ…

≪!?≫

自分の殺気を覆い尽くすように、飲み込むようにして別の殺気が自分たちに浴びせられる。
言わずとも分かっている殺気の正体。
殺気に恐れながらも、三郎はその名を呼ぶ。

≪恭弥、せんぱ…≫
≪鉢屋、尾浜≫

木々を飛び越えている状態であるのに、殺気によってか、恭弥が足場にした木の枝が簡単に折れて地に落ちる。
殺気によって、森がざわめき、鳥が鳴き飛び、獣が散るように逃げていく。
恭弥は言った。

≪委員長命令だ≫

二人の方を見ずに、眼光を鋭くさせ前を見据えて言った。

≪一人残らず、≫

―――――――――――殺せ。

≪…諾!!≫

それは彼の忌諱に触れたという証拠だった。

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