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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
03



忠告をしたものの、恭弥は皆の様子が可笑しい事に気付いた。
一年は組が声を上げて泣いている。
泣き止まそうと必死になっていた五年生。
呆然と立ち尽くしている三郎と勘右衛門。
そして、

「(…ワォ、珍しいじゃないか)」

六年生から微かに漏れている殺気。
ただ事ではなさそうだと、この様子からして察知出来る。しばらく黙り、口を開いた。

「何かあったようだね…」

三郎と勘右衛門が呆然としている事は委員会関係ということか。
ふと恭弥は自分の委員会の後輩を見ていない事に気付く。この状況ならば、彼はいち早く冷静に自分に報告をしにくるはず。
その彼がいない。

「……」

気配もなく、辺りを見渡してもいない。
ならば、彼がこの状況の原因になっている可能性があるのだろう。
と、恭弥の脳内で色々と考え事をしている最中だった。乱太郎がまだ涙を流しているにも関わらず恭弥に歩み寄った。

「ひ、雲雀先輩!」
「猪名寺乱太郎…」
「じ、実は…、庄左エ門が…!!」
「?」

先ほどの仙蔵が話していた通りに、庄左エ門が攫われた事等色々報告する乱太郎。所々切るところが違って聞きにくかったが、恭弥はただ無表情で乱太郎たちの様子を見ているだけ。
乱太郎の話を聞いている間、ずっと六年生から殺気が消えることなかった。

「だからっ、っ…だから、…」

全てを話し終えた乱太郎は、頑張って最後まで恭弥に言おうとする。恭弥はただじっと乱太郎を見ていただけで。
ここでようやく口を開いた。

「…それで?」

残酷な一言を。

「ぇ…、」
「君達は、僕に何をさせたいわけ?」

何を、言っているのだろうか。
乱太郎達は恭弥が言っている言葉の意味を捉えることが出来なかった。
頭の回転が遅いからだろうか。
それとも聞き間違いか。

「僕に庄左エ門を助けに行ってほしいのかい?」

その言葉を聞いた瞬間、一瞬ではあるものの涙が止まる。
今まで黙って聞いていた伊作が「恭弥!!」と彼の名前を呼ぶが、恭弥は伊作を一瞥しただけで何も言わない。自分に何かを懇願するように見る乱太郎達を恭弥は非情な目をして言った。

「これは黒木庄左ヱ門の失態だ。僕がどうこうするようなモノでもないし、僕に頼むなんてお門違いだよ」

そう言って、恭弥は興味が無くなったようで乱太郎達に背を向けて歩き出した。乱太郎達は信じられない、裏切られたような気持ちになって恭弥に向け叫び言った。

「先輩は庄ちゃんの事をどうでもいいって思ってるんですか!?」
「…」
「庄ちゃんは後輩じゃないんですか!?」
「……」
「庄ちゃんは、先輩の大事な後輩じゃ、ないん、です…か…」
「勘違いするなよ」
「!」

足を止めて言う。しかし、こっちに顔を向けない恭弥。
恭弥は乱太郎達を更に絶望の淵に叩き落とすような言葉を吐いた。

「僕は一度もそんな事は言っていない」

今度こそ恭弥は振り返らずに去って行った。
乱太郎達の中に残るのは虚無感と絶望感、そして恭弥に対する失望だった。
何を期待したのだろうか、と思わず自問自答したくなるほどに自分達は恭弥に頼っていたのだろうか。そう考え始めると、まだ何もできない自分達が不甲斐なく思えそれが涙となり、彼らは再び悲しみに溺れた。
五、六年生は恭弥のあまりにも酷い言い方に共感できず、今はただは組達を慰め落ち着かせることが出来なかった。

「…あれ?」

ふと、兵助は何かが物足りない事に気がついた。

「どうかしたのか?兵助」

声を漏らしたのを拾い上げた八左ヱ門が尋ねる。兵助は「いや…」と小さくいい、そして答えた。

「勘右衛門と三郎、何処に行ったんだ…?」

先ほどまで呆然としたいた二人が忽然と姿を消した事に、兵助は疑問に思ったのだった。
いつから…?

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