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- ナノ -
02



木々を飛び越える。
足音を消す、誰にも気付かれず。

「…!」

大きく飛躍しようとした恭弥は何かに気付いて木の枝に止まった。スンスン、と嗅ぎ慣れた匂いに恭弥は呟いた。

「…火薬の匂い」

ということは近くで戦が起こっているということ。
恭弥は自分の口角が上がっていることを自覚しながらもゆっくりと立ち上がる。と、ふと自分の頭上に影が差し恭弥は見上げた。

「ミードリタナービクー…」

そこには小さな羽を必死に動かす黄色い小鳥が聞き慣れない、しかし恭弥には聞き慣れている歌を口ずさみながら飛んでいた。黄色い鳥は、空を旋回しつつ、ゆっくりと降りてきた。

「ヒバリ、ヒバリ」
「やぁ、ヒバード。君は何処に行ってたんだい?」

小鳥──ヒバードを誘導させて指に留まらせて恭弥は尋ねた。ヒバードは軽く恭弥の指を啄んだあと恭弥を見た。

「ヒバリ、アッチ。イクサ、イクサ」
「うん、そうみたいだね」

微かであるが、合戦の轟く音が聴こえる。
火薬の匂いもし、火薬の匂いに紛れて錆びた鉄の匂いもしていた。
合戦が起きているのは分かった。
ヒバードを空に放ち、恭弥は枝を蹴って木々を飛び越える。広い野原を半分に分かれた、二つの家紋。どちらも恭弥は興味は無いが、授業で習ったものであるからどの城か分かっていた。
タソガレドキ城とオーマガトキ城の軍隊だった。
戦況は噂通りタソガレドキが優勢で、オーマガトキの足軽はタソガレドキを前に後退していた。
それよりも、恭弥は気に食わない事があった。

「…群れ過ぎ」

咬み殺したくなる。
自分の下に居るタソガレドキ軍とオーマガドキ軍の足軽の数に恭弥は眉間に皺を寄せた。
合戦場に一番近い木まで飛んだ恭弥は、気配を消して様子を見る。

「ふーん、戦ってこんな感じか…」

馬に乗る大将や足軽、鉄砲隊、轅、甲兵隊の様子に恭弥は素直に感想を述べる。
平成の世界じゃ見ることのない戦。日本の歴史の資料として見たことのある光景が今、自分の目の前で起きている事に、感動すら覚える。
恭弥の場合、常人が体験出来ることのない事を今までしてきたと思うが。

「…戦を見に来たわけじゃないし、さっさと終わらせるとしよう」

戦場に行っても忍が居るわけがない。忍は基本的には影に生きる者。せいぜい足軽に装っているくらいだ。

「まぁ、雅之助が言ってた手練れの忍が怪我するわけないか」

有り得ない予想をした恭弥はその考えをすぐに消去して、森の方へ向かう。しかし、恭弥はふと自分が夏休みの課題で此処に来ている事を思い出して足を止めた。

「(たしか、タソガレドキ軍の忍隊の情報収集だったっけ…)」

面倒な事を課題にしたものだ、と今は居ない、どうせぐうたら生活をしている忍の学校の長を恨んだ。
しかし、課題なら仕方ないと割り切り、周りの気配を探り、恭弥は小さく息を吐く。
強者の気配は皆無だった。やる気を無くした恭弥は愛用武器を一瞬で収める。
雑魚に使うのが勿体ないと、思ってしまった。

「…僕には向かないな、こういうのは」

正々堂々咬み殺せばいいのに、忍はある意味つまらない。
だんだんとフラストレーションが溜まっているからか、恭弥から殺気、苛々が漏れ始める。周りの木々にとまっていた鳥たちは慌てて羽ばたく。木の傍で生活していた野生動物達が逃げていく。

「(ああ、早く咬み殺したい)」

今の恭弥にはそれしかなかった。そんな自分の欲望に忠実な恭弥にある声が耳に入った。

「はにゃ〜!」
「!」

気の抜ける声。
声がした方に目だけ向けると、そこには見覚えのある子供がオーマガドキ軍の陣地に捕まっていた。

「(あれは、一年は組の…。あんな所で何してんの…)」

問題を起こすと言われる一年は組の一人の、ナメクジ少年を見かけ、恭弥は疑問を抱く。ナメクジ少年、否、山村喜三太は風魔流忍者学校からの転校生であることは恭弥も知っていた。学校関係の情報は全て恭弥に届いているからだ。
今夏休みで、基本全員帰省しているはず。故郷が風魔の里にある山村喜三太も、帰省していると思っていたのだが…、

「(寄り道で来たのか…?)」

何故あんな場所にいるのかがただ分からなかった。

「……馬鹿じゃないの」

忍者のたまごの端くれであるくせに。
そもそも戦にいる理由が分からないからか、恭弥はナメクジ少年──山村喜三太を遠目で見ながら小さく呟いた。

「興味無い」

その言葉を投げ捨て、恭弥は再び跳躍してその場を後にした。


***


続いて恭弥が向かったのはタソガレドキ軍の陣地の背後の森。本来の目的にも適した場所で、恭弥は様子を見た。

「…余裕だね、一丁前に」

陣地にいる足軽達はのんびりとしていた。
大将も自ら出向いているからか、緊張感は皆無。

「……」

つまらない。
咬み殺したい。
その感情しか恭弥にはなかった。
そんな恭弥がとった行動は…

「咬み殺す」

ストレス発散だった。
恭弥は適当に咬み殺しても問題ない足軽を軍関係なく咬み殺したのだった。

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