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03



伊作との勝負を約束を(無理矢理)交わした恭弥は、一人園田村の外れに来ていた。特にするわけでもなく、ただ静かに佇んでいた。タソガレドキ軍との戦が終わり、穏やかになった風景を眺めながらヒバードと戯れる恭弥。
すると、何処からとなく三郎がやって来た。

「恭弥先輩」
「三郎。…どうかしたのかい?」

当たり前のように聞いてきた問いに三郎は少し間を空けて答えた。

「…いえ。タソガレドキ軍が撤収したとのご報告をしに来ただけです」
「そう。…出発はいつ?」
「橋と壊れた家屋を修理したり、片付けをするので半刻ほどは掛かります」
「分かった。指示は君に任せるよ」

三郎の方を見ず、恭弥は言う。いつもは此処で「少しは自分で指示をなさって下さい」などと言う三郎ではあるが、恭弥の様子がいつもと違う事に気付き冗談めいた事は言えなかった。

「何か、あったんですか?」
「…三郎、」
「何ですか?」

委員会の補佐として、後輩として、自分が慕っているからこそ、三郎は恭弥を手助けしたいと思っていた。
恭弥の言葉を待つ。

「……ぃ、」
「え?」

ポツリ、と何かを呟く恭弥。聞こえなかったから、三郎は聞き返した。
そして後悔する。

「―――咬み殺し足りない」
「…はい?!」

思わず恭弥の顔を見れば、ギラギラと飢えて獲物を探す肉食動物のような瞳をしていた。三郎は半分驚き、半分呆れた。

「何で今そんなに欲求不満そうな表情になってんですか!!」
「雑魚ばかりでつまらない」
「そうホイホイ強者がいるわけないじゃないですか!!」
「強い奴がいるならただ咬み殺す。それだけだよ」
「それは恭弥先輩だけの考えです!!」

駄目だこの人、私の手に負えない。
そう判断した三郎は、小さくため息を零して恭弥に言った。

「先ほど伊作先輩と約束したじゃないですか」
「それでも足らない」
「我慢してください!!」

真剣な表情だったから何かと思えば、まさかの欲求不満なだけ。

「私もう行きますからね!後でまた来ます!!」

これ以上付き合ってられない。
三郎は恭弥にそう言い、足早にその場から去ろうとした。しかし、

「三郎」
「何ですか」

恭弥に呼び止められ、三郎は立ち止まる。そして呆れながらも恭弥の方を向こうとしたら、

「お疲れ様。ゆっくり休みなよ」
「――…え?」

恭弥はすでに居なくなっていた。
聞き返す事も出来ず、ただその場にはポツンと三郎しか立っていなかった。三郎は恭弥が言った言葉を頭の中で何度も繰り返し、そしてだんだんと顔を赤く染めて…、

「ふ、不意打ちでそういうのはずるいですよッ!!!」

気配は感じないが、きっと近くにいる恭弥に向けてそう叫び三郎は園田村の方へと戻って行った。

「…」

三郎の気配が消えたのを確認した恭弥はゆっくりと木の影から現れる。そして、鋭い目つきで違う場所に生えている木を睨みつけた。

「いつまで其処にいるつもりなの?」
「…なんだ、バレてたんだ」
「…僕を舐めないでくれる?」

恭弥に言われて現れたのは雑渡昆奈門。眉間に皺を寄せて恭弥は昆奈門を見る。

「何か用?」
「何も無い…、と言いたいけど」
「?」

昆奈門は恭弥を一瞥して言った。

「近頃、とある城がどっかの城と負けたというのに、また戦の準備をしているっていう噂があるんだよね」
「……」
「あまりいい噂を聞かない城でね」
「それで?僕にどうしろと?」
「…いや。ただ言いたかっただけだよ」

「じゃあね」と、昆奈門はそう別れを告げて一瞬で消えた。無言で昆奈門の気配が消えるのを待った恭弥は、小さくため息を吐いて歩き始める。
歩くにつれて、口角が上がる。

「…また面白そうな事が起きそうだ」

呟きと共に恭弥の姿は消えた。
それが自分に吉となるか凶になるかは別として、恭弥はただ自分と互角に戦える存在がいるか、それが気になったのだった。

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