02
逆茂木に設置された火矢によって怪我を負ったタソガレドキ軍を、忍たま達が手当てをしていた。乱太郎もその一人で、は組の仲間達に包帯制作の手伝いなどをしてもらいながら自身も怪我人の手当てをしていた。
しかし、しんべヱは一人頭の中で違う事を考えていた。
「喜三太、大丈夫かなぁ…」
そう、喜三太の事だった。
夏休み明けから全く会っていない友達。しんべヱの呟きに反応したのは、傍で作業していたきり丸達。彼らもまた、喜三太達の事を心配しているのだった。
そんな彼らに、乱太郎は言った。
「大丈夫だよ。皆きっと無事だよ」
「どうしてそんな事言えるの?」
絶対的な自信を持って言う乱太郎に尋ねる。乱太郎は「え?えーっと、」とどう言えばいいのか分からず少し考えた後、言った。
「…主人公の勘、かな」
その答えに、きり丸達は呆れ帰ってしまった。本人もちょっと言い過ぎたかと思ったのか、苦笑いを浮かべていると伏木蔵に支えながら伊作がやって来た。
「乱太郎」
「あ、伊作先輩!」
「あの人、ちゃんと約束守ってくれたね」
「え、あ…」
伊作が誰の事を言っているのか、一瞬分からなかった乱太郎だがすぐに理解した。そのまま三人は空を見上げて呟くようにその名を言った。
「ちょっと、こなもんさん」
…本名は雑渡昆奈門であるが。
心の中で彼に礼を言っている時だった。
「ヒィィイイ!!?」
『!?』
突然野太い悲鳴が上がった。いきなりだったから誰もが驚き、そして悲鳴を上げた方へ目を向ける。
そして自分達も驚愕する。
「っ!?」
「ちょ、今帰って来る…?!」
「……マズイな」
「冷静に言っているバヤイか!」
ちょうど村の入口。
村全体には捕虜したタソガレドキ軍や忍たま達、多くの人間がいる。
そんな状態で、
「…」
彼、学級委員長委員会委員長は帰ってきた。
「よ、よお恭弥。お前、何処に行って…、」
「ねぇ」
『ッ!?』
一瞬で背筋が凍ったのを、留三郎は感じた。
それほど、恭弥から殺気はにじみでていた。
恭弥は若干俯いていて、こちらから表情を伺うことが出来なかった。そのような状態で地を這うような声に恐怖しない者は居ない。
「誰が、群れていいなんて言った?」
「お、おおおお落ち着け恭弥!!い、戦は終わったんだもう戦う事はな、」
「戦いを終わらせるのは僕の勝手だ」
「通常運転!」
文次郎が言っても聞かず、恭弥は一歩前に出た。
「群れている奴は…、」
再び収めていたトンファーを取り出し、恭弥は構えた。
「咬み殺す!」
その瞬間、六年生と学級委員長委員会である三郎や勘右衛門は気付いた。
恭弥は本気で全員を咬み殺すつもりだと。タソガレドキ軍だけではない。その文字通り、全員、忍術学園の忍たまも含めて、恭弥は咬み殺すつもりだった。
それは流石に洒落にならない。
「ちょ、待て待て待て待てぇい!!!」
「恭弥お前何言ってんだ!?」
「お、落ち着け恭弥!!」
「そうですよ落ち着いて下さい!!」
「やだ」
「我侭言うな!」
慌てて六年生と三郎、そして乱太郎は恭弥を止めようと躍起になる。此処で彼が暴れれば、それこそ大惨事になりかねない。
「恭弥ストップストップストーップ!!」
「無闇に暴れるのは駄目です!」
「乱太郎の言う通りだよ!怪我人をもう出したく無いんだ!」
「じゃあ伊作が後で僕の相手をしてね」
「分かったよ!…って、え?」
『(あ、伊作ご愁傷様)』
六年生は皆同時に伊作を哀れんだ。反対に伊作はピタリ、と止まってしまう。恭弥はしてやったり、というような笑みを浮かべて言った。
「そ。いい返事をありがとう」
「ぇ、あ、まっ…!!」
「これでチャラにしてあげるよ」
「ぇ、えぇーッ!!?」
礼を言って、恭弥はその場を後にしたのだった。
そして伊作の声が、虚しくも園田村に響き渡ったのだった。
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