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05



ダッ!!

「ッ!?」

助走も付けず、脚力だけで跳躍した恭弥。それが忍の基本であるものの、昆奈門が驚いたのはその高さだった。
地上から約25メートルの高さに昆奈門は居たのだが、彼は少しだけ助走をつけて木に上った。しかし、恭弥の周りには撒菱があり助走をつける事は出来ない状態。
なのに、彼は今自分とちょうど同じ高さへ来ている。

「(ホント、君には驚かされてばかりだ)」

殺り合っている最中だというのに、昆奈門は何故か恭弥の強さに嬉しくなった。恭弥はトン、と昆奈門と同じ枝に着地して昆奈門を見る。
そして真っ直ぐ、昆奈門にトンファーを向けて構える。

「これくらいで、逃げたと思わない事だね」
「…そうだね。少し、君を甘く見ていたようだ」

昆奈門は重たい腰を持ち上げ、恭弥を見る。視線がかち合った時、一瞬だけ恭弥は眉間に皺を寄せた。

「ふぅん、認めるんだ」
「私も人を見る目はあるからね」
「そう。それじゃあ、」

恭弥はトンファーをゆっくりと頭上へ持ち上げる。昆奈門はクナイを構え、攻撃を待つ。

「――…やめた」
「…は?」

恭弥はトンファーを降ろして昆奈門を視界の隅に置いた。突然の事で昆奈門は目をパチクリして驚きを隠せなかった。しかし、恭弥からは殺気が無くなっていていた。

「貴方、本気じゃないし飽きた」
「飽きたって…」
「本気じゃなかった貴方に言われたくない」

昆奈門は小さくため息を吐いた。
本当に彼は自由人である事が改めて分からされた。自分の戦い時に戦い、強い者を求めるその執念。
彼はまさに≪雲≫。
それにしても自分勝手過ぎじゃないかと思ってしまうのは仕方がない。
恭弥はトンファーを仕舞い、昆奈門を見る。

「貴方が本気の時、咬み殺すよ」
「…君とはもう戦いたくないよ」

心底思ってしまったその言葉。
恭弥は小さく笑う。

「ふーん。…あ、そうだ」
「?」

思い出したかのように恭弥は昆奈門の懐を指差して言った。

「その薬草を盗んだって事は、ドクタケにでも仕掛けるつもりでしょ?」
「!…なんで分かったの」
「さぁ、なんでだろうね」
「…ホント、恭弥君って何者なの」
「言っただろ。…僕はただの忍たまだよ」

忍たまにしては強すぎるから聞いているんだって。
昆奈門は恭弥に何を言っても無駄だと悟り、小さくため息を零して恭弥を見る。

「ホント、ウチに入って欲しいんだけど」
「僕は誰にもつかない。僕は一人が好きだからね」

弱いから人は、草食動物は群れる。
強い者は自分の恰好の獲物。
自分は捕食者でもあり、自由人でもある。
故に、他人の命令はたとえ勅命であろうとも聞かない。

「君を貰ったとしても、その性格が難ありだからねぇ。うちの殿も扱いが難しくて放置しそう」
「その前に僕は君の城に就く事もないから安心しなよ」
「残念だなぁ」

あからさまな態度に恭弥はため息を零す。瞬間、一変して恭弥は昆奈門を睨み付け言った。

「…失敗したら咬み殺すから」

そう言って恭弥は一瞬で消え去って行った。恭弥の気配が完全に消えた頃に、昆奈門は幹にすがるように座る。

「誰にもつかないって…、彼、自分の軍でも作るつもりか…?」

恭弥の考えが一切分からない昆奈門は将来、彼が箱庭から卒業した後の乱世の安寧を願った。
きっと彼以上の強さを持った人間は見つからないだろうから。


***


「…伊作、君って本当に忍たまの六年生?」
「あ、あはは…」

園田村へ帰った恭弥が待っていたのは、自滅した保健委員会委員長とその他二名。傍にいた乱太郎から事情を聞いて開口一番に言ったのが伊作を疑うような言葉。

「不運と言われていても、こんな状況で自滅するのは馬鹿としか言えない」
「そ、そこまで言わなくても…」
「…はぁ」

何を言っても無理だと判断した恭弥はため息を吐いて御堂から去った。そのまま向かうのは村の中心付近。そこには、さっき村へ帰還したのだろう仙蔵の姿があった。

「仙蔵」
「恭弥」
「…ナメクジ小僧は見つかったの?」
「あぁ」
「そう」

それだけ会話をして、恭弥はまた一人村を後にした。

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