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03



少し考えたように見せたと思えば、

「保健委員だから!」

後輩二人と息ピッタリに宣言する伊作に、昆奈門は片方しか見えない(無い)眉をしかめる。
理解出来ない、そう顔に書いているように見えた。

「お前、忍者に向いてないんじゃないか?」
「よく言われます」

伊作は言われ慣れているからか、しれっと言い放つと、昆奈門はフッと小さく笑って立ち上がる。

「いつかあの時の恩を返さねばと思っていた。タソガレドキ忍者隊は園田村との戦いには手を出さん。これが私の君への礼だ」
「えっ?」

さらり、と爆弾発言をした昆奈門は颯爽と御堂を出て行った。伊作は慌てて昆奈門を追いかけた。

「…ん?」

ふと伏木蔵は気付いた。
先程伊作と話をしていた薬草の筒が一つ無い事に。
御堂の外では、昆奈門が出て行った先には、ちょうど交代のためにやってきた左近と数馬が出会した。突然の曲者の登場に二人は恐怖し、驚いた瞬間二人の姿は消えた。

「左近!数馬!」

駆け寄ろうとした伊作が階段の板を踏み外す。加えて、数馬が持っていた松明がちょうど伊作の足元にあり、伊作はそれに滑り、よろけた瞬間同じく姿を消した。

「伊作先輩!」

悲鳴を聞いた乱太郎と伏木蔵が外へ飛び出すと、ほぼ同時に怪しい気配を追っていた六年生が御堂の裏に到着したところだった。

「遅かった!」
「くそぉっ!」

伊作達の元へ向かう六年生とすれ違うようにして、昆奈門は森の中へと消えて行った。
一方、乱太郎達は伊作と数馬、左近の心配をする。

「何でこんな所に落とし穴が……」
「落とし穴じゃありません」

乱太郎が驚き言えば、どこからか鋤を背負った四年い組の綾部喜八郎が現れた。

「蛸壺三号のターコちゃんと、四号のタワエモンです。村の土湿っぽいんだよね。お尻濡れてませんか?」

ドガッ

瞬間、文次郎怒りの鉄拳が綾部にお見舞いされた。

「蛸壷を掘るなら最前戦にしろ!」


***


伊作の元から離れた昆奈門は野山を駆ける。
伊作達が怪我をしていたように見えたが、仮にも忍者。忍者の端くれであるならば、あの程度なら大丈夫だろう。
それにしても自分は何をしているのだろうか。
昆奈門は自分のした事に自嘲した。
まさか、タソガレドキ軍の忍者隊組頭があの子供達を気に入るとは思わなかった。
今まで多くの女子供を容赦なく自分の手で殺めてきたと言うのに、どうしてか昆奈門はこの戦から手を引いた。

「彼らの何かに魅了された、か」

戦国乱世のこの世の中、敵味方関係なく助けるという保健委員の子供達が珍しかった。敵であれば助けても殺されるかもしれないのに、彼らはそれでも助ける事に躊躇しない。
その慈善は乱世の中では珍しいものであり、人間本来のあり方なのかもしれない。こうして敵の人間が恩を返すという事もあるのは、きっともう二度とないだろう。
不運とは言われる彼らは、反対に幸福な者でもあったかもしれない。
一人の孤高の忍たましか興味無かったが、今はどうだろうか。自分とは正反対の存在ともいえる忍たま達に興味が湧いた昆奈門。

「面白いね、忍術学園は」

フッと人知れず昆奈門は笑い、跳躍した。此処の山を越えれば、タソガレドキ軍の領地に入る。タソガレドキ忍者隊にこの戦の事を伝えなくてはならない。
そして、別の用事がある事も。
木から草地へ降りようとした昆奈門はある事に気付いた。

「……」

自分が着地する地点の場所。
そこに見える人影。
雲に隠れていた月の光に照らされ、人影の正体を露にする。

「!」

深緑色の忍服。
月光に照らされ輝く黒髪に、鋭い眼光が見えた黒い眼。

「やぁ、」

彼は待ち構えていたように、昆奈門を見て言った。

「また会ったね」

学園一最強の男──雲雀恭弥が。

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