02
「…」
既に日は沈み、辺りは静かだった。己を照らすのは夜に浮かぶ月と星。森の何処かでは梟が囀ずっていた。
ふと、恭弥は何かに気が付き大木の枝にすがっていた自身を起き上がらせた。ずっと寝ていたからだろうか、身体の節々が少し痛くなっていた。
が、恭弥はそんな事は気にしない。
「ワォ…、随分と面白そうな事が起きているじゃないか」
前方に見える園田村から感じた気配。中途半端に消しているそれは、まるで気付いてくださいと誘っているようなものであり、じっと、機会を伺うようなものでもあった。
その気配に近寄る三人の忍たまの気配。おそらく警備を任された文次郎、小平太、長次だろう。彼らはその気配に気付いていて、そしてその気配の人物も文次郎たちに気付いている。
分かりやすいその気配に、恭弥は笑う。
「どういう理由で来ているのか分からないけど」
木を一蹴し飛躍する。
「僕の箱庭の生徒に手を出したら」
咬み殺すよ。
***
文次郎、小平太、長次は御堂の裏山へ音もなく走る。
村の周辺で怪しい気配を見つけたのはついさっき。ゆっくりと様子を伺い、隙を狙い小平太の合図で文次郎が木の上に明かりを当てた。
そこに一人の忍が照らし出された。
「いたぞ!」
文次郎の合図に長次が標的に向け縄漂を投げるも交わされてしまい、小平太に続いて文次郎も光を常に当てながら追いかける。
忍は木から木へ素早く移動し、姿を消す。文次郎が灯りを向けたが、逃げ去った後だった。
「気配が消えた…!?」
「文次郎、これは謀られたぞ!」
「しまった!逃止の術か!」
文次郎が叫んだところへ、長次が追い付く。そしてくるり、と園田村を見た。
「奴は村へ……」
三人は慌てて村へと向かった。
***
その頃園田村の御堂では、伊作が保健委員の乱太郎と伏木蔵と一緒に、設けた救護所で薬や包帯の準備をしていた。伊作は作業を続けながら伏木蔵に薬草の説明をした。
「これは園田村特産の痛み止めだ。量を誤ると毒になる。これは、僕の許可なく使わないこと」
「はい」
傍に二つの筒を置き、再び作業に入る。ふと伊作が顔を上げると、包帯を手にうつらうつらしている乱太郎が。
「乱太郎、左近と数馬を起こして、交代してもらってくれ」
「あ、……はい」
意識もはっきりしないまま乱太郎が立ち上がり、外へ向かう。転びそうになりながら出ていこうとした時、突然大きな手にその身体を支えられた。
「え?……」
「!何者だ!」
気配を察知した伊作が、手元にあった包帯を投げつけた。
「くせ者だよ」
姿を現したのは包帯だらけの大柄の忍者──雑渡昆奈門だった。
質問に答えたにもかかわらず、伊作と伏木蔵は物を投げる手を止めない。それを軽々とかわす中、乱太郎は「ひぃぃい」と声を上げ伊作の元へ。
「また会ったね」
「あなたは……昨日の…」
昆奈門に見覚えのある伊作は目を丸くした。
「とりあえず物を投げる、と言うのをやめさせてもらえないか」
未だに投げる伏木蔵の事を言っていたから、伊作は伏木蔵を自分の方に寄らせた。 昆奈門は伏木蔵が伊作に近寄ったのを見兼ねて、話をした。
「ひと月前にも、私は君と出会っている。……覚えてないかな?」
ひと月前。
それはちょうど忍術学園の夏休み期間であり、タソガレドキ軍とオーマガトキ軍が戦をしている時期であった。
思い出したのだろう伊作に昆奈門は近寄った。
「あの時の…?」
「私は、タソガレドキ軍忍組頭雑渡昆奈門だ」
「!あなたがっ」
「あの時君は私ばかりでなく、敵味方を問わず、怪我人を手当てしていたが……何故だ?」
強く問う昆奈門に伊作は顔を少し俯せた。乱太郎と伏木蔵は心配そうに伊作を見つめた。
「それは、僕が……」
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