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02



「この口かー!」
「この口が勝手にぃ…!」
「この口かぁぁぁ!」
「はいっ!この口がァァァ…」

失言したきり丸に土井先生は容赦ない躾をする。頬を横に引っ張られる痛みに逃げたくても、土井先生は追いかけて引っ張る。
そんな彼らを放って、他の忍たま達はお茶とおにぎりを頬張っていた。ちなみに恭弥はかなり離れたところで一人お茶を飲んでいた。
すると、なにか不安だったのか庄左ヱ門はおにぎりを片手に呟いた。

「本当に、こんな小さな村でタソガレドキと戦う気なんですか?」

庄左エ門に尋ねられ、三郎は答えた。

「手潟さんは最初から戦うつもりだったんだよ。来る時に見ただろう?防御用の陣営具が既に用意されてる」
「あ!そういえば…」
「小さな村だが、園田村は敵から攻めにくい地形になっている」

三郎が答え、お茶を持って来ながら山田先生も話に入った。

「背後に山があり、周りは川と沼に囲まれている。それに、正面に田や畑、」
「先生」
「ん?」

地形について説明しようとした山田先生の話を遮ったのは伊作だった。彼の周りを見れば、うとうとと船を漕いでいる虎若、兵太夫、伊助が。

「もう、限界みたいです」
「…そうだな。それじゃあ皆、食べたら一眠りしなさい」

山田先生の言葉を聞いた途端、団蔵も大きな欠伸をしたのだった。

「相変わらずだね、一年は組は」

小さく、恭弥は湯飲みを弄びながらそう呟いた。


***


「あ、恭弥」
「伊作」

眠りかけていた一年は組の子供達を別室で寝かせた後(言うまでもなく恭弥は参加も手伝いもしていない)、恭弥に声をかけたのは伊作だった。乱太郎の手当も終わったようで、今は特に何もない自由時間。三郎達も仮眠を取らせる中、伊作は恭弥を人気の無い場所へと連れて行く。
あたりに気配が無いかどうか確認し、伊作は真剣な顔つきで恭弥を見る。

「昨晩のあの後の事なんだけど…」
「……あぁ」

伊作が言いたい事は目に見えて分かった。きっと、あの大柄の忍者──昆奈門のことだろう。

「あの忍者は一体…」
「タソガレドキ忍隊の一人さ。かなり頭がきれる、手練れだ」
「…何も無かったかい?」
「何も無かったよ」

伊作が何に対し不安そうな表情をするのかは分からないが、そこまで心配する要素は微塵もない。

「そんな心配する事、何も無かったけど」
「…恭弥が怪我してないなら、良かったよ」

恭弥の返答に安心した伊作。けど、まだ不安なのか「本当に無かったの?」と再び聞いて来た。しつこいと思う反面、特に思い当たることはないと思っていた恭弥だが、ふと一つだけある事を思い出す。
戦っていた最中に昆奈門から言われた言葉を。

「…何かあったと言えば、勧誘されたくらいさ」
「か、勧誘!?」
「もちろん断ったけど」
「断ったァ?!」

恭弥の一言一言にリアクションする伊作に恭弥は小さく笑う。

「僕は誰の下にもつかない。そして、群れるのは嫌いだ」
「うん、それはもう昔から知ってるけど…あまりいい噂がないとしても、あのタソガレドキから勧誘されたのに…」
「興味ない」
「やっぱり…」

恭弥の言葉に肩を落とす伊作。恭弥は伊作に背を向けて再び開口。

「それくらいしかなかったよ。けど、」
「けど…?」
「僕らしくなく、咬み殺し損ねた」
「いや、別にそれは問題ないはずじゃ…。というか、保健委員会として許すようなことじゃあ…」
「分かった、次はちゃんと咬み殺すよ」
「あれ?!ちょっと!話聞いてる!?」

伊作の言葉を無視して、話を続ける恭弥についツッコミを入れてしまった伊作。恭弥は自分の都合のいいようにしか聞かないため、仕方がない。
それは六年間一緒に過ごしていた伊作も分かっていた。

「もう…、勧誘とかはまぁ別にいいけど…。あの人、利吉さんが言ってた通り、かなりの腕利きのある忍者だったから…」
「ああ。それなら安心しなよ、伊作」
「へ?」
「彼、君に恩があるみたいだから」

そう言って恭弥は村長の屋敷を後にする。呆然と突っ立っていた伊作だが、ふと我に返って慌てて尋ねた。

「ちょ、恭弥?!何処に行くのさ!」
「僕は僕で勝手にやらせてもらうよ」

そう答えて、恭弥は山の方へ向かった。颯爽と園田村を後にする恭弥の後ろ姿を見つめる伊作。すると、仮眠を十分に取ったのか、寝起き気味の三郎が近寄った。

「どうしたんですか、伊作先輩。恭弥先輩をそんな食い入るように見て…」
「鉢屋。いやぁ…、恭弥が本当に自由過ぎてね…」
「ああ…、まぁ恭弥先輩ですからね」
「うん、恭弥だからだよね」

自由奔放で、誰の命令にも従わない恭弥。
だからこそ、伊作達は恭弥を頼り、信じるのだった。

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