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- ナノ -
03



万事休す。
そう思った伊作。しかし、

「……、君は……!」
「……?」
「忍術学園の生徒だったのか……」

伊作の顔を見た忍者が、押し当てていた苦無を降ろす。自分を知っていることに驚いた伊作は、口元を拭い忍者を見た。

「え……あなたは……?」

すると忍者はフッと笑い、伊作から離れた。
完全に殺気は消えていた。

「以前君に恩を受けた者だ」
「恩……?」
「あと君」
「は、はい」
「馬の糞踏んでるよ」
「え?う、うわぁぁっ!」

忍に言われ此処でも不運を発揮する自分に呆れるも、忍の言葉がどういう意味か、尋ねようとした伊作。忍も伊作の問いに答えるつもりだったみたいだが、

「ねぇ」
「!」
「……ぁ、」

感じ慣れた気配と殺気。
忍者の背後に現れた彼に、伊作は安心した表情になり、忍者は顔を強張らせた。
忍者が振り返れば、そこには…

「僕の友人に何してるの?」

殺気を滲み出した、最強の学級委員長が立っていた。

「!」

ガキィン!

「…ッ!」
「ワォ、やっぱり貴方か」

一瞬で自分の懐に入った恭弥に忍者──昆奈門は咄嗟に対応した。ほんの少しでも遅ければ、彼の武器の餌食になっていただろう。反対に、恭弥は昆奈門が自分の攻撃を防いだことによって、あの時の雑兵が昆奈門であることを再確認した。
昆奈門は一度伊作と恭弥から距離を置く。恭弥も伊作の元へと後退した。

「恭弥…、」
「伊作、早く行きなよ。今なら山田伝蔵達に間に合う」
「ぅ、うん…!」

恭弥に言われ、伊作は山田先生達の元へ、もし追いつけば乱太郎の元へ急ぎ向かい、その場を後にした。
そこに居るのは恭弥と昆奈門のみ。
恭弥は嬉しそうに昆奈門に言った。

「久しぶりだね。怪我は治ったかい?」
「君はあの時の…。そうか、君が噂のヒバリくんか…」

何か納得するような声色で呟いた昆奈門。もちろん、その呟きは恭弥に聞こえていて恭弥は小さく笑った。

「へぇ、僕のこと知ってるの?」
「君の事は噂でね」

そう言って昆奈門は改めて恭弥を頭の先から足の爪先まで目を細めて見た。

「有名だよ。群れる事を嫌い、誰にも屈しない、孤高の浮き雲、≪忍術学園一強いの男≫ってね」
「(守護者の使命までもが加わっていたんだ…。)…興味無かったから知らなかったよ」

自分の肩書きに全く興味を持たない恭弥に、昆奈門は無い眉を寄せた。
彼がこの現世で求めているのが分からなかったからだ。肩書きもあり、最強とも云われ、まだないがこれから高い地位を与えられるはず。
まだ満たされないのか?

「…君、一体何を求めてるの?」
「僕が求めているものかい?」
「そう。君って、けっこう私達が欲しいと思っているものを与えられているはずだ」

忍としての実力。
各国に轟かせる己の名前。
恐れられる己の姿。
忍、武士関係なくして、恭弥は全てを与えられている。
なのに、それに一切喜びを見せない恭弥。

「そんなの…決まってるだろ」

恭弥は構えていたトンファーを降ろし、昆奈門を見る。
獲物を狙う肉食動物のように。

「僕が求めているのは、強い奴だ。地位や肩書きなんて興味無い。僕は強い奴と戦う、それだけを求めてるのさ。…そう、」

トンファーの先を昆奈門に向け、恭弥は笑う。

「貴方みたいの、…咬み殺し甲斐のある奴をさ!」
「!!」

それはいきなり襲いかかって来た。昆奈門がかろうじて追いつく速さで走ってきた恭弥の攻撃に、昆奈門はクナイで応戦する。
一瞬でも気が抜けないものだった。

「(だから、会いたくなかったんだよね…。……けど)、恭弥君、タソガレドキに入らない?」
「嫌だ」
「(ぇ、即答?)…なんで?」

聞けば恭弥は昆奈門から離れた。その表情は不愉快極まりないものであった。

「僕は群れる事が嫌いだ。咬み殺したくなるからね。それに…」
「!」

ガキィンッ!!

「誰かの下につくなんて虫酸が走る」

重たい一撃。
昆奈門は微かだが、歯を噛み締めて力を加える。恭弥も笑ってはいるものの、力を抜くことはしなかった。

「ッ…、なるほど、ね…!!」
「そうなれば、貴方は…」

二撃目を加えようと片方のトンファーを後ろに引いた恭弥。それを見逃さなかった昆奈門は構える。

「僕に咬み殺されなよ!」
「それは、真っ平御免被る…よ!」
「!」

煙幕。
何処かに隠していたのだろう、昆奈門は恭弥の攻撃がくる寸前に煙玉を撒いて逃げて行った。

「(煙玉を使うとは…、まぁ、忍組頭と言われるだけはあるか…)」

恭弥は煙が晴れるのを待ち、見上げる。昆奈門の気配はなく、すでに部下と共に帰って行ったのだろう。

「…また今度、噛み殺そう」

トンファーを仕舞い、恭弥は園田村へ急ぐためその場を一瞬で消え去った。

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