05
「僕の任された任務はそれだったけど、君達が理解したから用はなくなったよ」
と、気配もなく恭弥は入り口に佇んで言った。瞬時に振り返りまっさきに声を上げたのは乱太郎だった。
「あ!」
「孤高の浮き雲と云われ群れを嫌い、」
「≪学園一強い男≫と謳われる、」
「六年い組学級委員長委員会委員長の、」
「雲雀恭弥先輩!」
「長ったらしい説明をどうもありがとう、草食動物達」
そのままきり丸、しんべヱ、金吾、団蔵と続いた自分の人物紹介をサラリと流した恭弥は、山田先生達を見て言った。
「僕の任務はこの戦の裏を探ってくること。君達が印を取れば、必然的に理解したから有り難いよ」
「それじゃあ、恭弥は今からどうするんだ?任務は終わったも同然…」
「帰る」
「はぁ!?」
クルリ、と皆に背を向けて去ろうとする恭弥に皆唖然とした。いやいや、自分の仕事が終わったから帰るって…。そりゃ任務なら即撤退がルールだけど、まだすることがあるかもしれないだろう。そう言いたいが、言えなかった山田先生。
しかし、こうなることを予期していたのか、仙蔵ただ一人だけ笑みを浮かべていた。
それを見逃さないのが恭弥。
「…仙蔵、なんで笑ってるんだい?」
「残念だが、恭弥」
「…なに」
「お前にはまだ任務があるぞ」
「?」
仙蔵の言葉がイマイチ理解していない恭弥。仙蔵は一度目を閉じた。
「どういう意味だい、仙蔵」
「実はだな、恭弥…」
今度は真面目な表情をしたかと思えば、苦笑い浮かべて恭弥に告げた。
「学園長先生から言伝だ。“このまま選抜チーム、一年は組達と行動せよ”とな」
学園長からの伝言を聞いた瞬間だった。
「…」
「っ…!」
「(あちゃー…)」
「(やはりこうなったか…)」
恭弥から滲み溢れ出るほどの殺気が放たれたのだった。
そして此処にいた一年は組以外のメンバーは瞬時に察した。
嗚呼、怒っているな。と。
「あのたぬき爺……、」
ゆらり、と背もたれにしていた壁から離れ、廃寺を後にしようと彼らに背を向け、恭弥は怒りを孕んだ声色で言う。
チャキッ
「咬み殺す!」
トンファーを片手にいつものセリフを。
『ひぃぃいい!!!』
「恭弥!!殺気を治めなさい!!」
「こらこら、恭弥」
「(ま、群れる事を嫌う恭弥だから…)」
「(仕方がないといえば、仕方がない…かな?)」
「…」
「ここはそっとしておくべきさ、雷蔵」
恭弥の殺気に怖れたは組、そんな恭弥を止めようとする山田先生と土井先生、恭弥が怒る事に納得する仙蔵と伊作。
そんな光景に何も思わない雷蔵と三郎だった。
「すぐに咬み殺すのはやめなさいよ…」
「…じゃあたぬき爺を咬み殺すのは後々にしてあげるよ」
「あ、諦めないんだな…」
「当然」
土井先生の呟きに応え、恭弥はまた外へ向かう。気になった全員の代表として仙蔵が尋ねる。
「なんだ、恭弥。また昼寝でもする気?」
「…ま、そういう事にしときなよ」
「?」
「…行ってらっしゃいませ」
適当な返答に首を傾げた仙蔵とは反対に、(大間賀時曲時の顔の)三郎だけ理解していたみたいで目を閉じて恭弥に告げた。恭弥は答える素振りもなく廃寺を後にした。
恭弥が去り、すかさず庄左ヱ門が三郎に尋ねた。
「鉢屋先輩、恭弥先輩はどちらに…?」
「…ストレス発散しに行ったのさ」
「…へ?」
『?』
「「…あぁ」」
三郎の言葉に理解していないは組と雷蔵は疑問符を頭に乗せ、仙蔵と伊作は納得。そして、教師陣はというと…、
「はっはっは、全く変わりませんなぁ…」
「ったく、アイツは…」
「胃が抱くなってきた…」
と、それぞれ苦悩のリアクションしていた。
つまり、恭弥はストレス発散という名の、山賊などを咬み殺しに行ったのだった。納得し、苦悩している教師陣ではあったが、内心ありがたくも思っていた。
「(恭弥なら、全員を始末してくれるだろう)」
確信を持っていた山田先生。が、すぐに真剣な顔つきに戻って話す。
「前回の戦で敗れた大間賀時曲時は、タソガレドキと密約を交わしたに違いない。……園田村を始め、オーマガトキ側の村々はとっくにタソガレドキの物になっているんだ」
「真っ当な年貢では取れないところまで絞るつもりですな」
頷きあう山田先生と日向先生。先生達の様子に、は組は事態の状況を理解する。
「喜三太を助けに来て、大変な陰謀に出くわしてしまった……!」
「それにしても、自分の領民を騙して儲けようなんて!」
「しんべヱに似てるくせに、なんて酷い殿様なんだ!」
口々に怒るは組に、自分の事も言われていると知り照れるしんべヱ。
すると、三郎はまた顔をゴソゴソと変える。
「ちなみに、タソガレドキ城主黄昏甚兵衛は、こんな顔」
「黄昏甚兵衛ーヘンな顔!」
黄昏甚兵衛の顔を見て、不思議な歌を歌ったは組だった。
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