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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
03



「土井先生には?」
「会いました」
「日向先生!喜三太は無事ですか?!」

山田先生と会話し、続いて尋ねられた質問に日向先生はしっかりと目を見て言った。

「少し前に城周辺で少年らしき人物がいて兵に捕えられた、という情報が入ったよ」
「…間違いなく山村喜三太だね」

恭弥が夏休みに合戦場で見たのはやはり山村喜三太だったようだ。
何故あの場所に居たのか、その時はただの好奇心だと思っていたが、その原因が小松田によってごちゃ混ぜになった夏休み課題のせいだとは、恭弥も流石に思っても居なかった。
面倒になりそうだ、ホントに。

「喜三太がオーマガドキに捕まった…」

は組の頭の中では、オーマガドキに連れ去られる喜三太の絵図が。か弱い子供に拷問や尋問はしないとは思うが、城に捕縛されたとなると、嫌な予感があって仕方がない。
そんなは組を元気づける為に三郎は言う。

「そう心配するな、滝夜叉丸と左門がオーマガトキに張り付いてるから!」
「…三郎、皆余計に心配してるぞ」
「え?」

雷蔵に言われ、は組を見れば、オーマガドキに連れ去られる喜三太を奪おうとする滝夜叉丸、左門の絵図を想像して青ざめたり首を横に振って拒絶していた。
彼らの中で、滝夜叉丸と左門はどういう存在なのだろうか。

「…逆効果」

呆れて、小さく呟いた恭弥だった。
すると、再び廃寺にやって来た者が居た。

「山田先生!!」

仙蔵だった。

「ワォ、まさかの仙蔵」
「恭弥、先ほど振りだな」

恭弥との挨拶もほどほどにした仙蔵。何故此処に来たのか聞けば、どうやら彼も学園長の御使いに遣わされたようだった。

「あれ、利吉さんがいる」

利吉がこの場にいることに目を丸くした仙蔵に、彼は今度こそ、と張り切って…

「実は、かくかくしかじかで!」
「そうですか」
「たはっ…」

言ったもののあっさりかわされた利吉だった。恭弥は利吉の様子にいったい何がしたいのやら、と呆れた視線をついつい送ってしまった。
仙蔵は山田先生の前に座り、報告をする。
揺れ動くサラストの髪が目立つ。

「手潟さんが学園に来ていたのを監視していた者が居ました」
「何?」
「…」

仙蔵の言葉に恭弥も反応し聞き耳を立てた。監視していたのはタソガレドキ軍であり、どうやら忍術学園との関係に気付いたのだろう。

「それで、今後の事について学園長先生から…」

それは山田先生のみに聞かされた。
仙蔵が学園長から受け取った伝言を聞いた山田先生は、聞いている途中で顔をしかめ、

「あーやっかいなことを……」

と、ぼやいたのだった。
内容を聞かされていない他の子供達は、ぼやいた山田先生と苦笑いを浮かべる仙蔵を見て疑問符を頭に乗っける様子。
しかし、だいたいの見当がついてもいた。
また学園長の変な思い付きが出たのだろう、と。そしてよくも悪くも、忍術学園全員が関わっているということが。

「……」

すると、入り口近くに壁にすがって立っていた恭弥は静かに廃寺を後にした。それに気が付いた三治郎は、傍にいた三郎に尋ねた。

「鉢屋先輩、雲雀先輩はどちらに…」
「あぁ。たぶん、恭弥先輩は屋根に行かれたんだと思う」
「屋根に?」

三郎と三治郎の会話を聞いていた庄左ヱ門はその話に加わる。

「恭弥先輩は群れる事を嫌うんだ」
「まぁ、群れているのを見たら咬み殺すって言われるもんね」

庄左エ門の言葉に否定できない三治郎。苦笑いを浮かべ、三郎は続けた。

「しかも、群れと一緒にいすぎたら蕁麻疹が出てくるくらいなお方だ」
「雲雀先輩、本当に集団行動がお嫌いなんですね」
「そして、私達は今群れている」
「…あ、そっか」
「たぶん、これからまた増える事を予想したから上に上がったんだと思う」

三郎と庄左ヱ門の言葉に納得した三治郎。話を聞いていた仙蔵もそれに加わり、笑って言う。

「いや、それだけじゃないだろうな」
「え?」
「群れを嫌うのもあるが、たぶん、」

言いかけ、仙蔵は自分達の上に居る恭弥を想像して言った。

「寝るために上ったのだろう」
「……あー…、成程納得ですね」

その言葉に三郎は納得、他の者はただ呆然とするしかなかった。

「今って、一応任務中ですよね…?」
「自由奔放だろ、あの人は」
「全くだ…」
「けど、あいつらしいところでもある」

自分の道を貫き通す恭弥の姿勢に呆れると共に感心する教師と仙蔵、三郎。
自由に流れ、何者にも掴むことの出来ないまさに“雲”。

「(雲雀先輩って、一体何者なんだろう…)」

そう思っても仕方がないと思う。
一方、話題になっていた恭弥はというと…、

「ミードリタナービクーナミモリノー」
「…ふぁーあ……」

仙蔵の言っていた通り、廃寺の屋根でヒバードと共に寝転がっていた。
沈みかける夕日を顔に受けつつも、のんびり気ままにしている恭弥。全く緊張感など皆無で、逆にその様子に安心できる気がした。

「(…長い間群れるのはやっぱりダメだな…)」

一人の空間になり、落ち着いた自分に恭弥は心の中でそう呟いた。
そして数刻立ち、廃寺に伊作と合流した乱太郎達が帰還した。

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