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「#オメガバース」のBL小説を読む
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01



選抜チームが忍術学園を後にした頃、恭弥は草むらを駆けていた。
風が吹いたのか、と勘違いするほど速く。
前を見据える恭弥の頭の中では、先ほどの学園長との話を思い出していた。

「実はの、オーマガドキ領地にある園田村の乙名、手潟潔斎殿からある相談を受けての」
「…、かばいの制札のことかい?」
「流石、六年生じゃな。その通り、手潟殿はオーマガドキが戦に負けた場合を考えて密かにタソガレドキ城城主、黄昏甚兵衛にかばいの制札を求めておっての」
「…オーマガドキとタソガレドキは、ついこの間の激戦から水面下で睨み合ってるはずだけど」
「それはただの偽りかもしれん」
「…タソガレドキ城城主、黄昏甚兵衛はその制札を利用して金品を求めている。もし、オーマガドキにこの事がバレたら面倒になるのは目に見えて分かるね」
「そうじゃ」
「…それで、僕に何をさせたいの?」
「お主には裏を探ってもらいたいのじゃ」
「…裏?」
「この騒動、何か裏がありそうでの」
「…タソガレドキとオーマガドキが手でも組んでる、とか言いたいの?」
「確信は出来んが、不思議な睨み合いをしておることが気になってのう」
「ふーん…」
「してくれぬか?」
「暇つぶしにはなりそうだ」
「…そうか」
「それに、たぬき爺に貸しを作るのもいいしね」


「(…ああは言ったが、面倒臭い)」

学園長からは咬み殺し過ぎるな、と言われていた。制限されれば恭弥のフラストレーションは溜まるばかり。
夏休み明け早々、道中にいた山賊は咬み殺したが、雑魚。
恭弥が求めているのは強者のみ。
しかし、夏休みにフラフラと渡り歩いたが、強者は居なかった。

「…彼に会えたら咬み殺したいな」

夏休みの課題の際に出会った忍。
あの時は怪我を負っていたから見逃したが、今なら完治しているはず。
地面を蹴って、木の枝へ移動する。
この一件で、恭弥はまたあの忍、雑渡昆奈門と会えるような気がしたのだった。忍でも、マフィアとしての勘ではなく。
戦ってきた者のみが感じる勘だった。

「けど、それよりも…まずは情報収集かな」

木から木へ飛んでようやくタソガレドキ領地に入った恭弥は、軍の様子や行き交う人々を見る。
オーマガドキ領地の村人達が金品を持って行っている様子から、かばいの制札はまだ貰えていないようだった。加えて、すぐ傍の山を越えたらオーマガドキ領。それなのに、タソガレドキ軍の兵達は余裕そうに構えていた。
それから考えれば…、

「…印を取るまでもないね」

どう見ても、タソガレドキとオーマガドキは手を組んでる。
今まで様々な戦いを見たことがあるから、すぐに判断出来た恭弥。

「(手を組めば、タソガレドキはオーマガドキ領地の村々から金品を貰い、その少しはオーマガドキへ渡す)」

この間の戦ですでに決着は着いており、今までの不思議な睨み合いは他国を騙す為のカモフラージュ。
すでに決着は着いていて、オーマガトキはタソガレドキの配下になったと言ってもいい。

「自分の領地の村を利用、ね。沢田綱吉とは大違いだ」

今でも、未来でも、どの世界に行ったとしても、自分が目にする沢田綱吉という人間は、決して自分の領地を利用する事はしない。
自分の命より他人の命を優先するだろうから。

「(まさか、僕をも心配するとは思わなかったからな)」

リング戦でも未来での戦いの時も、応援をしていたのは当たり前の事、心配そうな表情をしていたのを、恭弥は今でも覚えていた。

「(…“俺”が“雲雀恭弥”ではない事も、なんとなく分かってるだろうに…。けど、彼はちっとも気にしていなかった)」

普通に、“雲雀恭弥”ではなく“雲雀恭弥”として接する彼に、自分は認めたのだ。
彼が自分の上に立つ権利を。
沢田綱吉という人間を知っているがために、この世界の城主、マフィアでいえばボスの地位に立つ人間が醜く見える。
だからこそ、

「…面倒だけど、」

確実に咬み殺さないと。
小さく呟いて、恭弥は一瞬で姿を消した。


***


一方、オーマガドキとタソガレドキ両軍の印を取りに行くことになった一年は組。
オーマガドキの印を取る担当になった乱太郎、団蔵、金吾、そして選抜チームで先に出たはずのきり丸としんべヱはある人物達の密会に遭遇していた。

「この格好で、よいのか?」
「あなたは謀の相手にはふさわしくないようだ」
「?どういう意味だ」
「こちらの話です。さ、案内仕る」

一人はしんべヱに似た顔立ちの男。もう一人は忍装束を纏い、包帯を巻いていた男。
その者は、夏休み中に恭弥と出会った雑渡昆奈門でもあった。
昆奈門はもう一人の男に気付かれないよう、手で合図して他の場所で待機していた部下に乱太郎達の後を追わせた。
子供達の走り方、足音や気配の消し方からして忍者見習いのようなもの。この付近で忍者の育成をしているといえば、忍術学園しかない。

「(たぶん、今日か近いうちにあの子に会うことになるんだろうな…)ハァ…」

脳裏に浮かぶ、強者と戦う事に喜びを露わにした少年。
これから起きる出来事に、昆奈門は溜め息を溢してしまった。

「…(あーあ…)」

今夜は長い夜になりそうだ。
木々の合間から見える、薄っすらと浮かぶ月を見て昆奈門はそう思った。

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