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03



「あ、恭弥!」

学園長の部屋を後にした恭弥を呼ぶ声。誰の気配かすぐに分かった恭弥は口元に小さく弧を描かせた。

「やぁ、伊作」

恭弥を呼んだのは、同級生の六年は組の善法寺伊作。
伊作は恭弥を見て走り寄る。

「久しぶりだね。夏休み中、元気だったかい?」
「暇すぎて強い奴探しに出掛けたくらいだよ」
「そ、それは…相変わらずだね…」

苦笑いをする伊作に恭弥は気にもせず、小さく笑う。

「伊作こそ、夏休み中は不運を発揮したりしなかったのかい?」
「恭弥…、君って本当に他人を弄るのが好きだよね…」

図星なのだろう、何も言い返せない伊作を見て恭弥はああ不運な毎日を過ごしたのだろう、と察した。

「君、一度お祓いに行ってみれば」

憑き物だったらありがたいが、もし生まれながらの才能であったら、もう笑うしかない。
しかし、これ以上伊作に心の傷を負わせるのはよそうと思い、恭弥は別の話題を話す。

「そういえば、伊作」
「なんだい?」
「君、夏休みの課題失格だってね」
「えぇ!?もうそれ回ってるの!!?」
「いや、僕くらいしか知らないだろうね」

恭弥に言われて尚更ショックする伊作。学級委員長委員会委員長であるからこそ知らされる情報であったため、今は恭弥しか知らない。しかし、忍の学校であるからにはすぐにその情報は広まるだろう。
恭弥は伊作の様子からして、「不運、ていうわけでもないね」と、呟き伊作の肩に手を置いて慰める。

「今は自習になってるけど、さっさと教室に戻りなよ。風紀を乱せば、伊作でも咬み殺すよ」
「う、うん。分かってるよ」

本人は冗談を言っているかもしれないが、伊作や他の忍たまにとっては冗談に聞こえない言葉。伊作の返事に満足し、恭弥は部屋に戻ろうと踵を返す。
が、何かを思い出し足を止めた。

「伊作」
「ん?」

名前を呼ばれ、クラスに戻ろうとしていた伊作の脚も止まる。

「どうしたんだい?」
「学級委員長委員会委員長として言わせてもらうよ」
「へ?」
「へまをしたら……咬み殺す」

微かに殺気を出し、恭弥は言った。
とりあえず返事をしておこう。
自分の本能がそう告げている、と伊作は冷や汗を垂らして何度も頷いた。

「それじゃあ、またね」

今度こそ、恭弥は伊作から去ったのだった。


***


恭弥が学園長に頼まれた任務に出掛けた後だった。

【人も歩けば銭を拾う 成るも成らぬも銭次第 銭は天下の落とし物】
一年は組 摂津のきり丸、読書感想文。
人のを移すつもりで手を付けず。
「だってバイトで忙しかったんだもーん」

【地上の子の最大の幸福は満腹なれ 衣食足りて宿題忘るる】
一年は組 福富しんべヱ、漢字ドリル。
人のを移すつもりで手を付けず。
「その代わり、おいしいものいーっぱい食べたよ!」

【進退は疑うなかれ 敵を見て謀つなかれ 迷わず行けよ、行けば判る】
三年ろ組 神崎左門、農業体験実習。
なぜか目的の農家へたどり着けずに終了。
「二年の宿題だったのかー!ばっかやろうー!」

【選ばれし者の恍惚と不満ふたつ我有り 天才こそ天才たらしめるのは私の本能】
四年い組 平滝夜叉丸
一年用の社会科ドリルをもらったが、破り捨ててやった!
「学年一成績の良い私を舐めるな!」

【お前の実力はこの程度ということなのだろうか?】
五年ろ組 不破雷蔵
疑心暗鬼が過ぎて、三年用理科ドリルに手を付けず…
「こんなに簡単な宿題だなんて、どういうこと?」

【比翼の鳥 連理の枝一膳の著 把手共行 碎啄同時】
「雷蔵はしょうがないなぁ」
付き合いで宿題放棄。
五年ろ組 鉢屋三郎

【ちちんぷいぷい いたいのいたいのむこうのおやまへとんでゆけ】
六年は組 善法寺伊作
四年用の宿題、タソガレドキ軍の旗を奪え。しかし、手に入れた旗を全て裂いて包帯にしたため失格。
「ちゃんと旗一本分持って帰ったんだけどなぁ」

『いざ、オーマガドキ城へ!』

なんとも頼り難いメンバーで、別の任務を任されていた。
土井先生率いるは組が、正門まで見送った。

「厚木先生、日向先生、よろしくお願いします」
「分かりました」
「別の任務で、六年い組の雲雀恭弥くんも行っているはずです。もし遭遇したら、互いに連絡を取り合ってください」
「え?!そうなんですか?」
「あぁ」

土井先生の、恭弥が別で動いているという言葉に驚く伊作や三郎。厚木先生は二人に笑みを浮かべて言った。

「雲雀くんの任務は言えないが、彼の事だ。きちんとこなすはずだ」
「まぁ、≪学園一強い男≫と言われるくらいの恭弥先輩だから心配はないですね」
「はは、そうだね」

三郎の言葉に、伊作も力強く頷いた。
恭弥は学園一強い男だ。
すでにそれが当たり前となり、定着している彼らは、恭弥が負けるはずがないとどこかしらの絶対的な信頼をしていた。

「では行くぞ」

厚木先生に言われ、決断力のある方向音痴──左門を滝夜叉丸に任せ、六年生の伊作を先頭に選抜チームは出発した。

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