02
沢田綱吉を咬み殺す事を誓った後、恭弥は仙蔵達と夏休み中の話をしていた。
…と言っても、ほぼ文次郎を弄っていただけだった。
「へぇ、長次も一年生の課題に当たったんだね」
「文次郎といい、長次もドンマイだな」
「可哀想に」
「絶対ぇ思ってねぇだろお前ら!!」
「じゃあご愁傷様」
「じゃあってなんだよじゃあって…」
適当に流されたりして突っ込んだりして大変な文次郎。しかし彼を助けようとする者はいない。
というか、そんな人は存在しない。
「長次は朝顔の観察日記だとはね…。けど、長次は喜んでしてただろうな」
「恭弥の言う通りだ。長次は全然苦だと思ってなかったよ」
文次郎は夏休み中の長次を思い出し、苦笑いを浮かべた。すると、ふと仙蔵が聞いてきた。
「小平太の課題は知ってるか、恭弥」
「小平太?アイツは…、」
「彼は六年生用課題の≪ドクササコ城の城内に掛けてある掛け軸をすり替えて来い≫だよ」
さらりと答える恭弥に、文次郎と仙蔵は流石学級委員長委員会委員長、と内心思った。文次郎は課題内容のある一つが気になったのか訊いた。
「ちなみに何とすり替えたのか訊いていいのか?」
「たぬき爺の迷言」
「「……」」
「忍とはガッツじゃ!」脳内で流れたたぬき爺改め学園長の名言…迷言。それをドクササコ城の城の掛け軸とすり替えるという内容。
恭弥の返答に二人は何も言えなかった。
「…それにしても先生方遅いな」
未だに朝会を始まっていない事に、文次郎は不審に思い始める。周りの忍たまは特に気にしていないのか、話が盛り上がっている様子。
そんな文次郎の疑問を仙蔵が答えた。
「きっと、誰がどの課題に当たったのか確認しているのだろう」
「文次郎が一年生の課題に当たったこととかね」
「もうそのネタはやめぃ!」
彼を弄るのは楽しい。
文次郎はからかい安く、つい加虐心を煽られるのだ。しかし、し過ぎたら彼もショックというものを流石に受けるだろう。と、恭弥は文次郎をいじる事をやめた。
「一つ一つ確認せねば、誰が課題を提出していないのか分からないからな」
「それに、文次郎が一年生の課題に当たったとは逆に、下級生が上級生の課題に当たった可能性もあるからね」
「!」
恭弥の言葉に真剣な表情になった文次郎と仙蔵。
その同時だった。
「お、いたいた。おい、恭弥」
名前を呼ばれた。
恭弥はもちろんだが、気になったのか文次郎と仙蔵も声のした教室の入り口へ顔を向けた。
そこに居たのは、
「ん?」
「あ」
「山田伝蔵…」
一年は組の実技担当の山田伝蔵だった。
山田先生は少々面倒臭そうに、しかし真剣な顔つきで恭弥を見て言った。
「学園長先生がお呼びだ。今すぐ行きなさい」
「…たぬき爺が?」
山田先生の言葉に恭弥は眉間に皺を寄せた。
嫌な予感がして仕方がなかった。
***
「入るよ、たぬき爺」
「お前はいつになったら儂のことを“学園長先生”と呼ぶんじゃ!」
「一生有り得ないね」
忍術学園学園長──大川渦正平次郎に対しても変わらない態度をとる恭弥は流石と言っても良いのだろう。
学園長は恭弥の返答に肩を下げショックを受ける。そんなことお構い無しに、恭弥は出ていた菓子を目にする。
「さっきまで誰か来ていたのかい?」
「おぉそうじゃ。それも踏まえて、お主に頼みたい事があるのじゃ」
「?」
学園長は佇まいを正して、恭弥と向き合う。恭弥も学園長の纏う雰囲気がいつものおちゃらけたものではないと察し、姿勢を正す。
「今、タソガレドキ軍とオーマガドキ軍が戦をしておることを知っておるかの」
「まぁね。夏休み中に見に行ったし」
「そうか。なら話が早いな」
「……」
学園長は何かを考えた後、恭弥を見て言った。
「恭弥、お前にして貰いたい事があるのじゃ」
「……言ってみなよ」
「実はの、──……」
学園長の話す内容を記憶しながら聞き、その内容に恭弥は溜め息を溢したくなった。
酷く、退屈になりそうだ。
「──…任してかまわんか」
「たぬき爺に貸しを作るのも面白そうだ」
話し終わり、恭弥は溜め息を溢しそう言った。しかし、これで自分がわざわざ此処に呼ばれた理由もつく。
ほんの少しの暇つぶしにはなりそうだ。
「ま、仕方ないね。いいよ、やってあげるよ」
「…すまんのう」
「咬み殺しても文句言わないでね」
「……ほどほどに頼むぞ」
さぁ、僕の気分次第だから。
言うつもりはなく、恭弥は学園長の言葉を聞いてから席を立ち退出しようとする。
しかし、再び呼び止められる。
「おぉ、そうじゃ。恭弥」
「なに?」
「他のルートで、選抜チームが出るつもりじゃ。出会えば合流しなさい」
「…群れなくちゃならないのか」
この騒動が終わったら一週間休ませてもらおう。
そう心に決めて恭弥は部屋を後にした。
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