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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
01



「…ワォ、ずっと日光浴でもしたのかい?文次郎」

夏休みが明け、久しぶりに会う友人に対して開口一番で恭弥は言った。
気にしていたのか、目元の隈が気になる(老けた)少年──潮江文次郎は怒りで肩を震わせて恭弥を見て言った。

「ちげーよ!課題だ課題!」
「日光浴しろっていう課題?ずいぶんと面白いのをやらされたんだね」
「ぶふっ!!」
「ちげぇ!!!」

完全に勘違いされている文次郎。恭弥は面白半分で文次郎を弄っているだけだが、彼が気付いているかは分からない。
そんな二人、というか弄られている文次郎を見て肩を震わせて笑っているのは同じクラスの立花仙蔵。
思いきり笑ったからか、目尻に溜まった涙を拭い、仙蔵は恭弥に話し掛けた。

「相変わらずだな、恭弥」
「やぁ、仙蔵。君もだね」

恭弥は弛く笑みを溢して仙蔵に応える。仙蔵は小さく頷き、恭弥に文次郎の日焼けの理由を説明した。

「恭弥、実はだな…──」

その内容は事務員の小松田秀作が通常運転のへっぽこぶりをして、一部の夏休み課題がごちゃ混ぜになってしまい文次郎は一年生の課題をする事になったということ。
その一年生用課題の内容は【昆虫採集】だったようで、文次郎は夏休み中学園で虫捕り網を片手に走り回っていたそうだ。
話を聞いた恭弥は呆れるように、そして小さく笑う。

「…へぇ、小松田秀作がね」
「くそっ、あのへっぽこ事務員め…!!」
「いつもの事だ、諦めろ文次郎」

悪態を吐く文次郎に仙蔵は一言言う。文次郎の表情は浮かばれず、納得のいかない様子。すると、恭弥は文次郎を見て口を開けた。

「良かったじゃないか。童心に戻れて」
「ぶはっ!!」
「テメッ、恭弥!!」

恭弥の言葉に仙蔵は吹き出し笑い、文次郎は怒りを露にする。仙蔵は腹を抱えて笑いたいが、どうもキャラじゃないのだろう、踊り笑いはしないものの、文次郎を指差して大笑いしていた。
実際、文次郎は年相応には見えない奴だ。目元の隈や体格や顔つきから、子供に見られないのが玉に瑕なのだ。だから、少しでも童心に戻れただけでも貴重な体験だと恭弥は思ったのだ。

「それで、何が採れたの?課題は昆虫採集だったんでしょ?」
「恭弥、頼むから、もうやめてくれ…!!」
「ククッ…!!恭弥、やめてやれ」
「ふふ、分かったよ」

仙蔵に止められ、恭弥は文次郎イビりを潔く辞めた。恭弥がやめてくれたおかげで密かに安堵する文次郎だった。
恭弥は窓辺に寄りかかり、少しだけ眉間に皺を寄せて呟いた。

「それにしても、休み明け早々群れ過ぎ」

咬み殺したくなるよ。
教室内や外、学園内で夏休み明けで話に花を咲かせている忍たま達を見て、今にでも仕込みトンファーを出して同級生を咬み殺そうとする恭弥に文次郎は呆れた様子で言う。

「お前、少しはクラスの人数に慣れろよな…」
「無理」
「即答すんな!」
「仕方ないだろ。今でも少し蕁麻疹が起きてるよ」

ほら、と腕を晒して見せる恭弥に文次郎も仙蔵も呆れる。
集団行動はやはり恭弥に出来るようなものではない、と言うことか。
ふと、二人は一年の頃を思い出す。入学当初の最初の授業でも、恭弥はいつも教室に居なかった事を。それは群れるのも嫌いという理由もあったが、蕁麻疹が起きるのを防ぐためだったのだろうかと。
しかし、それでも団体行動を乱す事はしばしばあった。

「どんだけ嫌いなんだ、お前は…」
「咬み殺したくなるくらい」
「そういうわりには恭弥、今日はまだ機嫌が良いほうではないか?」

ワォ、よく見てるね。
口には出さず、心の中で思った恭弥。
仙蔵はよく人を見ている。観察力が高い、といえばいいのだろう。恭弥は小さく笑って言う。

「まぁね。来る途中までに山賊やらを咬み殺したからね」

そう。恭弥は課題を終え、強者を求めて全国を回った後に学校へ来る計算をしていた。
その道中、自分に金目のものを寄越そうとする山賊が居たのだが、恭弥が返り討ちにしたのだった。

「どれも弱くて話にならなかったよ」
「やっぱそうかよ…」
「流石、≪学園一強い男≫と言われるだけあるな」

咬み殺して当然、という恭弥に文次郎は肩を落として呆れ、仙蔵は困ったように笑い言う。
『学園一強い男』
それは恭弥の肩書きでもあった。忍術学園創立以来の最も強い男と恭弥は謳われるようになり、その肩書きは各国にも知れ渡るほどだった。
本人は興味など皆無ではあるが。

「ホントに自由だなぁ、恭弥は!」
「僕は何にも縛られないよ」
「まさに浮き雲、だな」
「……」

仙蔵の言葉に恭弥は懐かしい思いに駆り立てられた。
言うまでもなく、“この世界”に飛ばされる前の“本来いるべき世界”。
こういう自分だから、あの赤ん坊は僕を彼──沢田綱吉の雲の守護者に選んだのだろう。
何にも縛られない孤高の浮き雲。
それが雲雀恭弥。
この世界に飛ばされて早七年は経っているのだろう。この世界にだいぶ慣れ、もう帰る見込みは無いのかもしれない。
それでも恭弥は諦めない。

「(もし元の世界に戻れたら、とりあえず沢田綱吉を咬み殺そう)」

密かに誓いを立てた恭弥。
恭弥の生贄になってしまったツナ、哀れなり。
そしてご愁傷様。

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