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「#幼馴染」のBL小説を読む
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01



いつもと変わらない日だと思っていた。授業を受けて、放課後は自由時間で、夕飯を各組で作って食べて、そして寝る。
そうなるはずだった。

「皆ー!集合ー!!」
「乱太郎?」

グラウンドで遊んでいた忍たま達がそう言いながらやって来た彼らに一瞥した。中でも、同じは組であったよい子たちは遊びを中断して彼らが駆け寄って来るのを待った。は組を代表して庄左エ門が、乱太郎、きり丸、しんべヱに問いかけた。

「どうかしたの?乱太郎、きり丸、しんべヱ」
「学園長の突然の思いつき!」
「…へ?」

開口一番にそう言った乱太郎に思わず目を点にする。もちろん、庄左エ門だけでなくは組の子供たちも同様だった。何度か心の中で乱太郎が言った言葉を咀嚼して理解をすれば、一瞬で遊んで楽しかった気持ちが急降下していった。
嫌な予感しかなかった。

「え〜、いきなりすぎるよ〜」
「学園長の思いつきかぁ…、あんまり良い事じゃないのはたしかだ」

喜三太に続いて兵太夫がおもむろに嫌そうな顔になって言う。隣では金吾や三治郎も同意のようで頷いていた。今まで何度も行われた学園長の思いつきで、忍たま達は様々な事に巻き込まれたり巻き込んだりしている故に、そういう態度を見せても仕方のない事ではある。
しかし、今回は少々違った。

「急遽!」
「開催!」
「避難訓練〜!」

乱太郎達三人がまるで謀ったかのように、順々にして口にした言葉。

「避難訓練…?」

乱太郎達の言葉が耳に届いたのか、別の場所から反応があった。そちらへ見てみれば、思わずげっと声を上げたのは誰か。

「二年い組の、池田三朗次先輩…」
「誰だ今『げっ』って言ったのは。失礼だろ」
「す、すみません…つい本音が……」
「おい」

三郎次に言われて咄嗟に謝ったのは、彼と同じ委員会に所属している三治郎だった。素直に謝ったものの、それに続いた言葉に三朗次は呆れてしまう。が、茶番はそこまでで、三郎次は乱太郎達に顔を向けた。彼らが言った言葉の詳細を知りたいためだった。

「学園長先生がそう言ったのか?」
「はい。とは言っても、直接ではないです」
「…?誰かからの伝言、か?」

直接ではないなら間接で言われたという乱太郎に、そう三郎次は訊ねると、肯定の意で縦に首を振った乱太郎。それに続けて、口を開けたのはきり丸だった。

「土井先生に言われたんす。『今から緊急避難訓練を行うから、皆に伝えるように』って」
「土井先生が、そう言ったんだな」
「はい」
「………」

きり丸の言葉に少しだけ思案する三郎次。
三郎次は内心、その突然の思いつきを疑っていた。学園長から直接言われたのはともかく、土井先生からというのは少し信憑性に欠けるものだった。何故か、と言われたら三郎次自身分からなかった。だが、何故か今、この時、三郎次の中では得体の知らない何かが蠢いていたのだった。じわりじわりと、まるで蛇の如くゆっくりと迫りくる何かを感じていた。しかし、ここで一年生に言ったとしても、彼らを不安がらせるか、好奇心を湧かすだけ。ならば、自分が思った事は口にしない方がいいだろう。

「面倒だなぁ、避難訓練とか。ま、学園長の思いつきなんだから仕方ない。お前達も、他の忍たま達にちゃんと、一言一句間違えないで、伝えろよ。それくらい、アホのは組でも出来るか」

そう言ってヒラリ、とその場を去って行った三郎次には組はイラッと米神をピクピクさせたのだった。色々言いたいことはあるだろう。自分達をバカにしたことや、あちらから勝手に話の輪に入ったなど、とやかく言いたい乱太郎達。しかし、そこはぐっと堪えて、癪なことではあるが他の忍たま達に伝えようと動き始めた。
そんな中、一人、動こうとしない子が。それに気付いたのは伊助。

「?どうかしたの、庄左エ門」
「……」

声を掛けられても、彼、庄左エ門は返事もしないで考えをめぐらせていた。
庄左エ門もまた、三郎次と同じく、不吉な予感を感じていた。確証もない、己の第六感ともいえる直感が告げているもので、このまま何も知らないままでいいのかという疑問が浮かんでくる。
不思議そうにこちらを見る伊助に、庄左エ門は俯かせていた顔を上げた。

「伊助、僕は土井先生に詳しく聞いてみる!乱太郎達に、早く避難場所に行くように言って!」
「え、ちょと!庄左エ門!」

伊助の制止する声に応えず、庄左エ門は真っ直ぐ土井先生達職員がいるはずであろう長屋へと向かった。残された伊助は、このまま庄左エ門を追いかけるべきか悩んだが、庄左エ門なら大丈夫だろうと日頃の事を思い乱太郎達の方へと向かった。
乱太郎達は、四方に別れて学園内にいる忍たまに学園長の思いつきである避難訓練が行われるという情報を拡散していた。何かと問題を起こすは組の言葉を信じない二年や三年がいたが、慌ただしい様子で長屋や教室に足を運んだ教師達の言葉もあって、素早く行動し始めた。

「全校生徒に告ぐ!これから緊急避難訓練を行う!!各自、教師達の指示通りに動くように!」

一際大きな声で言ったのは、五年い組実技担当教師の木下鉄丸先生。鬼の形相ともいえる彼に、普段関わりの無い下級生の忍たま達は慌てて避難場所に向かう。等間隔で教師達が配置しており、慌てずゆっくりという声がそこかしこから聞こえた。
たかが学園長の思いつきでどうしてそこまで真剣にしないといけないのか。
そう誰かが言ったのが聞こえた。そしてその言葉によって、疑問を浮かべる者達が現れ始める。

「ねぇ、なんだかおかしいよ……」
「うん。先生達、表情が硬いし、辺りを警戒してる」

三年は組の三反田数馬と浦風藤内はひそひそと囁き合う。周りは緊張感など皆無の状況で、自分達の会話に気付いている様子はなかった。忍たま達の隙間から見えた先生達の様子に確信した藤内は何か起きているのではないか、と辺りを見渡した。
その時だった。

「保健委員会所属の忍たま達、今すぐ保健室に来てくれ!」
「伊作先輩……?」

周りがざわついていたも聞こえた委員会の先輩の声に数馬は反応した。少し離れた場所で、伊作が立っていたのが見えた。自分以外にも、保健委員会所属の忍たまである二年い組の川西左近が斜め前の方で反応したのを視界にとらえた。聞き間違えではない、と確証を得て数馬は藤内に一言添えてその場から離れた。
保健室に向かう途中で同じ保健委員会の左近と、一年ろ組の鶴町伏木蔵と遭遇して一緒に中へ入る。室内にはすでに伊作と乱太郎、そして保険医の新野先生が在室していた。遅くなってすみません、と慌てて謝罪をするが気にしていない様子だった。伊作は集まった後輩達に応急処置する道具を取り出した。
それは、まだ包帯にするまえの布やらだ。

「急いで包帯を巻いてくれ!それと、薬をまとめて欲しいんだ」

どうしてそんなに切羽詰まっているのか。
必死な形相の伊作にそう訊ねたかった数馬だったが、できるような様子ではなかった。それは新野先生も同じことだった。真剣な表情で、戸惑いを隠せない自分達に指示を出した。まだ薬を詳しく知らない一年生には包帯を巻くように。そしてそこそこ薬について分かっている左近と自分は伊作と共に製造と準備を。幸いにも、数日前に切れていた薬草は買ったばかりだった。新野先生と伊作の指示のもと、数馬達は製薬に集中した。
誰かが言った。
たかが学園長の思いつきでどうしてそこまで真剣にしないといけないのか。
違う。これはただの学園長の思いつきではないのだ。
冷たい視線がどこからか向けられる感覚。それに気付いたのはきっと自分だけだ。いや、先輩と新野先生はとうに気付いているのだ。
数馬は冷や汗を垂らした。

「(これは、ただの避難訓練なんかじゃない)」

今、忍術学園は危機的状況に陥っているんだ。
薬研の音がやけに室内に響き渡った。

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