×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
02



少し時間は遡る。
六年生と五年生の救助部隊が学園を出てすぐの事。

「ここも直に、戦場さ」

今まで潜めていた殺気が学園を覆う。あまりの息苦しさに驚き辺りを見渡す伊作や教師達とは反対に、恭弥は口元に笑みを浮かばせる。何が起きているか、などと騒ぐ時間もない事は、教師達が一番分かっていた。
忘れていた。
今、この学園がどんな状態に迫りかかっているかを。敵陣に捕らわれている大事なたまご達のことばかり心配していたがために、此処にも自分達が守るべきたまご達がいることを。

「っ山本シナ先生!厚木太逸先生!今すぐ生徒たちを避難させましょう!!」
「はい!」
「分かりました!」

土井先生が声を荒げて指示を出す。木下先生は土井先生に「学園長のもとへ向かいます」と言って姿を消した。生徒の安全と共に、隠居生活をしているこの学泉の長を守るのも教師の役目。学園長もこの事態に気付いているはずであろうと、教師達も思っている。流石にこの状況で呑気な事を考えているはずがない。

「私は敵情視察をしてきますね……」
「斜堂先生、お願いします!」

静かに声をかけ、斜堂先生は暗闇の中へ消えていく。各々、教師達は自分の持ち場へ行き、その場に残ったのは恭弥、伊作、山田先生、土井先生、事務員の小松田、そして問題児三人組。

「お前たちも、早く先生達の指示に従いなさい!!」
「え、え……?」
「な、なんでそんな突然……」

土井先生に言われるも、正門前で掃除をしていた乱太郎、きり丸、しんべヱは何が起きているのかまだ分かっていなかった。まだ忍たまの中でも最年少の彼ら。たとえ今まで色んな事に巻き込まれていようとも、殺気を感じることはまだできないのだ。一瞬にして自分達の先生が様子を変え、慌て始める姿に戸惑うのも仕方ないことでもある。それを分かっていても、どういえばいいのか分からなかった。此処に向かって敵が襲撃しようとしている。と言えば、彼らの興味の対象となって学園の外に出て行くかもしれない。それだけは何としてでも避けたい。気になり始める乱太郎達に土井先生は自分を落ち着かせるように一つ深呼吸をして、彼らを見た。

「お前たち、一年生達に知らせてくれ。これから緊急避難訓練をするから、先生達の指示に従うようにと」
「き、緊急避難訓練……?」
「今日、そんな事をする日でしたっけ?」
「珍しいですね」

しっかり者の乱太郎ときり丸は、突然そんな事をすると言われて目を丸くするだけ。しんべヱはそもそもそれは何、とでも言いたげな顔をしているが説明をしている暇はない。苦笑を浮かべながらも此処は誰しもが納得する魔法の言葉を使うしかない。

「学園長の思いつきだ」

そう言えば、ほら。子供たちはああ、またですか。と冷めたような目を自分に向けるのだった。それでいい。自分にそんな目を向けられるのは心苦しいものだが、今はその言葉を信じてくれたならいい。乱太郎達は、土井先生の言葉を鵜呑みにし、庭掃除を終了させてすぐに校舎の方へと向かって行ったのだった。
それを見ていた、山田先生は「すまんな、半助」と感謝の意を込めた言葉を口にしたのだった。

「いえ…。そんな大したことはしていませんよ」
「いや、してくれたよ。あの子たちが勝手に動いてしまっては困るからな」

苦笑を浮かべる土井先生に山田先生は首を振る。山田先生も危機としていた。目敏く異変に気付いた一年は組が勝手に動いて、戦いの渦中に巻き込まれることを。
山田先生の思っていることが手に取るように分かった土井先生は、もう半笑いを溢すしかなかった。

「しかし、どうして此処が知られたんだ?此処は山奥にある場所。普段はここが忍者育成の学校だと知られてはいないのだが……」
「えぇ。それが不思議ですね……」

山田先生と土井先生は一緒に首を傾げる。何者かが学内に侵入しようと、忍術学園のサイドワインダーである小松田秀作が察知して追いかけるはずだ。たとえ土の中から潜入しようと、水の中に潜んでいようと、小松田は出入門表にサインをしないと追跡する。
故に、疑問になるのだ。
今回、どうやって忍術学園が敵に知られたのかということが。
それを傍で聞いていた伊作も気になり、一緒に考える。山田先生と土井先生が言っていた通り、普段は知られないように看板を下げていない。視聴者の皆さんに分かるために忍術学園という看板を下げているのであって、普段は下げていない。今まで一度たりとも襲撃など受けたことがないのは、影で暗躍する人達がいたからだ。忍術を学ぶ子供たちを守る為、自分達の知らないところで教師達が動いている。それを知ったのはいつだっただろうか。それは置いて、徹底的に忍術学園の事は内密扱いとしているため、関わりの無い人達には決して知られている事はないのだ。

「(それなら、どうして……)」

すると、そういえば、と小松田が何か思い出したかのように口を開いた。

「気になった事が一つあるんです。さっき、兵助君が帰って来た時だったかなぁ。大きな鳥が、」

途中であるはずなのに、その言葉によって先生達は分かってしまったのだった。
忍術学園の場所が知られてしまった原因が。

「何だって!?」
「何ぃ!?」
「うぇ!?」

両方から大きな声が上がり、小松田はあまりの驚きように目を丸くする。自分の言葉で何か分かったのだろうが、残念なことに自分は分からない。少しは教えてくれるのだろうか、と思いながら山田先生達を見るが…。

「なんと、そういう事だったのか…!」
「全く気付かなかったなんて…」
「え?え?ど、どういう事なんですか……?」

顔を青ざめ、自分自身を責めるような言い方。失態だ、と額に手を置く山田先生に小松田はやはり自分の言葉が原因なのだろうと思いサッと顔色を悪くした。わからないままでは小松田も不安にさせてしまう。土井先生が安心させるように笑いかけながらも、何が分かったのかを小松田に教えた。

「小松田さんが見たのは、忍鳥です」
「にん、ちょう……?」

忍びの鳥と書いて、忍鳥。
忍鳥は敵地の視察や、伝書鳩のように巻物を足にくくりつけて情報を渡す役割をしている。外観は普通の鳥と同じだが、その脚に何か括りつけているものがあれば伝書鳩であると判断してもおかしくないもの。しかし、今回は違う。小松田や乱太郎達が見たのは、忍鳥の中でも厄介なものだ。

「小松田さんが見た忍鳥は、敵地を探るための鳥です。ここら辺で見る鳥は限られる。普段、眼に止めたいはずの鳥を気にしてしまうということは、その鳥に違和感を感じたからでしょう」
「…あ、そういえば…何回か旋空してたような……」
「それこそ、敵地を見つけたという合図と言ってもいいかもしれないね」

そこでようやく、恭弥は話に入ってきた。

「彼らの狙いはもともとそれだった。久々知兵助が油断している時から、彼らは忍鳥を使役していたからね」
「!?それはどういう意味だ、恭弥!」

嫌な意味を含んだ恭弥の言葉に山田先生は眉間に深く皺を刻む。不安そうにこちらを見る伊作や小松田を一瞥してクスリ、と笑った恭弥はまるで今の状況を楽しんでいるかのように口角を上げて言った。

「小松田秀作は見ていたはずだ。久々知兵助が焦った様子で忍術学園に帰ってきたのを」
「ぇ、う、うん……。僕が言う前に入門表にサインしてくれたか、」
「久々知兵助は唯一敵から逃れたことができた草食動物だ。けど、敵からしたらそう簡単に逃すはずがないだろう?」
「!」

恭弥の言いたい事が分かってしまった山田先生と土井先生は目を瞠る。

「敵は分かっていたのさ。久々知兵助がすぐに忍術学園に帰還することを。そしてその途中で追手がいることに気付いて、姿を眩まそうとすることも。だから、雑魚一匹と共に忍鳥を放ったのさ」
「何だって……!?」

忍術学園の居場所を分かるために仕掛けられたこと。久々知兵助も、自分の行動が追手に学園のことを教えるようなものだと思い、途中裏山の方へ移動した。しかし、それでも無駄だったのだ。

「その追い忍は、何処へ……!?」
「ああ、その雑魚なら僕が倒したよ」
「えぇ!?」

思い出したのか、心底つまらなかったと言いたげな顔をする恭弥。
どういうことだ、と詳しく説明を求めてしまうのは無理もない話だった。恭弥は別に言うことじゃないことだと拒んだが、必死に頼む伊作に嘆息を吐いてから簡潔に告げた。
目障りだから噛み殺した、と。

「いや簡潔に言い過ぎだからね!?」

思わずそう言ってしまうのも無理もない事だった。

prev/next
[ back / bookmark ]