×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
01



沈みゆく夕日を追うようにして走る者達。雑木林の草木が揺れる音に家に帰ろうとする村人たちが不思議そうに見たが、誰一人いない。風か、と勘違いをしたまま再び歩く村人たちとは違い、素早く韋駄天の如く走るのは、伊作を除く六年生と五年生だった。恭弥に言われるがままに学園を後にし、三郎達を救出すべくニセクロバリ城を向かっていた。特別部隊の隊長は勘右衛門。故に、先頭に立ち皆を率いていた。一方で殿を担っていたのは八左ヱ門だった。これは勘右衛門の指示だが、隊長の指名ともなれば不平不満を言うことは許されなかった。そもそも、そんな事に時間を割くよりも一刻も早くニセクロバリ城へ向かうべきなのだ。
忍術学園を出立し、しばらくした時だ。

「!?」
「!」
「……」

いまだかつてないほどの巨大な殺気に文次郎を始めとする六年生が足を止めた。背後の距離が少し遠くなったことに気づいた勘右衛門や、六年生の後を追うようにして走っていた兵助たち五年生はどうしたのか、と同じく足を止めた。

「どうし、」
「気配を消せ」

八左ヱ門の言葉を遮り言ったのは仙蔵だった。ぴしゃり、と強く言われた八左ヱ門以外の五年生も素直に指示に従った。皆が気配を消して周りの音に耳を澄ます。静かになった空間に、微かに聞こえた足音。ざっざと訓練された歩き方。
導き出した答えに六年生は目を瞠った。

「有り得ない…」
「どういうことだ…!?」
「………まずい」
「どうかしたんですか、先輩……」
「この足音はどこへ……」
「戻るぞ!」
「え!?」

小平太の珍しく焦った声に、五年生は目を丸くした。戻るってどこへ、と言いかけた雷蔵の言葉は六年生が戻ろうと跳躍した音に消される。何が起きているのかはわからないが、こんなにも六年生が切羽詰まった様子なのは今までに見たことがあるだろうか。いや、ない。常に冷静に物事を見ている一つ上の先輩たちは自分たちの倍以上に経験は豊富だからだ。しかし、五年生である八左ヱ門達は理解ができていない。来た道を戻り始める六年生に八左ヱ門はどういうことだ、と近くにいた仙蔵に説明を求めた。

「足音は聞こえただろう」
「は、はい…」
「数は百は超えていると思います。どこかの城の兵だとみて間違いない…か、と……」
「………まさか」

兵助の言葉が途中で途切れたと同時に五年生も理解した。
百を超える兵力。向かう先は自分たちが通った道。
そして、戦前に昂ぶり溢れ出た殺気。
足音、行く先の方向、そして自分たちの現状を含めて考えてみれば答えはすぐに出た。
さっと顔を青ざめた五年生を見て、仙蔵も焦りの顔を見せた。

「この足音の行く先は、忍術学園だ!!」
「!」
「そしてこの兵たちは、ニセクロバリ城で間違いない!!」

自分たちも想定した答えに一瞬目の前が真っ白になった彼ら。上級生は全員出払っている今の学園にいるのは、自分たちが可愛がり大事にしているまだ幼い下級生たち。
彼らに戦う術はまだない。
下級生たちが危機的状況になろうとしていることを察した五年生達も六年生の後を追いかけた。兵助もハッと我に返って六年生と八左ヱ門達を追いかけようとした。しかし、この特別部隊の隊長である同室の彼は動かなかった。

「勘右衛門、どうしたんだ!忍術学園に戻るのだ!」

呆然としている勘右衛門の両肩を掴み強く言った兵助だったが、はたと気づく。勘右衛門は驚いているのではなく、何か別のことを考えていた。動揺は隠しきれていないが、それでも何か自分たちがすべきことは別にあるのではないか、と探そうとしていた。

「(戻って、どうするんだ…?確かに、下級生達が危ない。でも、俺たちは、三郎達を助けるっていう指示が出された……。学園には、先生や……)」

脳裏に浮かんだのは、綺麗な黒髪を風に靡かせた凛として立っている彼だった。
ハッと何かに気付いた勘右衛門はポツリ、とつぶやいた。

「ダメだ……俺たちは、行かなきゃ……」
「え…?」

勘右衛門は気付いた。
自分たちが最優先すべき事を。
なぜ自分たちが三郎達の救出部隊に任命されたのか、を。
どうして彼が、こっちの部隊に入らなかったのかその真意を。

「あ、勘右衛門!」

兵助の腕を振り切り、勘右衛門は忍術学園へ戻ろうとした六年生たちを追いかけた。風の如く素早い勘右衛門が自分たちの行く手を阻んだことにより驚き足を止めた六年生。全員が全員、焦燥の色を浮かべていた。一刻を争う事態に、冷静な判断が出来ていないのだ。

「先輩方!俺達はニセクロバリ城へ向かいましょう!!」

そんな彼らに向けて勘右衛門はそう言った。
しかしそう素直にうなずき動くはずがなかった。驚愕し、一瞬動きを停止した彼らは、動揺のあまり言葉が詰まった。

「な、何言ってんだよ!」
「バカタレ!学園の危機なんだぞ!?」
「私達が戻って守るべきなんじゃないのか!?」

そう思ってしまうのも仕方ない。勘右衛門もそう思っていた。
しかし、違うのだ。

「学園は、絶対大丈夫です!!」

納得していない声を遮って勘右衛門は大きくそう言い切った。
真っ直ぐな目で六年生を見る勘右衛門に呆気にとられる。だが、その言葉に根拠はあるのだろうか。文次郎や留三郎が何が大丈夫なんだ、と荒々しく声を上げて強く言う中、冷静になったのか長次が一歩前に出た。動いた長次に驚き文次郎達の声が止まった。皆の視線が彼に集まる中、長次は言った。

「……忍術学園は、大丈夫なんだな」

モソモソ、といつもより大きな声で長次は勘右衛門にそう言った。普段小さな声で話す長次に驚いた勘右衛門だったが、その言葉に数秒遅れて反応を見せた。

「はい!!」

強く、うなずいた。
自分をじっと見る長次に勘右衛門はごくり、と生唾を飲み込む。それが数秒なのか一分だったのかわからないが、長く感じた末、先に目を逸らしたのは長次だった。くるり、と背を向け再びニセクロバリ城への方角に体を向けた長次に同級生は戸惑いの声をかける。

「私達の隊長は尾浜だ。なら、彼の指示に従うべきだ」
「そ、れは…そうだが!」
「学園には、まだアイツが残っている」
「!」

長次の言葉にハッと息を呑んだのは何人だっただろうか。そして皆が長次を見ていたため、気付いていなかった。
勘右衛門がまるで自分のように嬉し気に笑っている事を。
フッと息をついたのは誰だっただろうか。

「そうだな」
「アイツがいるなら、ま…問題ないな」

仙蔵、文次郎はやれやれといった風に肩をすくめた。張り詰めていた空気がゆっくりと和らいでいった。
い組の二人に続き、他の同級生達も理解した。

「なはは!!そうだったな!!」
「癪だが、アイツがいたら大丈夫だな」
「?」
「…えっと……」

六年生とは違い、いまいち理解していない勘右衛門を除く五年生。しかし、六年生は心配事はなくなったかのように再びニセクロバリ城へ向かおうとしていた。忍術学園には戻らないと分かったけれど、根拠がわかっていない同級生に勘右衛門はニッと笑って言った。

「“学園一強い忍たま”がいるからだよ!」

トンファーを片手に、微笑する我らの委員長の姿。
彼がいるなら、忍術学園は大丈夫。
勘右衛門の言葉に理解し、納得した五年生も六年生達と同じように笑った。

「よし、そうとなれば向かいましょう!」
「おう!」

再び勘右衛門を先頭にし、救出部隊はニセクロバリ城に向かって木の枝を蹴った。

−/next
[ back / bookmark ]