影と日の恋綴り | ナノ
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 ぬらりひょんの力の片鱗

「我が名は手洗い鬼!!四国一の怪力!!てめぇらの一番は誰だあああ!?」
「……」
「鉄紺色の衣をまとう破戒僧。この…青田坊様をよぉ。リクオ様を幼少の頃よりお守りして来たんじゃーーー!!」
「雪女!お前はリクオ様のお側にいろ!!」
「それが見失ってしまって…」
「ゲゲゲッ…。水場がアリャ…リクオなんぞこの崖涯小僧がひとひねりよー!!」
「くそ!雪女!!止めるぞ!!!」
「首無!?」
「邪魔をしないでほしいな!!」
「へぇ。水場がないからまた役立たずかと思ったけど。ラッキー」
「て………てめ……」
「河童…ありがとう……」
「雪女!!貴様は早くリクオの元へ向かえ!!」
「は、はい!!」
「死ねェェエエアァア!!!」
「……雑魚は消えろ」
「闇の世界とこの世とあの世の狭間…、どちらが良くて?」

痛みを上げる声。
叫び声。
金属音が鳴り響く。
肉を切り裂く音。
地響きとともに爆発音が上がる。

「っ……!!」

聞きたくない、見たくない、感じたくない。
妖怪が、奴良組の妖怪の皆が傷付く様子を見たくも、聞きたくも、感じたくもない。バタリ、と誰かが倒れるたびに涙が一筋、また一筋と流れ落ちていく。
もう、もう…。

「もう、やめて…よ…」
「あ?」
「何で?どうして…、可笑しいよ…!!どうしてそこまでして争わないといけないのよ!!傷付く姿なんて見たくない!!やめてよ!!どうして、どうし…て……っ…」

何故、傷付かないといけないの?死ななきゃならないの?何で、命をかけて戦うの?争うの?
何も信じれなくて、どうすることも出来ない己の無力さに、ただただあたしは涙を流すだけ。涙を流すってことは、自分が“弱い”という証拠なだけなのに。

「フン…」

犬鳳凰は突然鼻で笑った。そのまま彼方前方を眺めながら言った。

「自ら進んで先陣を斬るとは一体何の策があるのかと思ったが。何のことはない…ただのハッタリでしたな」
「奴良リクオはどこだ」
「さぁて…。見当たりませんな…。しかしこの百鬼の乱戦。死なずとも進めますまい……」
「…………」

犬鳳凰の言葉に、あたしはバッと顔を上げた。そのまま前方を見つめる。
見当たらない?何をバカなことを言っているんだ?進んでない?阿呆なことを言ってるお前の方がこれから進めないんじゃないのか?
前を見ろよ。居るじゃないかそこに。

「!!」
「!?どうしました………?玉章様………」
「っ……」

犬鳳凰は突然構えた玉章に驚きが隠せなかった。だけど、それは他の四国の妖怪たちも同じ事で…あたしと玉章は違う意味で驚きを隠せなかった。
彼は居るのだ。進んでいるのだ。
ぬらりくらりと、周りの妖怪をかわして。
こっちへ近づいているのだ。
思わず玉章が声を張り上げる。

「お前たち!!何をしている。周りをよく見ろ!!」
「!!」
「っ……」
「なぜ誰も気付かぬ。リクオはそこにいるぞ!!」

そう言った瞬間だった。

「よう」

一瞬で、リクオは玉章の前へと立っていたのだった。そのままリクオは玉章目掛けて、刀を振り下ろした。が、流石は四国の大将なだけはあった。
すかさず魔王の小槌で対応した。

「え……?」

周りの四国の妖怪は目を丸くするしかなかった。ただ突然現れたリクオといつの間にか自分達の大将と一戦を交えていることに驚きが隠せなかったのだ。
あたしも、そのうちの一人でもあった。

「チッ!!」
「!?キャッ」

あたしは犬鳳凰に道の端に放り投げられて、そのまま痛みに顔を歪めながらも、リクオを見た。リクオは認識できていた。けど、いつの間にさっきはまだ数メートル先に居たのに、一瞬で玉章の目の前に来たの?
ぬらりくらりと、まさにぬらりひょんだった。

「……成程……。これが“ぬらりひょんの力”……か」

意味深に玉章は呟くように言った。

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