▼ 畏れのぶつかり合い
「………」
再び沈黙が走る。痛みで身体が言うことを聞かない。犬鳳凰によって再び玉章の背後に置かれたあたしはただ彼等の安否を願うしか出来なかった。それ以外に出来ることだったら…、
「っ……」
出来る可能性はある。けど、その分あたしにリスクが大きくかかる。怪我を治すのは簡単なこと。
でも、もし…あたしの力が間に合わないでリクオが死んだら?
それだけは嫌だ。出来ない!完治させるほどの力はない!余ってない!出来るとしたら一太刀のみの怪我くらいのものだったら。でもリクオはそれ以上の怪我を負う。
なんだ。何も出来ないじゃないか、あたしは。
「……、……」
涙を流すことさえも出来ない。俯いていると、突然その声は聞こえた。
「大将が一番先に出て来たぞ!!」
「!!」
「ヒャハッハハハハッーー!!」
「何考えているんだあいつは!?」
「行け!!殺っちまえばァーオレたちの天下だァーーッ!!」
四国の妖怪の言葉であたしは周りを見た。突然の開戦に誰もが動揺したが、すぐに攻撃へと回って互いの力を戦いに注いだ。
金属音が響きあう。
「っ……」
雄たけびを上げて死を迎える妖怪達。
「ぅ……っ…」
やめて、何で…。
「怪我、しないでよ……」
ぽたり、とアスファルトに落ちたのは、
(鯉伴side)
「始まった、か」
ビルの屋上から下の大通りの様子を傍観する。リクオの奴、冷静さを取り戻したかと思えば、度肝を抜かされた行動をした。意表をつくのはいいが、組の奴等まで驚かすっつーのはどうなんだよ。
流石俺の息子だねぇ、と小さく笑ってじっと四国妖怪の後方にいる奴の―――背後へと目を向けた。
「……緋真、」
妖怪達が、特に奴良組の妖怪が怪我を声を上げる度に涙を流し、拒絶するように首を振って涙を流す緋真。
「っ…ぜってぇ、助けっからな…」
娘でもない赤の他人である彼女を気に掛け、助けようとするのは自分の意志なのか、それとも。
(鯉伴side終)
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