影と日の恋綴り | ナノ
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 痛々しい姿

寒気とも言えるような大量の妖気の塊。
霊感のあるものだったらここにいたら吐き気や頭痛もの。あたしの周りにいるのは全員が妖怪だからそんな心配は必要ない。でも、あたしの中には嫌な予感でいっぱいだった。

「………」
「………」

あたしの真反対には、弟の…リクオの妖気が感じられた。傍には側近達の妖気に、奴良組の妖怪たちがいることが分かった。
傍に行きたい。
姿を見たい。
でも、それはあたしの目の前に居る玉章の存在によって出来なかった。ザッ、とリクオが一歩動いたのが分かった。リクオが攻撃仕掛けてくるのかと思った四国妖怪は攻撃態勢に入った。が、それは玉章によって止められる。ゆっくりと、リクオは玉章に訪ねた。

「…藤堂緋真は何処だ」
「!」
「……」

リクオの言葉が空耳だと思いたかった。
けど、リクオの言葉に反応したのはあたしだけじゃなくて、目の前にいる玉章や、あたしを拘束している縄を持っている犬鳳凰も反応していた。幹部の妖怪も視線だけあたしの方に寄せていたのも分かった。そんな視線を無視して、あたしはただ自分の無力さに涙を流したかった。

「…名前などは興味ないから知らないけど……」
「っ…」

玉章の言葉に応えるように、犬鳳凰は縄を引っ張って玉章の前に、リクオ達の前へとあたしを放り投げた。投げ捨てられたような感覚に陥りながらも、あたしはゆっくりとアスファルトから視線を上げて彼等を見た。

「……リ、ク…」
「…緋真…ッ!」

嗚呼、立派な百鬼夜行を率いているその姿は正に…、

「(魑魅魍魎の主に、等しい…や……)」

弟の立派な姿にあたしは自然と笑みを零した。



(燈影side)

「緋真?誰だそいつは?」
「分からん、それよりもあの小娘は誰じゃ?!」

俺の背後でコソコソと話をしている奴良組の妖怪たち。そんな話に入って答えたかったが…。
今はそんな事はどうでも良かった。

「っ…リクオ様…藤堂さんのあのお姿は…!?」
「なんて酷いことを…!」

氷麗や毛倡妓の言葉に、俺は腸が煮え繰り返りそうになった。
なんという姿なんだ、彼女の姿は。

「っ…!!(たった数日の間になにが…!)」

顔は何度も殴られたのだろう、頬は青く鬱血しており、口の端からは血が流れた後が残っていた。それに加えてあの姿だ。制服のまま捕まっていたのだろう、靴下は元々白だったものが酷く赤黒く変色しており、制服の裾や襟元も同様赤黒く変色していた。何度も髪の毛を掴まれていたのか、髪の毛はボサボサになっており、真っ直ぐな髪とはかけ離れていた。
酷い仕打ちをされていたのは明らかだった。

「緋真、さ…!!」

神無は口を抑えて、信じられないといわんばかりに頭を横に振った。

「っ…!!」
「!待てリクオ」

我慢できなかったのか、リクオはもう一歩踏み出そうとしていた。それでは相手の思うツボだと思い、俺はリクオの影を踏んで動きを止めた。
何故止めたんだ、と目で訴えてくるリクオに俺はゆっくりと言った。

「冷静にならぬか、リクオ。大将が冷静でならなければ誰が指揮をとるというのだ」
「燈影……」
「…今は、様子見だ…」

ギリッ ポタ…

悔しかったからなのか、いつの間にか俺は強く手を握り締めておってポタリと数滴血が血に落ちた。
彼女を護れぬ己が無力だと思い知らされた。

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