▼ 奴良組出陣
(燈影side)
『……』
静けさが長く続いた。が、小さくフッとリクオが笑ったことでその静けさは消えたのだった
「そんなこたァさせねぇよ。俺の代に、この組に入った以上、つまらねぇと思うようなことはねぇよ」
「奴良組に入れば、つまらぬことなどない!」
「そんな思いなんざ絶対ぇしねぇよ。この組が一番最高だからな」その姿が、父と祖父と重なって見えた。
「………そうか」
嗚呼、やはりお前はぬらりひょんの血を受け継いでおる男だ。
口布を外し、俺はリクオの後に酒を飲んだ。
これで奴良リクオとの“盃”は完成したのだ。
「それと、もう一つ」
「何だ?」
「知っていると思うが、俺は敬語が嫌いだ。かたっ苦しいのは嫌なんでな」
「なんだ、そんなことかよ」
「……」
ばさり、とリクオは羽織を着て俺に背を向ける。しかし、不敵な笑みをこちらに向けていた。
「そんなこたァ気にしねぇ。お前がジジイや親父に敬語で話したところを見たことがねぇ。それは親父たちは認めているんだろ?」
「まぁな。それも交わすときに言っておったからな」
「ならいいじゃねぇか。俺もそういうのは気にしないからな」
そう言ってリクオはバッと勢い良く障子を開けて恐々としている手下達に叱咤したのだった。
新たな大将の後ろ姿を見、俺は襖越しにヤツに言う。
「…鯉伴」
「あぁ。俺は別行動させてもらうぜ」
「…相分かった」
鯉伴はそう言って一人“鏡花水月”を使って誰にもバレずに屋敷を後にしたのだった。
「さて。久々の出入り、暴れるとしよう」
鯉伴よ、緋真の事頼んだからな。
(燈影side終)
「……」
ぞろぞろと、禍々しい妖気が周り一帯に感じた。それは覚えのある妖気や、殺気しかこもっていない妖気だったりと色々だ。
バラバラで、ごちゃごちゃした、混沌としたようなもの。大勢の人間の悲鳴が聞こえる中、多くの足音が聞こえた。
それは自分達の足音かもしれないけど、それ以上にビルの谷間から響き渡る足音に自然と顔を下へと向けた。
「おばんでやんす。どけ、人間」
「ば…化物ーー!?」
人の悲鳴が恐怖の声が聞こえる中、聞きたくもない声が聞こえた。
ふと、自分の前の存在が足を止めた。
「キミもやはり百鬼を率いる器。あの程度では脅しにもならないか…。リクオくん…やはりボクらは似ているね」
「っ……」
嗚呼、今どのような場面なのかが綺麗に把握できた。
「お互いの、」
大将同士が、
「“おそれ”をぶつけようじゃないか」
百鬼夜行が、
「百鬼夜行大戦の、」
生死を賭けて戦う
「―――始まりだ」
合戦の始まりだ。
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