影と日の恋綴り | ナノ
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 四国妖怪出陣

「フン…あれだけの傷だ。あの傷を見れば、」

玉章は遠くに消えていく三羽鴉を見、ゆっくりと刀を下ろした。傍にいた夜雀はさっと懐から和紙を手にして、刀についている血をふき取っていく。それをさも当たり前のように夜雀にさせてながら玉章は言った。

「敵に、“策が通じぬ”と。“考えが読まれていた”と、そう思わせられる。奴等の動揺が目に浮かぶ」

玉章の行動の意図が未だ理解出来ていない幹部どもは次の言葉を聞き、納得した。

「刻は来た。今夜奴良組本家に総攻撃をしかける」

玉章―――そうだ、これが玉章…我等が大将…何者をもおそれず笑って進む。
怖い。
だが……、

「これに乗じて一気に天下奪りだ」

この男についてつけば―――――

幹部の思いを知らないで、そのまま刀を夜雀に渡した玉章はゆっくりと、屍を避けながら、しかし堂々とした振る舞いで近づいていった。緋真は気失っていた。その頬には涙を流したあとが濃くこびりついて残っていた。
そんな緋真を見る玉章の顔は怒りで染まっていた。

「この女…。力がないと等しいというのにあの餓鬼共に結界を張っていた…」

そう。牛頭と馬頭があんなに妖怪がいるなか断然怪我が少なかった理由はこれだったのだ。

「逃げてぇぇええぇぇぇえぇぇぇ!!!」

叫んだ緋真は自分の霊力がほぼないという状態なのに、牛頭と馬頭を護る為に真言を唱え、結界を張っていたのだった。そのために彼等は最低限の怪我ですませたのだった。

「馬鹿な奴だ」

ちらり、と針女に目を向けると針女は意図が分かったのか懐から鍵を取り出して緋真を拘束していた鎖を外したのだった。今までずっと腕を吊るされていたのか、重力なのかは分からないが、緋真の腕は床へと垂れ落ちた。

「余計なことをするなと言ったというのに…」

ドゴッ

「!!」
「……」

玉章は呆れたような、冷めついた口調で言ったかと思うと瞬間、緋真の腹目掛けて重い一撃を喰らわせた。
針女はその光景を何度も見たので眉を潜めて見ていられない、とでもいうように顔を背けた。その反対に、他の者共はただ黙って、さも当たり前かのように彼女が受けられる玉章の蹴りを見ていた。

「犬鳳凰」
「はっ」
「こいつを縛れ。そのまま連れて行くぞ」
「承知」

玉章の命令に何の感情を持たないまま、犬鳳凰は何処から取り出しのか、縄を手に持ちそのまま緋真を縛り上げた。犬鳳凰に縛り上げられた衝動で、目尻に溜まっていた涙が一筋零れた。

「彼女を彼等の前で殺し、そしてボクのものとなれば、彼等はどんな反応をするんだろうか…」
「……」
「すぐに四国の妖怪共を呼び集めろ。この部屋は一掃し、燃やせ」

幹部共に行って、玉章は縛られた緋真と共に部屋を後にした。

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