影と日の恋綴り | ナノ
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 恐怖

「この部屋か!?」
「あ、ぼっちゃんだんご。…――」


声が聞こえる。その声は微かで、あたしの聞き間違いじゃないのかって思ってしまう。けど、だんだんと近づいてくる妖気を感じると、それはあたしの勘違いじゃないってことを暗示された。

「“魔王”………“召喚”……?」

嗚呼、どうして此処まで来たの?さっさと逃げて、リクオ達に現状を伝えて。
お願い、早く…此処から逃げて…。
だから、我慢できなかった。

「…ご、ず……」

あたしの弱々しい声が聞こえたのか、牛頭は反応して周りを見渡した。そのまま、とある一点を見つけ、呆然とした。ゆっくりと、驚愕の声で呟いた。

「……緋真……!?」



(牛頭丸side)

「お前、何でこんな所に…!!?」

微かな声で俺の名前を呼んだのはお嬢だった。
酷い傷を負ったままの状態で。

「ぇ、え…!?ちょ、ちょっと牛頭!?どういう事…!!緋真様って?!」
「っ…め、ず…」

馬頭が俺に説明を求めていたが、それどころじゃない。
何でこいつが此処にいる?
何でそんなに傷だらけなんだ?
どうして敵のアジトにいるんだ?
どうして鎖でつながれているんだ?

「今日のあの子の世話、あんたよ」
「玉章がわざわざ捕まえてきた人間」


嫌な予感か当たった瞬間だった。

「お嬢、まさか……!」
「!!牛頭後ろッ!!!!」

お嬢の言葉のすぐあとに来たのは俺を押さえつける力強い手と腕力。敵に囲まれたのだった。

「ぐぉ!?」
「しまった…」
「牛頭っ、馬頭ッ!!!」

お嬢は鎖で繋がっているのに、それでも俺たちを助けようと必死にジャラジャラと金属音を奏でていた。それは全て彼女の腕に負担がかかるってのに。

「ふん…わかってたよ。それそろ…そっちから仕掛けてくる頃だろうってね…」

声とともに四国の総大将とも言える奴が姿を現したのだった。

(牛頭side終)



「牛頭っ、馬頭ッ!!」
「くそ…ワラワラ出やがって…」
「牛頭〜〜〜〜」

手洗い鬼やその他の妖怪たちに押し倒されて捕縛された牛頭と馬頭。あたしは声をかけることしかできないで、その様子を見ることしか出来なかった。

「離して!!牛頭と馬頭を離せッ!!!」
「君は黙っててくれないか?今僕は彼等と話をしているんだから」

ジャラジャラと鳴り響く金属音。助けたい、真言を唱えて彼等を護りたい。でも今のあたしの霊力の量じゃとてもじゃないけど護ることは出来ない。黒羽丸達が来るまでの時間稼ぎになるかどうかも分からない。

「お前、牛頭と馬頭に手を出してみろ!!そんなの、あたしが、あたしが許さないんだから…!!」
「強がりはよしたまえ。君の力で何ができるというんだい?霊力もほぼないに等しい君が僕に攻撃を?冗談を言うんだったら時と場所を考えたまえ」

鼻であたしを嘲笑う狸。その態度がさらにムカついてあたしは声を上げる。

「ふざけるなクソ狸!!お前みたいな奴が、お前みたいな妖怪に…、」
「玉章様に対してその口のきき方は何だ!?」

ドガッ

「ぐっ…!」
「緋真ッ!!」

傍にいた犬鳳凰があたしの鳩尾を殴る。鳥なだけに手の平かどうか分からないが面積が広く、広範囲にわたってあたしの大ダメージを与えた。いっきに肺の中の空気を外に出され、再び意識が朦朧となる。

「ああ…これか?そんなにこの刀のことが知りたいのか?」
「!!」

狸の言葉に背筋が凍り、朦朧となっていた意識が覚醒する。狸の手にはいつの間にやら魔王の小槌を持っていて、いつでも刀を抜く準備は出来ていた。
やめて
切実に、思った。

「っ逃げてぇ!!!!牛頭!馬頭!!お願いだから、此処から逃げてぇ!!!!」
「黙れと言っておろうが!!!」
「う゛っ!!」

犬鳳凰に顔を殴られる。けど、それでもあたしは声を張り上げる。

「やめてぇ!!殺さないで!!!お願いぃい!!!」

大切な人を殺さないで、消さないで。ダメ、やめて、いや、いや…!

「いいだろう……丁度いい…見せてやろう」
「っ!!駄目ッ、牛頭、馬頭!!逃げてッ!!お願い、やめて…!」

玉章の妖気が一瞬で変わったことに気付いて、お願いと玉章に懇願した。けど、玉章はそれを無視して刀を鞘から抜き出した。牛頭と馬頭に視線を寄越せば、彼等は手洗い鬼によって拘束されているから、逃げる以前の問題だった。
けど、死なせたくはない。

「逃げてぇぇええぇぇぇえぇぇぇ!!!」

出せる限りの声量で、二人に向かって叫んだ。

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