▼ 妖怪はモノ
バンッ
「!」
「………」
混濁しかけている意識の中、大きな音を立ててあたしが存在する部屋のドアが開いた。そこに見えたのは…。
「た、玉章っ!?」
「………」
とうとう、玉章が帰還した。あたしの見張り役だった針女の呼び掛けを無視して、玉章はそのまま無言であたしの元へ近付いてきた。
コツコツとローファーで歩くたびに聞こえる靴音。あたしには顔を上げることも出来ず、ただじっと一点を見つめて玉章を待つだけ。
コツリ、と綺麗な音がして足音は止まった。
瞬間、
ドゴッ!!!!!
お腹に、重たい一撃が入った。
「ごほっ!!!!」
「た、玉章!?あんた、一体何して…!!」
いきなりあたしの腹を蹴ってきた玉章に心底驚いて問いただす針女。けど、玉章はそんな針女の言葉を無視してただあたしを見ているだけ。
まぁ、たしかにいきなり腹を蹴ってきた大将を見れば誰でも驚くよね。
「針女。見張りはもういい。お前は今から四国の奴らが来たかどうか見て来い」
「わ、分かったわ……」
針女が部屋を出て行った。それと同時に入ってきたのは夜雀。
四国の人間なのに、どうして狐文字の布を巻いているのか誰か不思議に思わないの?
そう思っていると、再び腹に重たい一撃が。
「がっ、ごほっ…ごほっ…!!」
「バカな女だ。黙って捕まっていればこんな痛い目には合わなかったというのに…。カス犬を助けようとしたな、お前」
冷めた目であたしを見る玉章。そんな目で見ても全然怖くないんだよ。ふざけるな、何で助けちゃいけないんだ。
ふざけるな。
「っ、アンタに馬鹿と言われる筋合いはない!!自分の力で、あんなに…あんなに慕っていた奴を消すアンタなんかに…!!馬鹿だと言うならそれはあんたの方じゃない!!」
「玉章は俺を救ってくれたぜよ!!」「ふざけるな!!犬神は!あんたを慕っていたじゃない!!それなのに、あんたは…お前は…お前は犬神を捨てやがって!!」
腕が鎖で固定されているから動かせない。けど、それよりも、玉章を殴りたい。殴らないと、腸は煮え切らない
こいつは、犬神は…!!
「奴を認めていた?慕っていた?それは勝手に勘違いしていたアイツの自業自得だよ。僕はただ、駒だとしか思っていない。その駒がカスとなって、役立たずとなった。それだけさ」
「上辺だけでお前は犬神と接していたと言うの…!?っお前は、どれだけ妖怪(ヒト)を利用すれば…!!」
「奴は憎むべき相手を畏れた。憎しみが増えれば増えるほど力が増すはずの妖怪が、憎む相手を畏れたんだ。あんなモノは用済みだ」
淡々と話す玉章。冷徹な口調で、なんの感情もなく当たり前のように話すその態度に、殺意が芽生えた。
「用済み…?アンタ、それで天下を取ろうとしてるの?リクオを、奴良組を倒そうとしてんの…?」
「君が何を知っているというんだ?今の奴良組には総大将であるぬらりひょんは居ない。彼がどうしようと僕達の天下取りは確実だよ」
さも当たり前のことのようにほざく玉章。爺やがいない?だからなんだ。父さんがいる、燈影もいる、首なしも、青も、黒も、みんな、みんないるんだ。
リクオだけが敵だと思うならそれはお門違いだ。
「アンタが天下取りなんてできるわけないじゃない!!百鬼夜行の意味を!仲間の意味を理解していないあんたが、リクオを、奴良組を倒せるわけないじゃな、」
ドガッ
「ぐっ、う…!!」
また腹に一撃が入った。さっきからずっと腹を蹴ってくる玉章に怒りがこみ上げる。けど、それ以上に痛みが身体を襲い、呼吸が苦しい。痛みに顔を歪め、何度も咳き込む。呼吸が落ち着き頭を垂れていると、ガシリ、と容赦なく髪を掴まれてそのまま無理矢理上へ向かされた。
「君みたいな非力が僕のことを否定するなんていい度胸じゃないか。それに、君も同じなんだよ。君の力…治癒力に興味があって君を生かしているだけ。全てが終わって、君の力を僕のものにしたとき、」
「ぐっ…っ…」
「君も用済みとなり、消す」
冷めた声で、小さく言われた。
ふざけるな、勝手に拉致して、こんな暗い湿ったような部屋であたしを監禁させて、自由を奪って。
…ふざけんな。
「クソ狸が、ふざけんな!!」
「今の君の力では恐るるに足らない」
バキッ
「っ!!」
鳩尾に一発入れられた。痛みで意識が朦朧としていた中だから、その一撃で完全にあたしは意識を無くした。
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