▼ 監禁
「っ…ぅ、う……」
目が覚めると、そこは暗く冷たい場所だった。
「…あ、たし…なんで…」
意識が朦朧としていて思い出せない。つか、此処はどこ?なんでこんなに真っ暗なの?
ジャラ、
「!?」
腕を動かそうとしたと同時に鳴ったのは金属音。そして、腕にかかった鉄の重さ。つまりは拘束されているという事。
「何で、こんなとこに…」
暗い、真っ暗、闇、夜。
「っ!?ゴホッ、ガホッ!!!」
闇かれ連想されるモノが浮かび上がったと同時に咳き込む。見事に鳩尾に一発喰わされたからなぁ…。そう思いながら、今までの出来事を思い出す。
自分はさっきまで、リクオ達と一緒に入院している鳥居さんのお見舞いに行っていたはずだったんだ。そして、鳥居さんを助けてくださった千羽様にお礼と力を授けて帰ろうとしたんだ。
帰ろうとしたあたしに降りかかってきたのは黒い羽。
羽が触れた途端、視界は闇に覆われてそのまま鳩尾に一発。
「っ…あんのくそ狸が…」
油断していたんだ。まさかあの場で捕まるとは予想していなかったからだ。くそ狸があたしの力に興味を持っていたのは気付いていた。自分の力…二つあるけどたぶんあたしの妖力のほうじゃなくて…。
「…治癒の力、か…」
なんなの?あれか?あたしは柳姫ってか?だったらあたしには忍者に憧れを抱いているサルくんでもいるのか?
どっちかといえばあたしは左眼に火傷を負っている人のほうがいいんだけど←
「…たいそうな力、でもないんだけどな…」
ホント、厄介な力だ。
「お目覚めのようだね」
「!!」
パッと、あたしと声がしたほうの二箇所のみにライトが照らされた。一瞬眩しくて目が眩んだけど、そんなものは一瞬で吹っ飛んだ。
目の前に嫌な奴がいたから。
「あんた…っ!!」
「へぇ、僕を覚えてくれてたんだね。それはそれは光栄だね」
「くそ狸が…!」
殴りたい。今すぐにでもあいつの憎たらしいほど綺麗な顔をボッコボコに殴って原型をとどめなくさせたい。
「おっと、そんなに暴れないでくれ。じゃないと、君の腕が使い物にならなくなるよ?」
「!っ…」
狸に言われて思い出す。自分の両手は鎖に繋がれて磔られていることに。腕は壁にピッタリとくっつかれていて、足だけが自由だった。けど、あたしはそこまで足は長くない。
なんでこういう時に限って足は長くないのかなぁ!!
「それにしても、君は一体何者だい?」
「…なんのこと?」
白々しく言えば、狸は無言のままあたしに近付いてきた。そして、
パァン!!!
いい音を奏でて、叩かれた。
「っ…」
さすが妖怪なだけにあって威力が半端なく強く、舌を噛んでしまいそうだった。口の端は切れてしまったけど。
「白々しいのは僕は好きじゃなくてね。はっきりと答えなよ。本当は分かっているんだろ?自分の力に」
「…は?あたしに力?そんなものはないわよ。自分はただ霊力があって、霊が見えるだけよ」
パァン!!
「っ…う、」
また叩かれる。反対の頬を叩かれ、綺麗に赤くなった自分の頬。
「君は殴られるのが好きなのかい?そこまで強情をはるなんて、君にメリットなんてないはずだ」
「メリットデメリットなんて、そんなもののために口を硬くするような女じゃなくてね。ただ言いたくないから言わないだけなの。あんたみたいな最低な妖怪に」
「……へぇ」
口の中が血の味でいっぱいだった。それを我慢して、口の端から血が流れていてもそれを無視して、あたしは全神経を狸へと向ける。口は封じられていなかったのが不幸中の幸いだった、
「…君、中々面白い子だね。どうだい?君を助ける代わりに僕の八十八鬼夜行の仲間にならないかい?」
「……冗談。あたしは、あんたみたいな奴の下につきたくもないし、仲間になりたくもない。そもそも、あたしにメリットがないわよ?」
助けられたとしても、あたしはあんたの仲間になって自由になることはないじゃない。そう言えば、狸は目を丸くてそのまま喉で笑った。
「クククッ…。本当に面白いね、君。まぁいい、君のその治癒の力は僕にとって都合いい。ふふふ…、存分に使ってあげるよ」
「!!!」
今、こいつは何て言った?治癒の力?なんなんよ、もうバレてるじゃないか。知っているのにいちいちあたしに言わせるなんて、癇に障る男だ。
さっさとリクオにやられてしまえ。
「それと、」
「なに?」
「…君が得意とする真言は言わないほうが身のためだよ。君の力は、僕たち四国の妖怪には歯が立たないんだから」
「っ…」
今からしようとしたことを読まれた。これだったら歯が立たないと同じ。しかも、狸から言われたんだからやっても意味が無い。まったくもって、あたしは役立たずだ。
けどね。
「…あんたなんか」
「?」
「…あんたなんかリクオに倒されればいいのよ!!仲間を仲間と思わないあんたなんか、リクオに負けるに決まって、」
ガスッ
「っ、う…」
鳩尾に強い一撃。その一撃で、一瞬で意識はもっていかれた。あたしを冷たい目で見ている狸と夜雀の姿で、何故か無償に自分が情けなく思えてしまった。
「リク、オ……」
ごめんね、ごめんね。
結局貴方のお荷物になっちゃった。なりたくもないのに、なったらお荷物になって邪魔になるだけなのに…。
あたしに、力があったら……。
「ごめ…」
言い終わることなく、あたしの意識はそこで途絶えた。
***
「…世話のかかる女だ」
玉章は緋真に背を向けて呟くように言い捨てた。傍には側近的存在の夜雀が立っていて、手に持っているのは薙刀。
これで緋真の鳩尾を殴ったようだった。
「彼女には興味は無い。けど、彼女が持っているあの治癒の力は興味があり、そして使える」
フフフ、と玉章は口角を吊り上げて笑った。それを夜雀は眉一つ動かさず見ていた。
「彼女の治癒の力は僕の力に…、この魔王の小槌の糧となるだろう」
そう言った玉章のそばに飾ってるのは古びた刀。
「待っていろ、奴良リクオ…。君も僕の百鬼夜行の後ろに並ばせてあげるよ…」
その言葉を最後に、緋真のいる部屋は闇へと化した。
prev /
next