影と日の恋綴り | ナノ
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 拉致

「鳥居さん!!元気かね!?元気だろーね?」
「清継くん!?みんな!!」
「うむ、清継だ!!」

浮世絵総合病院。
清継くん達のもとに向かえば、すぐに鳥居さんのお見舞いに行くぞ!と声を掛けられそのまま皆で病院へと行ったあたし達。鳥居さんは元気そうで安心した。

「みんな…来てくれたんだ…」
「当たり前だね、マイファミリートリー」
「病院ではお静かにしましょうね、清継くん」

大声で言う清継くんに注意する。けど、人の言うことを聞かないんだよなぁこのくそ餓鬼は。
入り口前で立って彼等を傍観していると、“千羽様”という言葉が聞こえた。

「千羽様……」

そういえば、鳥居さんを袖モギ様の呪いから助けたのは彼だったっけ?黒が袖モギ様を倒したほうに印象が強かったから千羽様を忘れていた。千羽様は人の祈りが強ければ強いほど“畏れ”が集まり、病に伏している人々を助けることの出来る土地神。
礼を言ったほうがいいのだろうか?

「…言ってこよ」

また小さくなっていたらあたしが霊力を渡したりあたしが祈ればいいしね。それに、そろそろ暗くなってきたし…ね。

「委員長?もう帰るの?」
「はい。少し寄るところがありますので」
「…大丈夫?」

心配そうに聞いてきたリクオ。
もう、そこまで心配しなくていいって言ってるのに…。

「大丈夫ですよ。人通りの多いところを通りますから」
「……そっか」
「それでは。鳥居さん、お大事に」
「うん!委員長もありがとう!」

鳥居さんに挨拶して、あたしは病室を後にした。

***

病院から少し離れた雑木林の中。そこに小さなこじんまりとした祠があった。

「…これか」

雨の中だからか、祠に掛けられている千羽鶴は雨に濡れて湿気ていた。祠に手をかざし、確認する。

「…“気”は消えてない…」

祈りがまだ残っているのか、それとも祈り続けているのかは分からない。けど、千羽様に対する“畏れ”は消えていない。

「…千羽様、そこにおられますか?」

千羽様の祠を見て、聞いてみた。返事は、ない。けど、千羽様は存在していてきっと病院の方に行っているのだろうと勝手に解釈してあたしはスゥと息を吸い込んだ。
瞬間、あたしは妖怪の姿になる。

「…今は留守、か」

それはそれで都合がいいからまぁ気にしない。そのままあたしは祠へと近寄る。

「……オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ。オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ…」

小さな祠に手をかざして唱えるのは真言。薬師如来様の真言で、よく唱えられるもの。

「………」

自分の力を千羽様に送って、千羽様に力を渡す。これで千羽様の力になればいいんだけどなぁ…。

「…これくらい渡せばいいよね」

数分経って、かなりの力を与えたあたしは肩で息をするくらい疲れた。雨の中だし、しかも傘をさしていないからかなり寒い。傘差してすればよかった。

「…よし、帰ろう」

息を整らせて、くるりと祠を後にする。これから千羽様の信仰者が増えればいいんだけどな、なんて願いを込めて。

「……ん?」

ゆらり、と目の前で何かが落ちてきた。それは鳥の羽で、ゆらりゆらりと数枚あたしの頭上から落ちてきた。

「…鴉たちが、見回っているのかしら…?」

ふいに上を見上げた瞬間だった。

「っ!!?」

突然視界が真っ暗になった。じわじわと闇が襲い掛かるような速さで、あたしの瞳から光が失われた。

「っ、なに…これ…。…真っく、」

ドッ

「っ!!?……ぅ……」

何が起こったのか理解できないまま、あたしは誰かに鳩尾を食らわされてそのまま意識が遠のいた。けど、妖気からしてリクオ達じゃなかった。
嗚呼、これは…きっと…。

「…く、そ…狸…」

隠神刑部・玉章だった。
ごめんね、リクオ。お姉ちゃん、約束…守れなかったよ。

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