影と日の恋綴り | ナノ
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 邪魔になるから

「…え、っと…い…委員長…?」
「はい?どうかしましたか?」

ガラリと雰囲気を変えて、穏やかな雰囲気を纏ってリクオに返事をすれば、何故か青い顔で「何でもないよ!うん、何でもない!!」と、とてつもない大げさな誤魔化され方をされた。
…え、泣いてもいい?

「リクオ様、あの事を話さなくては…」
「ちょっ!?氷麗!此処じゃまだそう呼んじゃ駄目だよ!!」
「はぅわ!?し、失礼しました!!」
「………」

あたしの前で夫婦漫才するリクオと氷麗。いや、仲が良くていいと思うよ。もうこのまま結婚してもいいんじゃないの?って思っているんだけど…あたしの存在を忘れてる?

「あ、そうだった…。えっと、委員長?」
「はい、なんでしょうか?」

やっと、本題に入ったのかあんた等は。と内心思いつつも、リクオに答える。傍には氷麗があたしとリクオを見守っていて、屋上からはきっと燈影や首無や青や黒や毛倡妓や河童が見守っているのだろう。
ある意味、あたしを監視しているような感覚だよね。

「…昨日から、何も起こってない?」
「……昨日、とは…」

昨日といえば、土地神が襲われている日だよね?あたしって何かされたっけ?普通に家でのんびりと過ごしたよ?まぁ、ちょっと変なことがあったけど別に被害やらはなかったから気にしていないし…。
頭の中で考えていると、リクオが「商店街で…」と教えてくれた。
商店街…、といえばリクオが隠神刑部・玉章と対面する話…。そこであたしは何があった?なんて記憶に無いといえるほどバカじゃない。
彼に恐怖を覚えたのだった、あの狸に。

「…大丈夫でしたよ。何も無かったです、よ…」
「そっか…。良かった…」

一安心するリクオ。傍にいた氷麗もホッと一息ついて胸を下ろしてた。ちょっと、そんなに心配するようなことじゃなかったでしょーが。

「それでね、委員長」
「はい」
「…一人のときは、充分周りを警戒して。偶然だとしても、彼等は委員長を狙っていた。…警戒する価値は、あるから…」

真剣な顔で言うリクオ。氷麗もあたしの身を案じているような顔であたしを見ていた。
…あぁもう、あんた等があたしの心配をしなくていいのに。

「ご心配なく、奴良くん。これでも、護身術を習っていたので抵抗くらいは出来ますよ」
「ご、護身術を…?」
「はい。ようは彼等から逃げればいいのですよね?」
「ぇ、あ…うん…」
「だったら大丈夫ですよ。これでも、逃げ足だけは速いので」

前世で【逃げの緋真】と呼ばれたくらいだからね。フフフ…、あんな狸に捕まるものかっての。

「…あと、さ」
「はい?」

もう一つ、とリクオはあたしに聞いてきた。そんなに心配なのか、お姉ちゃんのことが。と、冗談を呟いていると、リクオはあたしの目をじっと見てきた。
真剣な眼差しで。

「…あの高校生が言ってた委員長の力って、何なのか分かる?」
「………」

嗚呼、あの狸の言葉ね…。

「…彼女の力を、知らないようだね」

あの狸が、リクオに聞こえるように言いやがってから…マジでふざけるなよ。大体、どうしてリクオ達には分からない力を、あんたが気付くんだ。あれか?裏で手を引いている山ん本か!?山ん本のせいなのか!!?
内心こんなにも狸に怒っているけど、此処であたしが自分の力をリクオに言えば…。

「…ごめんなさい。あたしにも、分からないの…」

確実に彼等に迷惑となって、邪魔になる。

「そっか。ごめんね、変なことを聞いて…」

あたしの返事に困った声で謝罪するリクオ。慌てて気にしないで、と彼を励ます。つか、あたしなんかの心配より、リクオはこれからの四国妖怪の襲撃に備えないといけないと思うんだけどな…。
昼も夜も活動しているから、お前は。

「あたしのことは大丈夫。それよりも、自分の事を心配して…」
「え……」
「…無理を、しないでね」

あたしが言えるのはこれくらいしかない。これくらいしか出来ないけど、心配してもいいよね?
だって、あたしは彼の姉なんだから。

「委員長、それってどういう、」
「遅くなってゴメンね!!リクオくん、緋真ちゃん!」

タイミングよく現れたのはカナさん。リクオの言葉はカナさんの謝罪で掻き消された為に聞こえる事はなかった。氷麗は何を思っているのかは分からないけど、彼女は彼女で何かを考えているのは確か。けど、氷麗はリクオの側近としているだけでいいのよ。
リクオだけを心配していればいいんだから。

「大丈夫ですよ、カナさん。さ、清継くん達の元に行って鳥居さんのお見舞いに行きましょう」
「うん!リクオくん、行こっ」
「え、あ、うん!行くよ氷麗!」
「は、はい!!」

カナさんの声にリクオが、リクオの声に氷麗が意識を戻してそのままあたしを筆頭に清継くん達のもとへ向かった。

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