▼ 袖モギ様
また一つの土地神が“畏れ”を失い消えた。
「……動き始めた、か」
夜。
四国の八十八鬼夜行の幹部と大将に会った夜から、浮世絵町内では異変が次々と起きていた。
すべては奴良組の地盤である土地神を襲う為。
「…早く気づいて、リクオ」
このままだと、奴良組は地盤である土地神から畏れを、全てを奪われてしまうから…!
コンコン
「っ!!?」
突然の訪問。誰だろうか、あたしの家を知っているのはごく僅か。それに、あたしは新聞もとってないし配達も頼まれていない。孤児院の院長先生はあたしの家に直接届けにくるし、来る前にはちゃんと連絡も入れてくれる。
誰があたしの家に訪問する?
「っ……」
傍にある棚の中にしまってある御札と数珠を取り出して、ゆっくりと玄関に歩み寄る
まずは覗いて見る。それで誰か知り合いとかだったらチェーンをつけて話そう。カナさんだったら中に入れよう。
知らない、怪しい奴だったら?
「………」
真言唱えて、御札使って、数珠を使って払おう。あたしに攻撃できない程度にさせて
ゆっくりと覗き窓から外を見る。
「………いない?」
そこには誰も居なかった。可笑しい、さっき確かにドアをノックした音が聞こえた。
気のせい…?
一応チェーンをかけてドアをあける。ガチャリとドアノブが開いてゆっくりとドアの隙間から外を覗いてみれば、
「…やっぱり、誰もいない」
チェーンを外して開けても誰もそこには存在せず、ただあたしが外を覗いているような光景だった。人の気配も、妖怪の気配もない、もぬけの殻状態で誰もいない。
「…気のせい、かな」
気が参っているだけなのだろう、と勝手に解釈してあたしはドアを閉めた。どうやらあたしの勘違いだったようで、リクオ達の安否を祈った。
***
「…え、鳥居さんのお見舞いですか?」
次の日、入院している鳥居さんお見舞いに誘われたあたし。そういえば、四国八十八鬼夜行が現れた日に、鳥居さんは土地神殺しのプロである袖モギ様に襲われたんだっけ?
あまり詳しい事を覚えてないから、うる憶え困ってしまう…。けど、確かに四国篇では鳥居さんが襲われるのは事実だった。
なんで憶えてないのかなぁ…
「緋真ちゃん、行かないの?」
「え、あ…」
考え事をしていたから気付かなかったけど、あたしの傍にはカナさんと氷麗とリクオが。
いかんいかん、何人と話している時に考え事をしてるんだあたしは…。
慌てながらも、あたしはカナさんに「行きますよ」と笑みを浮かべて答えた。途端に嬉しそうな顔をするカナさん。
ああもうなんで可愛いのだろうか…!?
「今から行くから、委員長は帰る支度は出来てるの?」
「はい。支度は出来ていますのであとは向かうだけですよ」
リクオに聞かれながら、席を立つ。カナさんは鞄を取りに行ってくると自分の教室に。氷麗とリクオはすでに持っているようだった。
本当に仲がいいね、とつい言いたくなる。
「清継くんと島くんは?」
「いつもの部屋にいるよ。緋真ちゃんを誘って来いって」
「……へぇ」
ほーう…あいつはリクオや氷麗やカナさんをパシりにするくらいに偉くなったというのか?いい度胸をしているじゃないか、ふざけるなよ。金持ちだからと全てが許されるわけじゃないんだぞ?いいご身分じゃねぇの、あ?リクオをパシりにするなどもってのほかじゃないか、舐めてんのかあのワカメ頭は。
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