▼ 七人同行
「ふぅ、なんとか鉢合わさずに帰れた…」
駅近く。
爺やとゆらさんと(勝手に)別れ、あたしは駅前の商店街近くへと着いた。すでに暗くなっていて、夕日が沈みかけていた。ふと、なにやら妖気が集まっているのに気がついた。何処からだろうか、とふいに気になって周りを見渡すと前方に集団が。
「あれは……」
その集団にはリクオがいて、その両サイドにはつららとカナさん、三人の背後には青、そして距離を置いて立っているのは首無たち。
何故、そんなところに?
ゆっくり歩いて窺ってみれば、リクオの前に男子高校生らしき人が二人立っていた。
「こんなに似ているんだから、僕と君は。若く才能にあふれ、血を…」
待って、この場面は…。
嫌な汗が背中を伝う。そうだった、爺やの場所でムチが襲撃すると同時刻にリクオの前にも現れるんだった。
「継いでいる」
隠神刑部・玉章が。
嗚呼、どうしてこんな場面に鉢合ってしまうのかなぁ。そう思ってくるりと、引き返そうと踵を返す。誰にもバレていないと思い、そのままはや歩きで帰ろうとした。しかし、
「ぁ、緋真ちゃん」
「……カナ、さん…」
なんで、あんたは気付くんだよコノヤロー…。おかげであたしは注目の的になったじゃねぇか!!!しかも、綺麗に玉章と犬神もこっちみてるじゃねぇかよぉぉお!!!!
そういう思いでカナさんを見ていると、
「……へぇ」
玉章はあたしの方を見て、何かを勘付いたのかゆっくりと口に弧を描いてあたしに近付いてきた。
は、なん…で…
「!!」
ゾクリ、と背筋が凍った。嫌な予感がしてたまらない。玉章にあたしの中の何かに気付かれて、それが嫌で仕方がない。そんな思いをつゆ知らず、玉章はあたしに近づく。
「…君…」
「ぁ、あの…」
寄るな。
近づくな。
来るな。
触るな。
玉章があたしに近付けば、あたしは一歩退く。それなのに、何故か距離は一定ではなく玉章があたしに近くなっている。
「…もしかして…」
ゆっくりと、あたしに向かって手を伸ばす。その手に捕まれば、何故かあたしは一生自由になれないような気がしてたまらない。
「い、いゃ…こない、で…」
目の前に玉章の手。
―――…嗚呼もう駄目、堕ちた。
パシッ
「!!」
「ぇ…」
「……」
乾いた音と、目の前に広がる影。あたしに伸ばされていた玉章の手が、誰かによって叩かれたのが、さっきの音で窺えた。周りが驚いているのは何故かすぐわかって、誰かがゆっくりと、呟いた。
「リ、クオ…様…?」
「………ぇ」
「…へぇ」
玉章は小さく笑い、感嘆の声を上げた。それよりもあたしはただ目を丸くすることしか出来なかった。どうしてリクオがあたしの前に立って玉章の手を払ってあたしを助けたのかが不思議でたまらなかった。
どうして?あたしを助ける意味なんてないでしょ?
「奴良、く…」
「…彼女になにをするつもりだ」
グイ、とあたしを自分のほうに寄せて玉章を睨みつけるリクオ。あたしだけ目を丸くしていることはなく、つららもカナさんも青も首無や毛倡妓や河童も、燈影も、リクオの行動に目を丸くしていた。
「…面白いね、君は…」
口を手で隠して何かを考える玉章。笑ったかと思えば、あたしとリクオを舐めるように見た。
「…彼女の力を、知らないようだね」
「っ!!?」
「……」
「ぇ…」
玉章の言葉に、動揺してしまった。それに気付いているのかいないかは分からないけど、リクオはあたしの方を見た。
どうして、アイツが知っている?
気付いている?
気付かれた?
そんなにただ漏れしていたのか?
霊力を隠すのが下手すぎたのか?
頭の中では色々な疑問が浮かんでは消えの繰り返して、どうすればいいのか全く分からなかった。
「…まぁいい。見てて…僕がたくさん“畏れ”を集めるから」
くるりとあたしたちに背を向けて去っていく玉章。けど、彼の視線は未だにあたしのほうをさしていて…油断できなかった。
けど、カナさんの悲鳴が聞こえ前を見てみればそこには…。
「っ…」
「な…!!」
「何よ…アレ…。今まで…あんなのいなかったのに…」
怖がり始めるカナさん。それもそうだ、さっきまで玉章と犬神の周りには誰も居なかったのに、今見れば存在しているのだから。
『七人同行』が。
「やれるよ…。僕等はこの地を奪う。昇ってゆくのは………僕等だよ」
その言葉を最後に、玉章たちは消えていった。
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