影と日の恋綴り | ナノ
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 陰陽師娘の独白

(ゆらside)

「あぁ、緋真ちゃん行ってもうた…」
「…なぁ、お嬢ちゃんや」
「?何や、おじいさん」

緋真ちゃんは私の声を聞かずに、早々と去って行ってしもうた。
私、なんか嫌なことでもしたんやろうか、って思ってしまいいっきに空気が重く感じた。けど、そんなあたしに奴良くんのおじいさんは声を掛けた。振り返りながら、何のようだと聞いてみれば、おじいさんは真剣な顔つきをしとった。
え、ど、どないしたん!?

「…さっきの子は、“緋真”と言っておったの?」
「せ、せやで。あの子は藤堂緋真。私と同じクラスや」
「…緋真……」

神妙な顔つきで、何かを考えるおじいさん。なんでそないに緋真ちゃんのことを気にかけるんや?別に奴良くんのおじいちゃんは緋真ちゃんと関わりがないはずやのに…。
そう思っていると、ふいにあたしも何故か不思議に彼女の事を考えてしまった。

「……」

緋真ちゃんは、初めて会ったときから不思議な子やと思っとった。
年相応、ではなく中学生にしては考え方も行動も大人びとってあたし等にどこか一線おいて話しているように思えた。
奴良くんの屋敷で常識について説教された時。あたしらみたいに好奇心旺盛でもなく、理性をちゃんと持ってる姿は、年上のお姉さん同然や。竜二兄ちゃんみたいにいじわるやないけど、ちゃんと理にかなっている説教で。
奴良くんの屋敷の帰りに窮鼠に出くわした時。
あの時の緋真ちゃんは何者なんやってホンマに思えた。
あの子が小さく呟いていたのはまさに真言の呪文。
窮鼠の手下がオンなんたら、って言うとったって言葉にピンときた。オンから始めるんは真言だけ。
それやったら辻褄がよぅ合う。それに、あの妖怪に対してのあの度胸さ。あれは、妖怪に見慣れていたっていう感じやった。普通なら、家長さんのように悲鳴を上げて恐れる。
けど、緋真ちゃんは恐れることもなく窮鼠に喧嘩を売りおった。良く言えば肝が据わっとる、悪く言えば怖いもの知らずや。
窮鼠が倒されたあと、緋真ちゃんは何処にも居らず妖怪に喰われたんかと思ってそう思うたけど、彼女は家で療養中やって担任から聞いた。
心底安心したのは他でもなかった。
GWの捩眼山ではもっと不思議な存在やと認識してしもうた。
牛鬼や色んな妖怪がおる中、夜の散歩に行ったりと危ない行動もする女の子。家長さんが及川さんと一緒に戻ってきたのも驚いたけど、無事な姿で帰ってきた緋真ちゃんには目を見張った。
それからは、なんや、目が離せれん子と認識してもうた。
そして、優しい子って認識した。

「…あんた、なんでスーパーのタイムセールに居ったんじゃ?」
「え!?あ、その…」

ふと、おじいさんはあたしに聞いてきた。いきなり聞いてきたから驚いたやないか!!と、内心毒吐いて、答えた

「私、陰陽師として東京に派遣されたんです。修行する為に、此処に…」

私の言葉から始まって、いつの間にやら緋真ちゃんについて考えとった思考は消えとった。

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